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詩) 存在

   存在

雲の上の空は確かに
地上から見るよりもずっと青く
雲の上から見下ろす街は確かに
そこに住んでいた時よりもずっと親しげで

僕は多くのものを置き去りにしてきた
そして今は
生きることを憐れんでいる

南風が窓のカーテンを揺らすのも
母親が洗濯物を乾すのも
友人たちが暇を持て余しているのも
今はよく見える

僕が僕であった時よりも
ずっとよく見える
僕が僕でありすぎたこと―――
そのことがよくわかる

僕は多くのものを置き去りにしてきた―――
残された者たちに
今は告げたいと思う―――
この景色を

僕は今、ひとりだ
けれども、もはや僕というひとりではない
大気という僕なのです
だから、ひとりではないのです

ああ
地上に生きる者たちよ
僕は新たな使命を負った者である

顫える草
繋がれた掌
打ち寄せる細波
それらを告げ知らせること

あなたがたの純粋な夢の城の周囲に堀をめぐらせ
攻め入ろうとする「演算」を防ぐこと

あなたがたは思い出すだろう
折に触れて見上げるだろう
自らに備わった五感をあげて
大気のあることを

          (2007.6.17)

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