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(小説)solec 3-8「とどめ」

 本丸、東京。すでに工作部隊により水門は破壊されている。江東ブロック、品川ブロック、墨田ブロック、港ブロック、新港ブロックの水攻めが完了している。さらに各地インフラを掌握し、都内各地でガス漏れによる火災を発生させた。これにはある一つの目的があった。

それは、どこかにあるはずの本丸を見つけるためだ。

「まぁこの程度の状況はおそらく敵も予想はされていたでしょうね。最悪の予想でしょうが。国費を軍備に費やすことで空蝉の平和と安心を与える。その結果、インフラや生活水準は最悪。軍ってのは全く。ねぇ無能。」
「・・・」トゥラーティは黙っている。

「出てきたね。」
モニターには工作部隊から送られてくる映像が流れている。
水面下から大小いくつものパイプが浮上する。
中には直径10mはある巨大な配管とそれを支える構造物がにょきにょきと姿を現す。
「こ、これは・・・。」
「やっぱりね。」
工作部隊から連絡を受ける。

「やはり新港区から品川区にかけて数十塔の構造物出現しました!これは・・・。」
それぞれのパイプから一気に水が吹き出す。

「そいつは、排水と換気用のパイプだ。これではっきりした。本丸は地下だ。それにしても全く、あわれな姿だ。国民を見捨て地下へ逃げるか。」

 地下へ逃げるのを拒まれたのであろう。本丸から見捨てられた多数の現地人が浸水した道路を泳いで対岸の建物へ移ったり、車の屋根やビルの屋上で途方に暮れている。目的は交通の遮断とパイプをさらすことにあったので、水深は腰から肩ほどにとどめてある。

それにしてもよく濁らずに綺麗に浸かっている。

「救助してやれ。」



 富士山頂の雪をまるごと溶かしてきたオリオン小隊にエスコートされて救助ヘリが近づくが現地人に抵抗は全く抵抗しない。それどころか、救助される現地人もおっとりしていて、普通に救助されている。この様子にはさすがのロレンツォもたまげる。レジスタンスはいないのか?なぜ現地人が抵抗しない?すでに敗北を受け入れているのか?お得意の悟りとやらか?理解できない。これは戦争だぞ。自分たちの国が侵略されているのに、この落ち着き様はなんだ。逆に政権や戦争が嫌いで、早く助かりたいのならすぐに救助ヘリに近づくだろうに、ゆっくりと時間や収容スペースを取るであろう負傷者や病人を先に乗せて、屋上からヘリに「行け!」なんて素人が命令している。物資を受け取る時もこちらが空から落としているのにきれいに列を作っている。政府はお前らを見捨てて地下へ逃げて篭城決め込んでんだぞ!少しくらいリアクションとれよ!あきれてものが言えない。

すべての陸上部隊の攻撃と侵攻は停止した。
巡洋艦隊と揚陸艦が鎌倉沖に上陸し、武器を置き、救援物資の輸送が始まった。敵の装甲列車も待避線に入り、物資輸送用のこちらの列車に線路を譲った。

こいつは誤算だ。

「ふぅ。さて、これから、どうするかな。」


 「どう思う?」ロレンツォは各方面にヒントを探していた。このままでは、いつまで立っても決着が着かない。

「静かなもんです。」火災はすでに消火され、浸水は残っているが、いたって平和な街だ。


「これが本丸の上空だとはな。」
「それは、今僕が感じていること。」
「戦争はもう終わったんじゃないでしょうか。」
「なるほど。だから困っているんだ。もうやることがなくなった。」
「じゃあ、もう何もしなくていいのでは?あとは維持隊に引き継いで・・・というか僕たちの仕事だ。もうソレク軍は解散ってことで。」

「本丸が残っているから困っているんだ。」
「地下を攻略するのは大変ですからねぇ。」
「いや、簡単だ。むしろ簡単すぎるんだ。」
「そう、ならやればいいじゃねえか。」
「だから、これで終わりなのか。ということだ。」
「あんた作戦立ててんだろ。とどめを指して終わりにしちゃえよ。」
「腑に落ちないんだ。美しくない。」
「あんた本当はネガティブなんだろ。どういうわけか独裁者気取ってるけど、まぁ最後まで頑張れよ。」
「ありがとう。」


 そう。そうだ。いいことを思いついた。彼らの言う通りだ。すでに大陸部では平和維持活動のプランが第三段階まで進行している。僕はあくまで平和維持隊なのだ。これで作戦のすべてが終わるわけではない。

「土地を押さえたあとは人民を押さえねばならないのだ。」

 こちらとしても解放後のプランは円滑に進めたい。攻略の焦点はそこだ。
だが、不可解の多いこの状況。政府は皆、地下だろう。レジームチェンジを明確に印象づけるのならば当該政府を破壊し、その象徴たる天皇を処刑するにこしたことはないが、ここはあえて「無視する」というのはどうだろう。

「ヒラメイタ!」

 そうだ。どれだけ難民に魅力的な餌を見せつけようとも、すでに親しみ深い巣穴を持っているものはそう簡単にレジームを捨てたりはしないはずだ。いまはこうやって黙って救助されているが、いつかまた反乱するに違いない。まずは彼らの巣穴そのものを不安定にし、彼らを正真正銘の流浪の民とすること。イメージ戦略だ。政府の完全な殲滅がその際、理想的とは言えない。

「どうせまた同じような組織が復活するだけだ。」
「おい!きもち悪いぞ!何呟いてる?」
「わかったよ。」
「そうかい、お大事に。」


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