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目の前で喜ぶお客様のために!ワインとのペアリングを追求する料理人

ワインのプロたちは、どんな想いでワインと向き合ってお客様と接しているのか?スタッフの想いやこだわりを伝える「わたしとワイン」

レ・カーヴ・ド・タイユヴァン 東京:白野陽世

大学での専攻は電子工学。紆余曲折を経て卒業し、たどり着いたのは料理の世界でした。
 
異色の経歴を持つ彼が目指すのは「心に残る食事」だと言います。
 
“食とワインの調和”を掲げるレ・カーヴ・ド・タイユヴァン 東京でシェフを務める白野にワイン、そして料理への想いを訊きました。

料理にどハマり

―まずは料理を始めたきっかけを教えてください。
 
宮崎の大学に通っていたのですが、その時アルバイトしていた居酒屋がきっかけですね。地元の郷土料理を出すようなこぢんまりとした居酒屋でしたが、全国区のメディアにも取材されるような割と有名なお店でした。
 
友人の紹介で働き始め、別のところでもアルバイトをしていたので最初はヘルプのつもりだったんです。
 
その後そこの店主の方が「うちで働かない?」と声をかけてくれて、正式に働き始めたんですが、すぐに「向いていると思うから料理やってみない?」と厨房に入れてくれました。
 
もともと家でも簡単なものを作ったりしていて料理は好きだったので、「ぜひぜひ!」という感じで調理担当になりました。
 
やってみたら面白くてそこからハマりましたね。
 
―大学では電子工学を学んでいたとお聞きしました。その後調理学校などに行かれたんですか?
 
調理学校には行かずにその大学を卒業し、そのまま現場で働き始めました。
 
実は、もともと電子系の就職も決まっていたんです。
 
それがアルバイトを続けているうちに料理を極めていきたいという気持ちが強くなったのと、エンジニアもやりがいはあると思いますけど、自分で作った料理を目の前の人に喜んでもらえることがうれしいと思うようになってきました。
 
居酒屋でのアルバイトやフランスでのワーキングホリデーなど、大学生活を送る中で料理への想いが強くなり、卒業後、熊本のホテルの洋食課で働き始めました。

ワインを極めたい

―東京のホテルのレストランでも働いていたとお聞きしていますが、その後エノテカへ転職した経緯を教えてください。
 
熊本にいた時に東京のホテルのレストランに研修で行かせてもらったことがあったんです。その際にそこの総支配人に声をかけてもらい東京のお店で働くことになり、その年にソムリエの資格も取りました。
 
―その時からワインに興味があったんですか?
 
そうですね。父親がワイン好きだったので幼い頃からワインは身近な存在でした。
 
お酒を飲めるようになってから、ワインを飲んでいたかというとそうでもなくて、宮崎だったのでやっぱり焼酎を飲むことが多かったです。
 
ただ、大学時代、フランスにワーキングホリデーに行った時、日本よりさらにワインが身近な環境で生活することでワインの奥深さを知り、好きになりました。
 
―そうだったんですね!それでソムリエの資格を取ろうと思った、ということですね。
 
はい、東京で勤めたレストランはフレンチのお店だったので、ワインの勉強もできるかなと期待をしていました。
 
でも実際は厨房業務が忙しすぎて、お店でワインに触れることはありませんでした。
 
ワインをもう少し勉強したいなと思っていたので、そのギャップを徐々に感じるようになっていましたね。
 
というのと、お客様との距離を感じたのもあります。料理をやる人間は表でのサービスを一切やらないお店だったんです。
 
これまで自分が働いていた宮崎の居酒屋でも熊本のホテルのレストランでも目の前にお客様がいて自分の手で作ったものを届けていました。
 
直接お客様とお話できて感想が聞けるというのが、料理をやっていて楽しいなと思う瞬間だったんです。
 
それが一切なくなって、寂しさを感じましたね。
 
そんな思いとワインを学びたい思いが強くなり、エノテカへの転職を決めました。

ワインは主役にも脇役にもなる

―レ・カーヴ・ド・タイユヴァン 東京で働いている今、心がけていることは何ですか?
 
温かみのある料理というのを意識してずっとやっています。
 
私が料理人になろうと決めた大きな出来事がフランスで食べた家庭的な温かみのある郷土料理だったんです。
 
フランスで生活する中で高級なレストランに行ったり、バルや大衆酒場に行ったり、近隣の国に遊びに行ってもいろいろな料理を食べました。
 
その時、ちょっと良いお店で食べるより、家庭料理を出すようなお店で食べるほうが、心が満たされました。
 
こういったフランスの家庭料理やヨーロッパの地方料理、日本で有名じゃないものを広めたいという想いがその時芽生えたと思います。
 
今この想いを体現できているので、それが自分にとってはすごくやりがいになっていますね。
 
―ペアリングメニューはどのように決めていくんですか?
 
基本はその時旬のものをフューチャーできるような料理を考えて、それに合うワインを選んでいます。
 
フレンチも和食のように引き算が大切だと思うんです。素材の味を生かして、とにかくシンプルにというのを心掛けていますね。
 
ワインからペアリングを考える時もあってその場合のほうが難しいんですが、やりがいを感じる瞬間でもあります。他のスタッフと試飲をしてどんな料理が合うかを話し合って決めていくんですが、その時はワインの要素を追いすぎないように気を付けています。
 
その方が一口食べて、飲んだときに、美味しいと思ってもらえるのかなと。
 
―白野さんにとってワインはどんな存在ですか?
 
料理やシチュエーションに寄り添ってくれる存在です。ワインは主役にも脇役にもなるものだと思います。
 
料理人は料理があってのワインだと思いがちなんですが、私は料理ありきのワインでもあるし、ワインありきの料理でもあると思っています。
 
本当に“マリアージュ”ってよく言ったものだなと……引き立て合うことが大事なんだなと思いますね。
 
ペアリングはそれの最たるものだと思うので、こういった仕事をできていることが誇らしいです。

料理で少しでも幸せな気持ちになってほしい

―では白野さんにとって料理とは?
 
目の前のお客様を幸せにする方法の一つだと思っていて、私は心に残る食事を目指しています。
 
記憶として鮮明に残っている食べ物、というよりその食事の時間ってありますよね?
 
それが良いレストランの場合もあれば、お弁当を作って家族でピクニックに行った思い出という場合もあると思うんです。
 
ワインはボトルの中で完成しているもので、それ単体で人に幸福感を与えられるものかなと思うんですが、食材はそれ単体で幸福を与えられないと思うんです。
 
だから料理人がいるんじゃないかなと私は思っています。
 
だからこそ食べてもらった人に幸せな気分を与えたいと思って料理をしています。
 
やっぱり食べる人がいてこその料理なので、結局食べる人がいなかったら何の価値もないものです。
 
お客様にとってその時間は大事なものなので、目の前にいるお客様を思って、今後も料理を続けていきたいです。