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(小説)solec 3-9「戦争の後始末」

「作戦コードSDCε–1だ。武士道ちゃん。」
「はぁ?そんなもんありませんよ。」
「今考えた。」
「で?」

「作戦コードSDCε–1」別名「不都合な真実」。あえて、残すということ。篭城させたままにするということ。そして世界中にその醜態を晒すということ。もう死んだ政権であるということを彼ら自信がその屍をもって証明する。論より証拠。不確定な歴史的事実よりも、腐った実体だ。政治の標本を見せ続けることで、あのおっとりした現地人たちにはどうあがいたって勝ち目はないということを徹底的に教え込む。」
「上手く行きますかね?要するに、本丸攻略をサボるってことですよね。」
「飼いならす。といってくれ。戦後の混乱を最小限に食い止めるいい策だとは思わないか?」
「混乱は絶対に起ります。」
「これなら最小限だ。」
「ミスターアリストテレスは賛成だそうですが。」

『決定だ。』

 人間はとかく戦争を単なる悲劇的事件として認識する傾向がある。そんな戦争観にリアリティの欠片でもあろうか。彼らに入るべき巣穴を教えるにはまず敗戦と戦争のリアリティの両方を教え込むことによって喪失感を与える必要がある。それが戦争に負けるということであり、その後、第三段階へと移行する上で、彼らを自立した民族として再教育する種子となるからである。

 幸い、日本には切り札と呼べる超兵器がまだいくつも存在した。それらを彼らの目前で破壊し、メモリアルとして残し続ければそれらは絶好の「戦争の象徴」となり得るであろう。

 地下へ潜った政府よ。孤立したいのなら、させてやる。


 同時に日本中の超兵器を破壊すると聞かないロレンツォ。オリオン小隊は二手に別れた。攻撃対象は全部で105カ所。それだけの超兵器を残しておきながら、篭城に追い込むとは、あっぱれだ。そんなロレンツォは今回の作戦「不都合な真実」にはあれだけ使えないと言っていた無人兵器も大量に投入している。そこまでして同時に破壊することに拘る理由がアレックスにはわからない。ロレンツォは口調は悪いが作戦に対しては天才的な才能の持ち主である、きっとなにかあるのだろう。アレックスが担当するのは、彼が最重要だと言う京葉・京浜工業地帯の破壊だ。

「準備はいいね。じゃぁ、始めよう。日本の皆様、こんにちは。私はソレク軍代表ロレンツォ・アルマーニ。提供はうちの可愛い子犬ちゃん「ミスターアリストテレス。ソレクの人たちには2度目になってしまったね。この放送が流れた時点で感づいたかもしれないけれど残念ながら、このゲーム、あなた方の負けだ。政府はまだ生きているが、あなた方を救おうなどとは夢にも思っていない。このように篭城しているからね。政府を憎みたければ憎むがいい。我々を憎みたければ憎むがいい。」

「だが僕たちは絶望と同時にあなた方に希望を与えよう。まず、僕たちはあなた方すべてに対して責任を背負う用意がある。家を失ったものには住む場所を、肉親を失ったものには、深い哀悼の意と相応の保障を実行する。そして、あなた方の子孫が何代にもわたって平和に、幸せに暮らせる社会を提供することを必ず約束する。これが希望だ。」

「だが、あなた方が自ら作らなければならないものがひとつだけある。それは、子孫のために残すための新しい故郷だ。ソレクはこれを提供しない。日本には素晴らしい歴史と豊かな自然がある。それをもっと繁栄させるべきだ。前の政府は日本中のそれらを破壊し、歪んだ歴史観をあなた方に植え付けた。そのことに気付いていって欲しい。ゆっくりで構わない。故郷を残すんだ。いいね。あなた方はもう昨日には戻れない。」

「まずはこのあとに行われるショーをよく見るんだ。ショーは全国105カ所で行われる。このテレビでも、ラジオでも放送するが、なるべく本物を見てほしい。これは昨日までの君たちだ。ショッキングかもしれないが、きちんと最後まで見て欲しい。それでこの戦争はおしまいだ。社会主義連合代表として君たちを歓迎しよう。以上だ。」

やっと茶番が終わった。そして、茶番が始まる。この戦争自体、ひどい茶番だ。



 眼下の夜景に工業地帯が光っている。テレビ映えを良くするために、すべての明かりが点灯され、海上の船舶からもスポットライトが照らされている。そしてテレビ映りをよくするためにこのあと、爆発の炎がよく見えるように、沖から酸素を発生させる微生物の仕込まれたミサイルが打ち込まれ、さらに全域でガス漏れが発生する。

住民の救助・避難は終わっている。残りたいやつだけが残っている。

「なにが故郷だ!くそったれ!」

 誰も彼がおかしいと指摘できない。それは、ソレクの存在を否定するようなものだからだ。手前のマップに爆撃のコースが示される。これに沿って進め、ということか。普通、爆撃のためにこんな複雑なコースを指定されることはない。
 画面に美しい流線型の戦闘機が現われる。
 その戦闘機は湾岸地域を低空で飛んでくる。挨拶がわりに翼を振ったかと思うと一気に上昇し、カメラでも捉え切れなくなったところで旋回して戻ってくる。すると、別の戦闘機が10機、またあの一機を追いかけるように上昇する。空中ですれ違う機体。戻ってきた一機はまた低空を飛び、工業地帯の目映い光に包まれる。


 このショーを、死んでいった日本人パイロットが見たらひどく冒涜された気になるに違いない。あっけなく、無人の衛星攻撃で蒸発したパイロットたちへ。あまりにも一方的な勝利に終わった。

おしまいだ。

爆弾を投下する。



 滑走路が見えてきた。
「小隊長〜主役、お疲れさまです。」
「あぁ。」
「ロマン!止めとけ、あいつ今、感傷に浸ってるから。」
「そうなんですか?」

脚を降ろす。

「なぁ、俺たちはいつ、戦争を忘れちまったんだろうな。」

夕日が計器板に反射した。   

「眩しいな〜太陽は。」

               

               END

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