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詩) 渡河

   渡河

時計が動き始めます
   前へ
   前へ
動作が回転を始めます
   跳べ
   跳べ

冬の日差しの薄さが
記憶の肌を流れるように風を呼び寄せる
このそよぐような冷たい微風は
あらわになった花芯の色を
その日差しの中で燃やそうとする

目覚めようとしているのです
感情は映像の中に目覚めようとしているのです
我々の創造物が我々に従属せず
自らの視線を遠くに向け始めたとき
それらは水面や鏡のようなものに映し出され
ひとりで佇む「我(われ)」として感情を持つのです

なぜ傷だらけの透明なアクリル板に写ると
それは静かに受け容れることができるのか―――
その謎を解き明かしてみたい

ヴェランダの、氷のように冷たい手摺に掌を置き
私が眺めているのは現在ではない

ある秘密の想いが満ちはじめようとしています
   跳べ
   跳べ

          (2004.1.9)

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