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小西康陽-東京丸の内と「世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。」

 2023年8月23日、丸の内コットンクラブで小西さんのライブに参加しました。その様子はこんな感じで、僕としても改めて小西さんを追いかけてきて良かったと実感する楽しいライブでした。
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ライブを楽しみながら久しぶりに色んなことを考えたのでつらつらと書いてみる(そういうことになるライブは自分にとって素晴らしいライブだ)。
 今の小西さんはポストPizzicato Oneというかシンガーソングライター小西康陽という活動をしている(わかりづらいか(笑))。僕がそれを認識したのは2021年6月の旧グッゲンハイム邸でのイベントだった。小西さんは1人でギターを弾き語った。何度も間違えたり止まったり演り直したり。それは今まで演奏に於いてはスタイリッシュでありつづけた小西音楽からはかなり異質で僕は正直素直に受け取りづらいものではあった。でもその後何回も観させてもらってきている内にその楽しさを必ず口にする小西さんを目の当たりにし、いつしかこれも唯一無にの芸かもな、と思う様になった。なんと言っても作曲者本人がむき出しで歌ってるのだから、多分これ以上に正直な姿はないだろう。
 そして併せてというかもう一方の楽しみは小西さんのお喋りなのだ。場所によっては半分お喋りだった時もあったりで(笑)。それが僕にとってベストライブだったりで(笑)。
まずは弾き語るピチカートの楽曲ができた時のお話。「東京は夜の7時」ってこんな状況で出来て、この歌詞は実はこんな意味で。今回のライブだったら「君になりたい」のこととか。リアルタイムでは想像してなかったことで、という感じの感想は当たり前すぎ。僕は改めて小西さんの楽曲って映画のあるシーンを綺麗に切り取ったピンナップみたいなものだったんだ、と気づいたのが個人的に最も嬉しいことかも。映像的だけど物語度は低いというか。当時は信藤さんのアートワークと一体化していたから(時にはズレながらも。それも最高)、あり得ないほどキャッチーだったんだと思う。小西さんは「この曲ってこのことしか言ってないんですよ、もうこれだけでね」といつも言っている。
そして、ボツになった曲とか企画とか使えなかった歌詞とか。「ヒッピーデイ」のAメロの歌詞の話(これはイベントだったか)とかこの辺は聞けただけで嬉しくなって帰った。「笑うだけならタダだから」の理由です。
もう一つ。ここ数年沢山の方が亡くなっているけど、ライブの度にそのアーティストのこと、裏話、言えない話なんかを愛をもって話してくれた。それは全て個人的で雑誌の追悼文みたいに体裁を気にする様なものではなかった。
 昨年末の矢舟テツロートリオとの町田まほろ座でのライブの時だったと思うけど(ソロではない)、こんな話をしてくれた。「昔ピチカート・ファイヴで「Bellissima!」というアルバムを作ったんだけど、発売直後に青山のパイドパイパーハウスで偶然細野晴臣さんに会ったんです。その時、細野さんの顔をみた時、ああ、僕は失敗作を作ってしまった、って思ったんです。何と言うかユーモアのない暗いアルバムを。」
僕こういう人なのですが、

この時のパイドのあのレコード棚が鮮明にフラッシュバックしつつ、極めて「Bellissima!」の本質を、その特異性を教えてもらった気がした(本人の話だから当たり前か(笑))。
今思うと、この頃「矢舟テツロー、ベリッシマを歌う(仮)」の企画が進んでいたからこの話が出たんだな、と思うけど、丸の内コットンクラブで突然発表された夢の様な話、小西さんなりのリベンジの思いがあるのかもしれない。11月の発売が待てません。

そんな感じでここ数年の小西さんを思い出しながらライブを観ていたのですが、もう一つ小西さんのいつかのMCで、大学時代に知り合いの女の子に「あなたは絶対社会人になれない、世の中でまともに生きていけない」って断言されてたんです。というお話を思い出していた。言葉を選ばずに言えばレコードと映画の異常なオタクだったし、金銭感覚もおかしかったんだろうし、「普通」から一番遠い人だったのかもしれないと思う。ピチカートのデビューから見ている小西さん、ずっと何か変だった(笑)。ブレイクして、ステージが上がって広がって、まともな振る舞いをする様になったなと思っていたし、今はそんな時代も振り返られる穏やかなおじいさんになっていると思う。でも当時も今も自分が好きなこと、美しいと思うこと、面白いと思うことだけを続けてきた人。だから誰とも同じではない、小西康陽という唯一の存在を手にしているんだと。


 Bar Bossaの林さんの新作のゲラをいただくことができて、2回ほど読んだ後で、その印象が頭の片隅にある中でライブを観ていた。林さんに出会ってから影響を受けて詩を書いたり、文章を書いたりすることが子供の時以来久しぶりに楽しくなった時期があった。林さんの文章では、時々出てくる「ファンタジー」が大好きだった。お店に伺ってお話しする度に「ファンタジー小説をお願いします」と言い続けてきた。本当に好きなことを、やりたいことを出来て、それが世の中にでるということ、それを実現できる人は極めて限られている。林さんがやっとたどり着いたこの小説は読む人の心に優しく、微かに、そっと人の暖かさを届けてくれる。みんなの手に渡るころは秋、どんな秋がこの小説を運んでくれるのだろうか。


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