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情熱をかけるということ / ⑥


アシスタントは、はじめ2人体制でスタートした。

私ともう1人、21歳ぐらいの細身でロン毛の男子。

彼は何がどうだったか今となってははっきり覚えていないけど、私が遅刻というクビ宣告から復活した後、数ヶ月後、クビになった。


現場終わりの飲みの席では日頃の私たちアシ2人の仕事のできなさ具合を師匠と姉弟子の酒のつまみされたり、(ほんと恥ずかしい。。あの時テンパってたよな?とか、わけわかんない事やってたよな?とかいじり倒される。。)や、なんか面白い事をやれとか、現場の失敗の反省として、腕立て伏せをさせられたり、色々させられる。(ほんと体育会系。その場にカメラマンとかもいたら、そのアシスタント共々みんなで腕立て伏せとかやらされる。)

その日は現場が早く終わったので、夕方ぐらいから師匠と姉弟子と私と男子の4人で、確か恵比寿あたりに飲みに行き、いつものようにいろんなダメ出しをされていた。

ダメ出しは笑って聞けないけれど、そんな話の中にも師匠の考えとかが滲み出ていて、お酒を飲んだ席での師匠の話は割と好きだった。

過去のアシスタントの人たちの話とか、師匠の師匠の話とか、師匠がアシスタントしてた頃の話とか、そういった話を聞けるのは面白かった。

中でもサーフィンの話が好きだった。

私はやった事ないけど、本当にきっと気持ちがいいんだろうなぁーと思ったし、さらに師匠のサーフィンの話を聞いていると、体もそうだけど、精神も鍛えられるんだろうなと感じた。

「波に逆らおうとしてもダメで、よく波を見て合わせに行かないと絶対乗れない。」とか

「海にサーフボードを浮かべてぼーっとしてたら地球に浮いてる感じがする。」とか

哲学的だなーと思っていた。

だから師匠はサーフィンをする事でいろんな事を教えてもらったと言っていた。

前までのアシスタントはみんな一度はサーフィンに連れて行かれてたということも聞いた。


そしてその夕方から飲んでいた日も、あーだこーだダメ出しをされていて、もう既に決まっていたのかどうだったかも記憶にないけれど、とにかくそのもう1人の男子のダサさ具合をとことん言われていた。

そしてベロベロになって、外で寝始めていたその男子はその日をもってクビになった。

師匠には「最後までダセーな。。。」と 言われていた。



師匠につく始めの頃は1人体制がいい!と思っていたけど、2人体制をやってみて、比べる相手がいることが、自分への刺激にもなるのだな。と思い始めていたので、その男子がクビになる事は私にとって良かったのか悪かったのか、わからないけど、比べられて評価される事が苦手だった私は、少なからず、ホッとしていた。より多くの現場もいけるし、いろんな経験も出来ると思って嬉しかったのかもしれない。

でも1人体制は思った以上にハードだった。

季節的にか、なんだったのかわからないけど、師匠の仕事が劇的に忙しくなった。スケジュールはどんどん先まで隙間なく埋まっていき、次々と先の仕事内容の資料も渡される。雑誌から、ファッションショー、ブランド広告、アーティストのテレビ収録、ライブツアー、MV撮影など。色々なジャンルがあり、中でも、ウィッグ制作など前もった仕込みが必要なものもあった。

師匠の考えたヘアスタイルをウィッグなどを使って撮影までに作る仕事だ。特にライブで使用するものは、耐久性や、装着のしやすさなど色々と実験が必要で、なんども作っては師匠にみてもらいテストして、また直してと色々と試行錯誤しながら本番を迎える。考えて作る事は好きだったので、ウィッグや、ヘッドパーツの仕込みは割と得意だった。そして、何よりも自分が作ったウィッグやパーツを付けて、アーティストの方がステージに立っている姿が本当に嬉しかった。

師匠は音楽系のアーティストさんに携わることも多かったので、それも私の中で大きな経験となった。

楽屋で発声をしている声を聞いただけで涙が出そうになるし、出番直前のあの緊張感だったり、生歌だからこそのパワーだったり、それを受けてのお客さんの歓声だったり。そういった音楽のすごさは毎回胸に突き刺さってきた。

やっぱり生のものは素晴らしくて、尊いものだなぁと感じた。

特にツアーとなると本当に多くのスタッフさん達がかかわり、ツアーが始まるずっと前から、演出や、舞台装置、衣装、ヘアメイク、もちろん演奏のリハなど前準備にかなりの時間をかけて作っていく。

私はアシスタントだったので、全国ツアー全てについていく事はできなかったけれど、東京近郊のものは一緒に現場に入ったりもした。おんなじ内容のツアーでも現場では色々な事が起こる。全てが段取りよくいくものでもないし、でもステージ上でアーティストが一番輝けるようにと裏のスタッフは精一杯に全てを尽くす。そしてアーティストもまた、周りに支えてくれる人たちの責任を背負って、そしてファンの方に喜びを与えるために1人でステージに立ってゆく。たくさんの人のそんな精一杯出し尽くす姿を見たときに、私は今まで自分がなんて軽く生きてきたのかと思い知った。

その場その場で勝負している人たちがいる事。立場は違ってもたくさんの情熱を持って目の前のことに取り組んでいる人がいる事。そんなことを思い知らせれた。


今、これを書いている自分もまた、この時の感動した思いや、情熱を見失いかけている気がした。書きながらあの感動を思い出させてもらっている。

今自分が出来る事が何なのか、この時だからこそ、こうやって振り返り、たくさんのことを思い出し、気づかせてもらっている。


読んで下さってありがとうございます。

続きはまた




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