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体内時計の調節

体内時計の針

睡眠の研究が進むにつれて、概日リズムを刻む体内時計のメカニズムが、少しずつ明らかになってきました。
ヒトを含む哺乳類の体内時計の役割を果たしているのは、脳の中の視交叉上核で、この視交叉上核を構成する細胞で起こっているタンパク質を中心とした化学反応が、いわば体内時計の時を刻む針です。

時計遺伝子とタンパク質

視交叉上核の細胞では、時計遺伝子に基づいて、時計としての機能を担うタンパク質が生産されます。(遺伝子はタンパク質の設計図といえる。)
タンパク質を生産する化学反応は24時間周期で変動し、生産されたタンパク質の量も増減します。このタンパク質の量が時計の役割を果たします。

タンパク質が作られ続けてある一定の量に達すると、それ以上タンパク質を作らないように、という情報が時計遺伝子にフィードバックされ、情報を受け取った時計遺伝子はタンパク質の生産量を抑えて、タンパク質が一定の水準まで減少すると再び時計遺伝子が活発に活動し、タンパク質が生産されます。

24時間周期で変動するタンパク質の生産サイクルが、体内時計の役割を果たしているのです。

また、時計遺伝子の塩基配列(核酸の並び方による遺伝情報)はひとりひとり異なるため、体内時計にも個人差が生じると考えられています。

24時間15分

ヒトの体内時計は、正確には24時間15分の周期で概日リズムを刻んでいます。(必ずしも毎日まったく同じ周期で働いているわけではない)

そのため、わたしたちが用いている24時間で1日という周期と少しずつズレが生じ、小さなズレも積もり積もれば大きな違いになり、結果として夜遅くまで目が冴えてしまったり、朝になってもなかなか眠気がとれなかったりします。
ですので、普通の時計と同じように、体内時計も時刻を合わせる必要があります。

体内時計を調節するには、身体が浴びる光の量、正確には目に入る光の量を調節することが大切です。目から入った光は、視覚情報を認識する脳の部位へと視神経を伝って送られます。このとき、それとは別の神経経路にも光の情報は入力され、視床下部を通過しています。視床下部には視交叉上核があるため、体内時計は無意識のうちに目から入った光の情報を受け取っているのです。

体内時計を早めるには、朝の早い時間帯に昼間のように強い光を浴びることが必要で、逆に体内時計の針を巻き戻す、遅らせるには、夕方から夜にかけての時間帯に強い光を浴びることが必要です。
見方を変えれば、夜になっても明るい光を目に入れ続けていると、体内時計の針はどんどん巻き戻され、いつまでも眠れないということになります。

概日リズム障害と時差ぼけ

飛行機で標準時が異なる地域へ行くことは、当然、体内時計と実際の時間のズレを大きくします。時差ぼけは、光に視交叉上核が反応しなくなる概日リズム障害とよく似た状態になります。

概日リズム障害には、次のふたつの種類があります。

  • 睡眠相後退性症候群…極端に夜遅い時間に眠りに就く。

  • 睡眠相前進性症候群…極端に夜早い時間に眠りに就く。

西回りのフライトをした場合は睡眠相後退性症候群、東回りのフライトをした場合には睡眠相前進性症候群に似た状態に置かれることになります。

現地時間で過ごすうちに時差ぼけは解消されますが、後退性の時差ぼけより前進性の時差ぼけのほうが、解消までの時間が長くかかり身体への負担は大きいといえます。
体内時計の調整方法を応用して、
東に行った場合は「朝日を浴びずに午後になってから日光を浴びる」ようにし、西に行った場合は「一日中光を浴びる」ようにすることで、時差ボケの解消に役立てられます。
出発の2〜3日前から少しずつ現地の時間にあわせた生活をしておくことや、飛行機に乗ったらすぐに時計を現地時間に調整し、それに合わせて睡眠などを取ることも効果的な方法です。


Point

  • 視交叉上核の細胞では、時計遺伝子に基づいて時計としての機能を担うタンパク質が生産される。24時間周期で変動するタンパク質の生産サイクルが、体内時計の役割を果たしている。

  • 時計遺伝子の塩基配列はひとりひとり異なるため、体内時計にも個人差が生じる。

  • ヒトの体内時計は24時間15分周期。

  • 体内時計の調節…目に入る光の量を調節する。

  • 体内時計の針を進めるには、朝の早い時間帯に、針を戻すには、夕方から夜にかけての時間帯に強い光を浴びる。

  • 概日リズム障害…視交叉上核が光に反応しなくなる症状。睡眠相後退性症候群、睡眠相前進性症候群の2種類がある。

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