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袈裟とネズミ


 住職は、袈裟をネズミに齧られる度、自分で袈裟を縫い直していましたが、何度直してもネズミに齧られるので、時間がもったいないと思うようになりました。

そこで、住職は猫を飼うことにしました。猫を飼ったらミルクをあげなければなりません。

住職はミルクをあげるために牛を飼うことにしました。牛を飼うと牧草を用意しなければなりません。牧草を育てるためには使用人を雇なければなりません。使用人を雇うと、使用人が住む小屋を作らなければなりません。

ある日、檀家が住職に相談にやってきた。住職は、やらなければならないことが沢山増えて、イライラするようになりました。
「今、わしは忙しいのだ。猫も世話しなければならないし、牛も世話しなければならん。小屋も作らなければならん。修行も満足にできん毎日じゃ。忙しいから後にしてくれ」

その時、住職はハッとした。
「そもそも袈裟を直す時間が惜しくて、猫を飼うことにしたが、それが更に自分を忙しくさせてしまった。猫も牛も飼うのは止めて、元の修行生活に戻ろう。穴が空いたらまた縫えばいい。穴が空かないように、ネズミに噛まれないようにと色々と心配して考えた結果、自らを苦しくしてしまった。これでは本末転倒じゃ。縫うことも何もかも行住坐臥、全てが修行と思えばなんてことはない」


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