老人。

老人がいた。
吊革につかまり、あるいは棒に掴まり、ようようと揺れている。
やせ細った体躯。
しかし姿勢は安定していた。
右手に鞄。
傘は壁に立てかけてある。

その老人はふらりと電車の中に入ってきた。
ふらふらと車内を歩いた後、入り口ドア付近の棒につかまって場所を落ち着けた。

彼の視線だろうか。
その杓子のように曲がった体躯だろうか。
異様な雰囲気が漂う。

しかしその灰色のズボンが。
洒落た縞シャツが。
そして、老人の身体を伝うそれをオマージュしたかのような年季の入ったベルトのしわが。
他を寄せ付けぬ渋さを。
カッコ良さを醸し出していた。


その精悍な顔つきに憧れた。
人の持つ顔つきや雰囲気は、人生に刻まれ、貫くことは容易ではない。
歳を重ねることは、容易なようで重い。

だが、重いが故に、生き抜く姿勢は尊い。
老人に想いを馳せるは、己の生き様だ。




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