アバンチュールと脱走
I like your eyes. は世界で一番手軽な口説き文句だ。モロッコで3回言われた。
一度目はマラケシュの市場で、二度目はバスツアーで、三度目はツアー中に宿泊したホテルで。三度目ともなると言われた瞬間に、ああカモとしてロックオンされたのね、と納得できてしまった。
旅行先に出会った現地人と一晩のアバンチュールを過ごし、その後恋人同士になる。いかにも映画にありそうなシチュエーションだが、実際の観光地でもよくあることらしい。
三度目は「とっておきの場所で星空を見ませんか?」と宿のスタッフから誘われたことから始まった。砂漠の空は素晴らしい。暗い場所で星を眺めたい。きっと他の人も誘われているだろう。そう思ってのこのことついて行ったら2人きりだった。数時間前に出会ったばかりの知らない人からあなたが好きだと言われた時、腹の内側で覚悟した。
口説き文句をスルーしつつ世間話を進める。妙に恋愛や結婚観について聞かれた。結婚しているの?「彼氏」はいる?どんな人が好み?国際結婚についてどう思う?…ひとまずモロッコと日本の結婚制度の違いについて話すことから始めた。
具体的な話を聞きたがったので日本に付き合って数年経つボーイフレンドがいる、と答えた。愛しい架空のボーイフレンド。それでも「部屋について行っていい?」と聞かれたので断った。寝る時は内側から鍵を挿しっぱなしにして眠った。
JETROの2021年の調査書によると、モロッコの平均給与は5255dh。日本円にして約9万円だ。少数の高所得者と多数の低所得者の給与格差が大きい国だという。
観光地でのアバンチュールは存在する。ただ、その裏には旅行客と深い仲になることで国外で働くためのチケットを手にすることが目的のものもある。
ひとまずすべてを避けながら、強かに旅を続けることにする。
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