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生きづらさを抱える人にオードリーの若林さんの新著を。

オードリーの若林さんの新作エッセイ「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」を読んで、希望と絶望が同時に押し寄せてきた。

この本は、彼がキューバ、モンゴル、アイスランドについて書いた紀行文だ。「すべらない話」を聞いているかのような面白さ、時折出る人間くささ、そしてハッとさせられる含蓄のある名言がミックスされた最高の文章たちで綴られている。

そして、「生きづらさを抱える人」への手紙でもある。

キューバは彼にとって初めての一人で訪れる異国だった。その理由は大学院生の家庭教師が教えてくれた「新自由主義」とは大局にある国を見たいから。

新自由主義とは、「政府の積極的な民間介入に反対するとともに、古典的なレッセ・フェール(自由放任主義)をも排し、資本主義下の自由競争秩序を重んじる立場および考え方(『大辞林 第三版』より)」のことだ。

ちょうど彼が旅行を決めたころ、キューバとアメリカは国交が回復し、クラッシックカーが走り、ホテル以外ではwifiがつながらないような状況が変わりはじめていた。

なぜ、その必要があったのか。

それは、「新自由主義」というシステムが彼にとって「生きづらさ」を生み出す呪いだったから。呪いのない国に行くことで、自分の価値観がどう変わるのか、それを見定めるためだった。(他の二国も「定住しない国」、「自然にさらされた国」という日本とは異なる環境を経験するためだった)

本を読み終えて、まずどうしようもない絶望感に襲われた。

「新自由主義」のルールで頑張ろうとする限りは、自分の様な人間は一定の「生きづらさ」とからは、どうにも逃れられそうにないという事実を突きつけられたからだ。

自分の様な人間とはどんな人間か。彼は、こんな的確に言葉で表現している。

少数派のくせに繊細で、出る杭のくせに打たれ弱くて、口が悪いのにナイーブで、それなのに多数派に賛成できない

競争は苦手だ。自分のことを顧みずガンガン競い合えたら良かったのだけど、なかなかそうはいかなかった。

豆腐メンタルを強くしようと、自分の認知を変えようと努力もしているけど、一晩寝て起きて変わっているほど簡単じゃない。

彼の言葉を借りれば、自分は「内面ばかり覗き込んでいる」人だ。そりゃあ、常に外に目を向けて、自己肯定感も高くて、今のルールの上でうまく生きれる人間性であれば良かったし、そうでありたかったと何度も思った。

でも、難しかった。ルールから外れるか、新しいルールを作るかしないと、ずっと「生きづらさ」を抱えていくのだろう。

「生きづらさ」を抱える人の存在は、今の時代に限った話じゃない。違う時代に生まれれば、違う時代の生きづらさがある。例えば、古代ギリシア世界で最強の重装歩兵軍を誇ったスパルタが繁栄していた時代に生まれていたら、今の僕の体型であれば即刻使い物にならない兵士として死んでいただろうし(それを生きづらさと捉えているのかわからないけど)、もっと血縁や身分が尊重される時代に生まれていたら、中産階級の家に生まれている自分はやっぱり生きづらいなぁって思っていただろう。

自分はたまたま今の時代だと生きづらい部類として育ってきた。そして、若林さんも、生きづらい部類として育ってきた。

三つの紀行文が終わった後に、彼はなぜ自分が「新自由主義」の中で生きづらかったのかを蕩々と述べている。

そんな中で彼が見つけた「生きづらさ」を打開する方法は「血の通った関係と没頭」に巡り会うことだった。

苦しみから逃れようと寄り道をたくさんした。その寄り道の先で、"血の通った関係や、勝ち負けが届かない次元にある仕事や趣味"に出会ったのだ。真っ直ぐに歩いていたら、そのどれとも出逢えなかっただろう。

これが希望だ。自らを「生きづらい」と称する彼が生き続けていること。そして、逃げて、寄り道しまくっていれば、生きづらさの中にも生きる喜びを見いだせること。

それに気づかせてくれたのは、過去の俺の著書を読んだ血が通った関係の人からの感想だった。「いっぱい悩んで生きてくれてありがとう」「これからもたくさん悩んで生きてください。それが、私を生かすから」

悩んで悩んで生きていること、それ自体が誰かの救いとなっていると彼は気づいた。

だから自分も、生きづらさを抱えているあなたに、「生きづらさを抱えて生きていること自体が、同じ誰かの希望になる」と思ってもらえたらと思って、このnoteを書いた。

もちろん、このnoteを読んだだけで、明日から超ポジティブになるわけではない。この文章自体も押しつけかもしれない。でも、若林さんから自分が希望をもらったように、誰かにこの思いを伝えたかった。

もし、気が向いたら「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」を手に取って見てください。DJ松永の解説も最高ですから。


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