(小説)solec 3-4「列島消失」
「日本列島、消えちゃいましたね。」
分析の結果、列島を包み込んだ雲はジャミングのような効果を持っているらしい。これにより、攻撃対象はおろか、列島の姿さえ確認できなくなっている。まるで日本列島全体が巨大な要塞のようだ。
(始めから閉じていたようなものだが。)
「ここで見る限り北京は大丈夫そうですよ。でも南がね・・・。全滅に近い。第四機甲師団って確か有人部隊でしたよね。しかも四川省の各地で市街地戦闘。こりゃ死者増えるよ。補給船団はマレーに差し掛かったところで海賊に遭遇して、動けないみたいですね。東南アジアではヤシガニが大活躍ですけど。誰だろうね、こんなに人が死にまくるような作戦を立てたのは。」
「まぁこのくらいのことはしてくれないと、僕たちがいる意味ないからね。」
「西日本からのすべての応答はなし。各地の戦闘は輸送が追いつかず、ほとんどの戦闘で負け続き。持ちませんねぇ。ほんとに軍ですかこれ。ホントにソレク軍って無能ですねぇ。」
「ウラジオストクも爆撃できずに、みんなにげて・・・。朝日(ちょうにち)連絡トンネル(対馬ライン)も爆破され、負けちゃうよ。全く。」
「まぁそう悪く言うな。ソレクは生まれてこの方まともな戦争なんてやったことがない。物量の差で勝てると思い込んじゃうのよ。持てるものはさ、持ってるだけで安心するんだよね。これ、いつの時代の格言だよ。社会主義なのにね。まぁこの国はその安心で大きくなった訳だけどね、決して戦争で大きくなった訳じゃない。すべてはインチキさ。だからこうインチキの通用しない相手には力づくってわけ。でもちょっと、欲張りすぎたんじゃないかな。ソレクは一度、身を持ってそれを思い知る必要がある。平和ボケしきった国が下手な大義名文のもと、愚鈍の極みの戦争を起こしたら、どうなるか。」
「ロレンツォさん、性格変わってますよ。」
「いいさ、人の性格や情動は案外容易いものさ。僕らみたいなアウターな人間にとって、そんなものは何の意味もなさない。」
「そんなに役に入らなくても・・・。」
「僕には何が演技で、何が本心だがかわからない。それでも、天が僕に演じるべき役を与えてくださるのなら、僕はそれを最後までロールプレイしてみせる。」
僕は、ロレンツォさんが時々わからなくなるけど、このひと、頭はだけはよく切れる。
「僕はロレンツォさんが好きです。」
「そう。ありがとう。武士道ちゃんは?」
「気持ち悪い。やめてよ。そのあだ名。このゴミくず!ブス!ナルシスト!」武士道ちゃんはいつもこんな感じだけど、この偉大で重要でエレガントな計画の大事なメンバーだ。
「そう!それじゃぁ僕、行ってくるね。」何故か嬉しそうなロレンツォ。少しだけ嫉妬する。
「いってらっしゃいませ。ロレンツォ。」
僕ら「戦略デザイナー」の戦略計画遂行システム「ミスター・アリストテレス」の出番が、もうすぐ来る。
バイカル湖上空。結局逃げ切れずに、そのまま格闘戦になったが、ドグファイトは一方的な勝利に終わった。だがSAMによる被害は甚大であり、18機中、8機を失った。そのほとんどが、新人だ。
「小隊長。レーダーに。」
レーダーに味方機を発見する。機体のナンバーからして、あのロマンチスト坊やだ。
「小隊長・・・逃がしてしまいました。」
「何をだ?」
「爆撃機です。」
「何機?」
「たぶん。100機は超えていたと思います。」
100機?
「じゃぁ、君たちが先行したのは、その爆撃機を追っていたということか?」
「いえ、最初は本気で逃げました。わからないし、怖かったから。でも、途中、雲の下に。」
「爆撃機が見えたんだな。」
「はい。それで僕たちは・・・」
「戻ってこれたのはお前だけか?」
「みんな機体を捨てて脱出しました。」
「うん。そうか。この空域なら助かると思うぞ。それより、爆撃機は何機だって?」
「だから、100機くらい、たぶんそれ以上。」
戦闘が終わって、燃料と弾薬の補給の最中だが。
「いくぞ。」
「でも、見つからないかも。どのレーダーにも映りませんし、もう。」
「そんなに速いのか?」
「スクラムジェットエンジンのアフターバーナーですよ。」
「待て。みんなどうして機体を放棄して脱出したんだ?」
「燃料切れです。」
・・・そんな爆撃機があっていいわけがない。
もう今頃はソレク上空だ。間に合わなければゲームオーバー。
「とにかく行くぞ!」
その時、自分を遠くに感じた。加速していたからなのか?いや、違う。
本気でこの戦争に負けるかもしれないと感じたからだ。
そんなことがあっていいわけがない。
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