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アフターコロナのコンパクトシティ

新型コロナウイルスをきっかけに、これからの私たちの生活の在り方を見直す動きが高まっています。特に都市・まちづくりの分野では、著名な建築家・プランナーや研究者の間でも議論が進んでいるトピックであり、自分自身の考えの整理のためにもここで文章にまとめたいと思います。

コンパクトシティは終焉を迎えるのか

日本でコンパクトシティの考え方が登場してから久しいです。その定義は曖昧ですが、国土交通省によれば、都市機能・居住機能の立地を誘導・集約し、限られた資源の集中的・効率的な利用で持続可能な都市・社会を実現を目指すものと読み取れます。人口減少時代に入り、都市立地の議論がますます重要になっていく中で、コロナショックはコンパクトシティ論にどんな影響を与えるでしょうか。

立地適正化計画のイメージ(国土交通省:コンパクトシティの形成に向けて)

コロナと都市に関連する記事にざっと目を通してみると、コンパクトシティというモデルでは一定の地域に人口が集中し、密な状態を生みだすから今後の推進は見直すべきである、という論調が少なからず見受けられすが、この解釈はあまり適切ではないように思います。コンパクトシティの根幹となる考え方はむしろ、感染症も含めた諸問題に対応し、持続可能な都市づくりに資するものだと考えています。そのうえで、コロナを踏まえた将来像のアップデートは必要ですし、SDGsを意識したより包括的な概念に発展させることが重要です。

そもそも、日本におけるコンパクトシティの概念は市町村レベルでの秩序のない都市の拡散を問題としていますが、中心拠点への人口集約を推奨するものではありません。また、首都圏一極集中が引き合いに出されることもありますが、コンパクトシティ論と関連がないわけではないものの、地方と大都市圏の関係という別スケールの話だと思います。居住者の密度が高いことも問題ですが、それよりも今深刻なのは、多くの人々が長距離の移動をして(ウイルスを運搬しながら)極めて狭い地域に集まり、不要な接触(ウイルスにとっては拡散の好機)が日々繰り返されていることではないでしょうか。多くの人が密集住宅地で暮らしていたとしても毎日の都心への移動がなければ、もしかすると、生活の質を保ったまま感染をある程度抑えこめていたのかもしれません。
テレワークがある程度可能なことが実証され、またオンラインでの人のつながりの質が高まったことで、逆にフィジカルな出会いや空間体験の価値が見直されていくという考え方がスタンダードになりつつあります。都市では、クリエイティブなコミュニケーションのために対面の会議をしたい、そこにしかない魅力があるカフェやレストランに家族や恋人と行きたいというふうに、「わざわざ現場に行きたいか、行く価値があるか」が意思決定の分かれ道になります。言いかえれば、ミーティングもないのに惰性で都心に通勤することや、通販で買える日用品をわざわざ都心へ行って買うというような行動は、特に感染症対策や移動による環境負荷の観点では、今後減らしていくべきです。

生活圏での行動を変える

では、不要な(価値を生み出さない)移動・接触を減らしつつ、便利で豊かな都市生活を実現するためにコンパクトシティの観点から考えるべきことは何でしょうか。そのカギは、「徒歩・自転車移動の生活圏内における人の動きのコントロール」にあると思います。市町村レベルの立地適正化計画では、居住誘導区域内の生活圏とそれをネットワークで結ぶ「多極ネットワーク型コンパクトシティ(コンパクト+ネットワーク)」が標榜されいます。しかし、これまでは主に市町村レベルでの機能集約の重要性がフォーカスされていて、もう一段階解像度を上げた「ひとつひとつの生活圏がどうあるべきか」という議論までは踏み込まれてこなかったように思います。緊急事態宣言の期間中、都内でも身近な公園や商店街、大型スーパーが混雑しているというニュースがありました。身近な都市環境が重要になった今、生活圏のスケールでこのような課題を解決していく必要があります。

生活圏における人の動きのコントロールを考える上でヒントとなる事例が、パリの “la ville du quart d’heure”(15分都市)という構想です。家から自転車で15分の範囲内で、ゾーニングの手法とは全く逆に、公共・民間問わずできるだけ多くの用途を混在させ、その中で仕事、買い物、健康、文化など全てのニーズを満たそうと試みるものです。この構想はコロナ以前に発表されたもので、当初は自動車交通削減によるエコフレンドリーな政策といった意味合いが強いものだと思われますが、身近な場所で人と距離を保ちつつ生活の質を向上させるというアフターコロナの価値観にも非常にマッチしたものだと思います。

パリの15分都市構想(Paris en Commun)

この計画では、例えば自動車交通量減少に伴って車道の一部を歩行者のためのオープンスペースに転換する、学校の校庭は夜間は市民のための公園となる(そもそも学校とオフィスは一体となっている)、集約型の大型店ではなく地元の小規模な小売店を推奨するなど、人の密集を防ぎつつ基本的なサービスや都市生活の楽しみを享受でき、さらに地元の産業も支援できるものとなっています。これは、ともすれば公共空間の利活用やストリートの華やげな演出だけにとらわれがちな「ウォーカブルなまちづくり」的なプランを、SDGsを軸にさらに発展させたもののように思います。
このように、単純に密になるから住む人を減らそう、という方向だけではなく、人口密度は維持したまま土地・施設の利活用と分散によって混雑を減らし、快適性・利便性を向上させる方法も考える必要があるのかもしれません。

アフターコロナのコンパクトシティ

パリとは諸条件が異なりますが、日本では15分都市を駅を中心としたひとつの圏域と解釈し、その在り方を見直すことができます。既に土地の余剰がない密集住宅地では、施設の複合化・多機能化や自動車交通減少による土地利用の転換などによってオープンスペースを創出し、また個人の小売店が増えるよう誘導することで、自然と分散型でウォーカブルなまちに変化していくものだと思います。施設の複合化・多機能化に関連していえば、郊外から都心へ通勤するスタイルが弱まると、今後は現在のオフィス街のような場所にも住む人が現れ生活圏が形成されてもよいのかもしれません。これによって、新たに市街地を拡大することなく、現在の市街地における人口密度の平準化に貢献できます。都市構造はすぐには変化しませんが、コロナをきっかけに生活圏に根差したきめ細やかなコンパクトシティの議論が進むといいなと思います。

ちなみにヘッダー写真はシドニーです。ダウンタウンが想像していたよりもずっとコンパクトでした。最後の写真はシドニー近郊のLeuraという小さな街の目抜き通りです。また訪れたい素敵な場所です。

参考

国土交通省:コンパクトシティの形成に向けて
https://www.mlit.go.jp/common/001083358.pdf

国土交通省:「まちなかウォーカブル推進プログラム(令和2年度予算決定時点版)」
https://www.mlit.go.jp/common/001321053.pdf

CITYLAB:Paris Mayor: It's Time for a '15-Minute City'
https://www.citylab.com/environment/2020/02/paris-election-anne-hidalgo-city-planning-walks-stores-parks/606325/

世界経済評論IMPACT:新型コロナ・ウィルス時代における都市計画
http://www.world-economic-review.jp/impact/article1756.html

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