見出し画像

現実的に架空蒸気機関車!仮称D53(改善編)

以前書いた「D53形」の記事であるが、その後設計に問題があることに気づいたので、「D53基本編」と「D53運用編」の間に挟む記事として、「改善編」を書くことにした。

基本編はこちら↓

致命的な問題

私には絵心というものはまったくないのであるが、D53はどんな見た目をしているのだろうかと気になったので、簡単な絵を描いてみた。
すると、数字を見ていただけではわからなかった致命的な問題があることが発覚した。

D52・C62の寸法を参考に車輪(動輪径1600mm、先従輪径860mm)を配置し、D52・C62と同型のボイラー(内径1846mm、長さ5000mm)を載せてみたところ、

明らかにボイラーの長さが足りない!

誤算の原因は
・動輪と動輪の間の隙間がイメージより広かったこと(フランジとブレーキが入るスペースが必要だった)
・先輪もイメージより大きかったこと(直径600mmくらいだと思っていた)
の2つである。

C62の動輪間(筆者撮影)
鉄道車両の車輪には脱線しないよう内側にでっぱり(フランジ)があるので、動輪と動輪を詰めて配置することはできない。
また、動輪ごとにブレーキや、すべり止め用の砂撒き管(写真上から延びる銅パイプ)を設置するスペースも必要である。
D52・C62ともに動輪間のスペースは15cm程度である。

単純にボイラーを伸ばせばよいのかというと、そうではない。D52のボイラーは、最も高い効率が得られる長さに設定されているのだ。それに、ボイラーは内部の高圧(D52の場合は16気圧)に耐えるために分厚い鉄板で作られていて、その上内部には水が詰まっているので非常に重い。太さをそのままに長さを伸ばせば重量オーバーになるだろう。

まずボイラーを伸ばす方向で考えてみる。
・D52のボイラーより少し細くて長いC59戦後型のボイラーを用いる
・ボイラーを少しでも前に配置するためにC62並の高重心を許容する。
・第2先輪と動輪の距離を縮める。
しかし、これでも1m程度長さが足りないという結果となった。

やはり4軸動輪に2軸先輪は無理があったのだろうか…

D53をまともな姿にするため、やむなく設計を変更することとした。

先輪を1軸に減らし、軸重15トンを維持するため、代わりに従輪を2軸に増やす。これにより2-8-4のバークシャー配置となる。

その結果の姿はこちらである。

だいぶまともな姿になったが、その代わり高速走行に必要な2軸先輪が失われてしまった。

先輪問題への対処

先輪については、2つの解決策が考えられる。

案その1 心向キ台車
第一の解決策となる機構は、大正期の旅客用機関車8620形が使用している「心向キ台車」である。

最近映画にも出演し、話題の8620形 写真は青梅鉄道公園で保存されているトップナンバー8620号(筆者撮影)

8620は、先輪を1軸しか備えていないもかかわらず、2軸先輪機並の曲線通過性能を持っている。
実は8620の先輪と一番前の動輪は「心向キ棒」と呼ばれる棒で連結されており、連動するようになっている。
例えば、先輪が右に曲がると、先輪と動輪の間にある支点を中心に心向キ棒が回転し、一番前の動輪は左に動く。
このとき動輪の向きは変わらず、二番目以降の動輪と平行を保ったまま位置だけが移動する。
こうすることで、動輪が動かない場合より先輪の回転角を小さくできる。
この機構は考案者である島安次郎氏の名から「島式先台車」とも称される(機関車自体の設計は島氏ではない)が、優れた効果を有するにもかかわらず、
・通常の先台車より構造が複雑
・一番前の動輪が摩耗しやすくなる
・設備の改良により機関車の大型化が可能となり、先輪を減らしてまで全長を縮める必要がない期間が続いた
等の理由により、8620以降は顧みられることがなかった。
D53でこれを復活させれば、高速運転が可能になるだろう。

※ 2021年1月 心向キ台車の動作機構についての記述を修正

案その2 キャブ・フォワード

「心向キ台車」は魅力的ではあるが、D53は8620よりはるかに大型であるので、8620のようにうまく作動するかは疑問が残る。

もっとよい解決策はないだろうか。

逆に考えるんだ
「後向きに走ればいいさ」と考えるんだ

そうだ。従輪が2軸あるではないか。
後向きに走れば、先輪が2軸あるのと同じだ。

このような、普通の蒸気機関車とは逆方向に走るよう設計された機関車を「キャブ・フォワード(運転室が前の)機関車」という。
アメリカ・サザンパシフィック鉄道のものが最も有名だろうか。

サザンパシフィック鉄道のキャブ・フォワード機関車4030号(パブリックドメイン)
写真手前側が機関車前面である。
機関車の直後に連結されているかまぼこ型の車両はテンダであり、燃料と水が積まれている。燃料が石炭では前面の運転室まで運ぶことができないので、燃料は重油を使用し、パイプで焚口まで運ぶ。

キャブ・フォワード機関車の優れた点は、運転室が煙突より前にあるので、トンネルの多い路線でも機関士が煙に巻かれることなく運転できることである。
トンネルの多い路線があちこちにある日本では、キャブ・フォワード機関車が活躍できる素地がある。
また、D53には重心が後寄りという問題があったが、これも解除できる。

問題点としては、
・燃料が石炭ではなく重油であるので、重油取扱設備のある線区でしか運用できないこと
・機関士は焚口に背を向けて運転するので、機関士の背中が燃えないよう、運転室を広く取る必要があること
・重油パイプが動輪の上を通るので、重油が漏れるとスリップすること

くらいだろうか。

改善の結果

D53の改善の結果、2種類の機関車が誕生した。

先輪1軸、心向キ台車を搭載した新D53。
先輪の減少により重心問題も改善し、機関車長の短縮により炭水車の大型化を実現。
少しの整備性と曲線通過性能の低下と引き換えに「基本編」で取り上げた問題を概ね解決した。
外観は、ボイラーとその中心高さが同じなので、前から見るとC62とほとんど変わらない。
横から見ると動輪径が大きい分、同じ軸配置のD62(D52の従輪増設改造型)に比べスマートに見えるだろう。

前後を逆転したキャブ・フォワード機関車。こちらはあまりにも見た目が変わっているので、新たにD54と命名する。
こちらは重心問題・煤煙問題を完全に解決しているが、機関車長は改良前とさほど変わらず、航続距離の問題は残っている。

「運用編」で登場するD53は、この新D53であると考えてほしい。

運用編はこちら↓

参考資料

D52・C62の各部寸法については、こちらのサイト掲載の形式図を参考とした。

http://c5557.kiteki.jp/html/D52235.htm
http://galaxyrailway.com/C62/outline/C62.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?