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詩) 眠る本

   眠る本

一読の後
再び開くことなく
鞄の奥底に忍ばせた1冊の本
そのときから―――
潮が満ちるように、次第に
大気のゆらめきが感触を授け
僕自身の孤独が視線に宿り
あらゆる事物が息づき始め
僕の観察を受け入れるようになったのだ

   再び?

言葉は本当に無力なのだろうか
そのことを確かめたかった
生活は整然と並べられるべきだろうか
ただの社会的規範というだけの意味だけでなく…
感覚というものは受動的なものだろうか
そしてそれは浸透を欲するものなのか
それとも固定を欲するものなのか
この世界は色彩に満ちていると言えるのか
点描によって全てを表現することは可能なのか

   気まぐれな生

多様性に満ちた世界を作り出そうと
次々と類似に類似を重ねる者たちとはおさらばだ

   僕の手元には一冊の本が眠り
   黙って問いかける
   再び開くことはない本が眠っている

          (2003.9.26)

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