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Radio Dinosaur #08


ぼくはドキドキしながら水車小屋の扉が開くのを待った
中は真っ暗だった

女の子はうっすらを光のさす窓ぎわに近づき、ボロボロのカーテンを少しだけ開けると、水車小屋の中はぱっと明るくなった

古い木製のテーブルの上には、レコードプレイヤーが置いてあった
ぼくはそわそわした
子どもだけで触ってもいいレコードプレイヤーがあるなんて


「なにか音楽かけてあげる」女の子は棚から、とっておきの数枚のレコードの中から一枚を選び、両手でおごそかに持ってきた
レコードに指紋がつかないように、パッケージからそっと取り出す
次にターンテーブルの上にレコードを静かに置く
レコードが回りだす
そしてレコードの上にそっとレコード針を乗せる
ごく。息をのむ作業だ
ぼくは彼女の作業を息を飲みながら見守った


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音楽が鳴りだした
なんていう曲かは知らない、ただとても古いジャズ音楽だということはわかった
ぼくはこの曲で女の子と踊れたらいいのにと思った
踊ったことなんかなかったし、それにぼくはまだ子どもだ、レコードを触ったこともない子どもだ、とても彼女のことをダンスになんて誘えない

女の子はたぶん、1人で何度もこの曲を聴いているのだろう
曲にあわせてスイングしながら鼻歌を歌ったりしていた

「お菓子食べる?」女の子が言った
「うん」ぼくは遠慮せずに言った
もう少しここでこんな風に過ごしていたかった

女の子は可愛い絵のクッキー缶を取り出して、蓋を開けた
中にはビスケットが数枚とキャンディー、それと銀紙に包まれた食べかけのチョコレート

ぼくたちはレコードを聴きながらお菓子を食べた
まるで2人で暮らしはじめた小さな家のような錯覚があった



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しばらくすると
女の子がテーブルの下を覗いて「もういいよ、出ておいで」と言った
「下に何があるの」とぼくはテーブルの下を覗いた

テーブルの下には見たことがない小さなトカゲのような生き物がいた
「おいで」女の子はそのトカゲを呼ぶと
トカゲはよちよちと這って歩いてきた
まだ子どもなのだろうか、ちょっと警戒してるようだった
「大丈夫だよ、この人は味方だよ」女の子はトカゲを抱きあげた

トカゲは大きな目でぼくを見る
ふんふんと匂いをかぐような仕草で、ぼくが味方かどうか確認してるようだった

ぼくはちょっと勇気を出してこのトカゲを触ってみていいかと言った
女の子からトカゲを受け取ると、意外とずしりと重たかった
人間の赤ちゃんくらいの重さだろうか、お腹のあたりが温かい
しかもよく見ると腕のあたりに何かコウモリの翼のような膜がある
クチバシみたいな口をして、大きな目、なんなんだこの生き物は?こんなの図鑑で見たことがあったっけ

ぼくの考えを読んだのか、女の子が言った
「誰にも言っちゃっダメだよ、この子は未確認動物なんだ、誰も知らない生き物なんだ」

トカゲはくーんと鳴いて、ぼくの脇の下あたりにクチバシをつっこんだ。甘えているのだろう、そのまま眠ってしまった

彼女はいたずらっ子みたいな顔で、目をクリクリさせて言った
「ね、可愛いでしょ。誰にも内緒でここで飼ってるの」

「わかった、つまりこの子のことは君とぼくの秘密ってこと」
そう言うと女の子は嬉しそうににっこりと微笑んだ
そして新しい曲を選びに棚の方へ歩いていった

ぼくはこの瞬間、友だちができたと確信した
ぼくと、女の子と腕の中の変なトカゲ
それならば、ぼくたちは友だちの約束をするべきだ

そうだ、自己紹介だ。この女の子の名前を聞かなくては
「そういえばさ、君なんて名前なの」

彼女は振り返りながら、横顔で自分の名前を言った

そうだ
彼女は確かにあの時、自分の名前を名乗ったんだ
でもどうしても思い出せない

すべての思い出はカラーで覚えているのに
彼女が振り返りながら、自分の名前を言った口の動き
そこだけがなぜかモノクロームの思い出だった

ぼくの回想はそこでストップした






to be continued


※これは私が高校生のころ、昼寝をしていて見た夢の中の物語です
主人公は高校生くらいの男の子で、レトロな世界観でした
この男の子の目線で夢物語は展開しました
へんな話しで今でもその光景を思い出せます
起きてすぐにメモをとり
これまた長い長い間かかって文章にまとめたのですが
それが今頃になって出て来たのでアップしてみました
乱文、散文はお許し下さい
しかも続きも気まぐれにアップするつもりなので合わせてお許し下さい^^;
【写真】菜嶌えちか LOMO LC-A+ クロスプロセス


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