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【読書レビュー】屍人荘の殺人

なんというかこう…
そっちのベクトルで「予測不能」なのかぁ!

予想外の展開 ★★★★★
トリック ★★☆☆☆
読みやすさ ★★★★★
人にお勧めできる 大いに人による

※ネタバレを大いに含みます
※考察なんて至高なことはできません。感情で書いています。

これ、神木くん主演で映画化が決まってるのね。作者デビュー作なのにすごいなぁ。

【ざっくりとしたあらすじ】
大学生でミステリー同好会の葉村は、先輩の明智と共に映像研究会の夏合宿に招待される。この夏合宿は中止を迫るような脅迫文が届いており、依頼人の剣崎からその調査と護衛を頼まれる。
合宿はその実OBとのコンパであった。脅迫状の原因は昨年の合宿でOBとの男女間のトラブルであったことが推測された。
そしてこの夜、肝試しを行っていた面々は、なんと道中で死体…ではなくゾンビの群と
ゾンビの群と…

……ゾンビ?

そう
なんとこのミステリー、ゾンビが出てくるミステリーなのである。何を言っているんだと思われるかもしれないが、ここから先始終ゾンビである。

私はこのゾンビの群を叩きつけられた瞬間、頭痛がして天を仰いだ。なんてものを買ってしまったんだ。私は本格ミステリーって帯に書いてあったから買ったんだぞ。受賞作だしめちゃくちゃ絶賛されてる本なんだぞ。なんだよゾンビって。

ここで拒絶して本を閉じるのは簡単なのだが、意識を集中して読むことにした。

【ざっくりとしたあらすじの続き】
ゾンビの群に囲まれた面々は、止まっているペンションに避難するが、全員が逃げ切ることは不可能であった。救助が来るまで、3階建てのペンションで2階、3階に生活拠点をとるのだが、なんと毎晩一人ずつ殺されていく自体に。
葉村は予想外の展開に四苦八苦しつつも、探偵役の剣崎と共に事件を解決して元の生活に戻っていくのだった。もう状況説明が大半のあらすじとなってしまった…。

ちょっとミステリーのあらすじを説明するのは難しいね。最終的には「解決する」というゴールが見えているのもあるけれど。

読みおった第一の感想としては、「色々とうまいなー」と思った。ちょっと羅列します。

・現代ミステリーで正直もう苦しい「予想外」を、ゾンビが出ていくる(まさかの…)という展開で保管する(正直苦しくないか?とは思う)
・探偵役と思われていた男が死ぬ
・助手役の主観文章となっており、大変読みやすい。ラノベの文章っぽいなと思った。
・メタ的な要素が多い。というのも、
1.序盤、役者が揃って名前と関係性が把握しづらくなった時に、探偵役から補足がわざわざ入る。各キャラのポジションが名前とリンクするように作られており、その後の展開を分かりやすくしてくれる
2.作者が「ミステリー通なんだな」というのが随所に感じられる。(ミステリー通じゃないミステリー作家なんていないだろというのは置いておいて)。推理手順、ミステリー用語の補足説明が分かりやすく随所に入る。


また、今回の舞台装置は「昨年男女間のトラブルがあった夏合宿で脅迫状が届き、クローズドサークルの中で関係者が殺されていく」という、金田一少年が飛んできそうな展開。
そうなると、「去年被害にあった女性の関係者による怨恨殺人だ」という動機が明示されたも同然。
その中で、ミステリーを読んだことがある人間なら絶対に引っかかる「最近亡くなった妹がいる」というセリフがあるのだが。
ぜんっぜん関係ない、ミスリードなのであった。
そして私はまんまと引っかかり、「こっちの動きを読まれている…」と思ったのだ。うまい…ちくしょう…。

さて、絶賛したいのは山々なのだが、私の中ではどうしても、どうしても納得が行かない点があった。それは

トリックにゾンビが必要不可欠なのである。

わ、解るかっ……
いや、いいのかもしれない。そういう舞台設定なんだし。使ってなんぼなのかもしれない。むしろ使わないとゾンビを出した意味がないので当たり前なのかもしれない。

ただ、なんというか、ちょっと釈然としなかったのだ。すっきりとしなかったというのが近いかもしれない。

まず、殺害方法がゾンビありきだった。私は最初、「ゾンビの犯行に見せかけたように殺したのかな」とも思ったが、そうではなかった(そうでない理由もきちんと作中で説明が入る)
なので、ポイントは「どこから人間が手を加えたのか」「アリバイ」「どうやってゾンビに殺させたのか」というところに着地する。

だが、やっぱりオールオブ人の手のトリックが見たかったなと思う。舞台の展開についていけなかっただけかもしれないけれど。

そも、ミステリーには「怪人と同居する」ような話は昔からあった。科学技術が発達していなかった時代の作品ならなおさらだ。「怪人にしかできないと思われるような犯行」を、いかに「人間の仕業だ」に持っていけるかが論点であったから。
だからこの本を異質に捉える必要はないのかもしれないけれども。うーん…。

なんというか、「物語としては面白かったがミステリーとしてはお勧めしない(できないのではなく)」と言ったところだろうか。
「どうだった?」と聞かれたら「面白かったよ」と返すれけども。

とはいえ、全体的に読者のことを考えた設計で、とても分かりやすく読みやすかった。作者は何冊のも本を読み、どうしたら分かりやすくなるだろうかというのも論理的に考えているような感じがした。

そして、これを映像化するとしたら規模的にもコスト的にも映画しかないだろうなと思った。映画でよかったね、とてもじゃないが2時間ドラマでやるような内容ではない。チープになって頭痛がするのが目に浮かぶ。

主演が神木くんということで(分かる〜〜〜と思った)、公開したら見に行きたいと思う。シリーズ2作目も出たということなので、こちらも折を見て読みたいところ。

ありがとうございました。


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