美味しいワインにはストーリーがある
こんにちは。エノテカnote編集部です。
今回はインタビューを通し、ワインを愛してやまないワインラヴァーのパーソナリティを掘り下げていきたいと思います。
記念すべき第一回はエノテカ創業者であり、現会長の廣瀬恭久です。
エノテカが1988年に創業して30年以上が経ち、日本のワインを取り巻く環境も大きく変わってきました。
創業時の想いから、日本におけるこの30年のワインの在り方の変化やワインの選び方まで、これまであまり語られていない、会長・廣瀬の原点を中心に、話を訊きました。
ひとつひとつにこだわりを持つ
-エノテカの一号店は89年、東京・広尾にオープンしましたが、当時、一人当たりの年間ワイン消費量はわずかボトル1本でした。そんな環境の中で、なぜ、ワインショップを立ち上げたんでしょうか?(2018年には日本のワイン消費量は一人当たり4本となり、この30年で3倍以上に拡大)
もともとは、こんなに美味しいお酒があるんだから、これを日本の方にも知ってほしいという想いで、エノテカを創業しました。
ビジネスをやる上で、こんなに美味しいモノがあるのに、広めない理由はなかったわけです。世界では当たり前のようにワインが飲まれていましたし、パリ、ロンドン、ニューヨークと同じような形で日本でもワインが飲まれるといいなと思いました。
あと、前職が半導体の部品メーカーでしたので、エンドユーザーの人たちと直接コミュニケーションを取れる仕事がしたいと思っていました。当時はインポーターになって、卸をするという発想はなく、ショップを立ち上げることしか考えていませんでした。
デザインやインテリアにも興味がありましたし、ショップを通じてワインをプレゼンテーションすることで、美味しいワインを知ってほしかったのがきっかけですね。
-創業時、エノテカが将来的にこうなっていたい!という遠い未来のゴールはありましたか?
ゴールは持っていませんでした。ただ、妥協したくない、この想いだけでした。ワインの品揃えにしても、ショップのデザインにしてもサービスや接客においても、すべてそうです。
ワインを売るだけではなく、ワインにこだわりを持つのであれば、それ以外のすべてのことにもこだわって、“本物”を追究しなければいけないと思いました。
取り扱うワインは美味しいのが当たり前だし、サービスも接客もプロであるべき。そういうことの積み重ねがブランドになっていくと、それだけを意識していました。
-そのひとつひとつの「こだわり」が積み重なって、今のブランドになったわけですね。
そのこだわりが今のブランドを築いているかどうかは分かりませんが、そうしたいなと思っていますし、これからもそうあるべきだと思っています。
エノテカは、ワインのセレクトはもちろん、サービスも接客もデザインなどすべてにおいて、とにかく妥協することなく、自分たちが何を伝えたいのかを、しっかりと表現していくべきです。
ワイン選びはシンプルに考える
-30年が経ち、日本を取り巻くワイン環境が大きく変化したという実感はありますか?
やっぱり、ワインが家庭の食卓や人の集まりに、欠かせないお酒になってきているというのが一番大きい変化ですね。当時ではまず見られない光景でしたので。
あとは、ランチの時にグラスでスパークリングワインを飲んでいる女性の姿を見かけますし、それから、フレンチ、イタリアン、中華料理に日本料理と、どこに行ってもワインが置いてありますよね。
30年経って、それだけワインが生活の中に入ってきているんだなと実感します。
-ここ30年でワインの楽しみ方の変化についてはどうお考えですか?
色んなことにこだわらない方がいいと思います。僕が言うとアレですが、有機、ビオ、ナチュラルワイン、タイトル、評価とか、本来はそういうことにはこだわらない方がいいんです。
自分の感性で「美味しい」か「美味しくないか」…これだけです。
美味しければいいのに、みんなそれを忘れてしまうことがある。ワインに関しては、シンプルに考えた方が絶対にいいと思うし、本来、ワインに携わる僕らもそうあるべきです。
もちろん、生産者のストーリーや想いも大事だけど、やっぱり、僕らにとって大事なのは、「美味しいワイン」を届けることなんです。大前提として、「美味しい」ということがあって、初めて生産者の想いやワイン造りに対する姿勢が結果的にストーリーになっていくんじゃないかと。
僕らは「美味しいワイン」を紹介できることが一番大事なことであって、ワインラヴァーが驚くようなモノを届けていかなきゃいけないんです。
-ちなみに廣瀬会長がワインを探すときはどのように探されるんですか?
僕は、出張で現地のレストランやワインショップに行き、ソムリエに自分の好きなワインの説明をして、そのソムリエが薦めるワインを試します。
選び方はそれでいいと思いますよ。だから、スタッフにも海外に行ったら、必ずワインショップに行ってほしいと言っているんです。
海外に行くとショップやソムリエの紹介で新しい生産者を知って、そこに僕たちがアタックしていく。やっぱり偶然の出会いは楽しいですね。
ピエモンテの生産者である「カヴァロット」もワインショップで紹介してもらいましたが、最初は話も聞いてもらえませんでした。でも、何年もアプローチをかけ続けることで、取り扱えることになりました。
自分の好みを言って、誰かから紹介してもらうこともあるし、ワインとの出会いは色んなケースがありますね。だからこそ、色んなワインを飲んで自分が美味しいという基準を持つことが大事だと思います。
好みの変化は成長の証
-ワインを取り巻く環境がかつてと比べて格段に良くなっている今、皆さんにどのようにワインを楽しんでほしいですか?
繰り返しになりますが、自分が飲んで「美味しい」か「美味しくないか」で判断してほしいということですね。
造り方や評価、タイトルとか、あまりそういうものにこだわる必要はありません。
美味しいものは絶対に残っていきます。
これだけ情報が飛び交っている中で迷わないためには、自分が美味しいと思えるか?自分にとって何が大事か?という基準を持って選んでほしいです。そして、それをお手伝いするためにワインのプロがいるので。
もちろん、好みは変わってくるので、それは否定しないですし、変わっていいと思います。何故かというとそれは成長しているということですから。ただ、今の自分にとって何が美味しいのか?何に価値があるのか?を持っていてほしいですね。
-ありがとうございました。
話を訊いていく中で特に印象に残ったのは、「ストーリーを語るのではなく、美味しいワインを届ける」ということ。
やっぱり、僕たちは美味しいワインをお客様に喜んでもらうことを第一に考えて、その結果として生まれたストーリーに共感してもらわなければいけません。
美味しいワインだからこそ、そこにストーリーが生まれる。
僕たちはこれを届けていきたいと思います。