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あじさいの誕生日

どしゃ降りの中、15分歩いて子どもをリトミック教室に連れて行かなくてはならない。

びっしょびしょになるから休ませたい。それが私の本音。それくらい降っている。

しかし子どもはやる気に満ち溢れている。コロナの関係で3ヶ月レッスンはお休みになり、お休み中に年度が替わった。新しいクラスのために鍵盤ハーモニカも買ってウキウキなのだ。

子どもはレインコートと長靴。着替え一式とタオルをリュックに入れて、新品の鍵盤ハーモニカはビニール袋に入れてレッスンバッグへ。濡れないように荷物はすべて私が持つ。レインブーツを履いて大きな傘をさす。


ああもう、自宅を出て10秒で心が折れた。びしょびしょ確定の雨量。

ああでも、自宅を出て30秒であじさいに遭遇。咲きはじめていたのか。

「ママ、あじさいさいてる!」

「そうだね。もう梅雨だからね」

「あじさいの誕生日だね」

「そうかそうか。あじさいの誕生日か」


あじさいの芽が出た時ではなく、花が咲いたときが誕生日なんだね。もっと言えば咲いた日じゃなくて私たちがあじさいを見つけた日、あじさいが認知された日が誕生日なんだ。去年も咲いていたあじさいが今年も誕生するんだね。何回でも誕生できるんだね。

雨が滴るレインコートから出る小さな手をひいて歩きながらあじさいの誕生日について考えた。大きなビニール傘からは雨音がしてズボンは濡れて脚に張り付いていた。

うまれた日だけじゃなくて、なりたいものになれた日、誰かに見つけてもらえた日、新しいことを始めた日、何回でも誕生することができる。はず。私たちも。

雨の中をがんばって歩き、リトミック教室につくと案の定子どもの服はびっしょりと濡れていた。レインコートでは歯が立たない雨だった。なぜか子どもは楽しそう。持ってきた服に着替えさせると、子どもはピカピカになった。

雨が降るたびに新しくなれる。新しいものとして生まれ変われる。そんなふうに思えたら楽しいのかもしれない。

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