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詩) 城

   城

嘆息を連ねる果てしなき海原を三方に
切り立つ崖上
髪をなでる風に血管を切られ
横たはる
面影さえも失ってしまった
この俺から精気を吸い取る
お前は一体何処に居るのか

薄雲から注ぐ数条の光線も
厭わしい世界の茫漠さを思い知らせ
ああ、かつて広さは二人のものであった
風にむせぶ抒情の笛の音とても
今は寂漠の中に孤独をいたぶり―――
ああ、かつて静寂は愛する場であった
全てが絶望の中に己が力を捨て去ってゆく

倦怠のうちに波が崖下を洗い
広大な風景の唯中に私は閉ざされ
舌にしみ入る乳酸にのみ生命を浸し
巨大な車輪が天空を横切り
香りのない花園の向こうに雲があり
さらにまたその彼方に弧峰が浮かび
全ては水で薄められて滲んでいる

          (1984.12.30)

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