【オリジナル】君の話(高校生編) その4
小学校の頃から、友達はほとんどいなかった。
父親の転勤で学校を転々としていたからだ。
いつしか、自分の中でも「どうせまた転校するんだし」という諦めがあったから、
最初からわざわざ友達を作ったり、声をかけたりとか、しなかったな。
まぁ。
そのおかげで、今日の僕の人格が形成されてきたわけなんだけど。
そんな小学校時代、たまたま同じクラスになった庄司咲耶。
僕の苗字は「岩永」彼女の名前は「咲耶」
イワナガヒメとサクヤヒメ。
古事記に出てくる姉妹の神様と一緒だった。
ほとんど話したことのなかった僕に、
わざわざ古事記の本を持ってきて、教えてくれた。
いきなりの圧力に押されながらも、嫌な感じはしなくて、
何だかシンパシーを感じてたっけ。
忘れてたけど、そこから仲良くなったんだよな。
また、父親の転勤で学校を転校することになった時も、
言うかどうしようか、迷ってたっけ。
まぁ、結局言えずにサヨナラした気がする。
高校の入学式の日の朝、
駅のホームから電車に飛び込んだ女子高生を、僕は何とか助けようとしたんだ。
あれは、サクヤだったのか。
でも、そのあとどうなったんだ?
突然、視界は
学校の古木、桜の木の下へ移った。
サクヤは木に背をもたれていた。
「チヒロ君には迷惑かけちゃったからな。」
サクヤが呟く。
「あれは、、、、その、、、」
僕は言葉がでなかった。
「あ、もしかして、アタシが自殺しようとしたとか、思ってた?
駅のホーム濡れてたでしょ。雨上がりで。
ちょっと足を滑らせちゃっただけだったんだ。
新しいローファーでまだ履き慣れてなかったのもあったかもだけどさ。」
いやいや、えぐいことをサラッと言う。
「それでホームから?」
サクヤは頷き、
「笑えないよね。よりによって入学式前って。」
いやそこじゃないだろ。
「先生とか、クラスメイトもまだあったことがない人が死んでも実感ないだろうし、
そんな感じで、ドラマとかでよくある机に花飾るやつ、やめようって話になったみたいだよ。
この姿で、学校に来てたから、クラスの状況はよくわかる。」
むむむ、
「そうだったんだ。なんか、サクヤは幽霊?なのに、あれだな。
なんか、軽いな。明るいっていうか。」
「それはチヒロくんが暗いからでしょうが!」サクヤが返す。
「なんか暗そうにズーンってしてるから、元気付けようと明るくしてんの!」
両手を腰に付け、いかにも怒ってますという顔をしている。
「そう言うことなのか。んで、その幽霊とやらがなんで、この暗い男に?」
正直、疑問だった。
というか、この不思議な現象を何て言語化すれば良いんだ。
サクヤがいうには、
「チヒロくんは幽霊の状態で学校に来てるんだ。
だから、誰もチヒロくんには気づいてなかったでしょ?
私も、同じだよ。誰とも喋ったりしてなかったわけだし。」
「いや、信じられない。
だって、物を触ったりしてるし、だったらこの現実感はなんだ。」
自分で言ってハッとした。
正直、夢と現実を分けるものって何だ?
実は明確な境界線なんてないんじゃないか。
「頬をつねる」とかもそうだけど、
「恐らくこれが現実であろう」というくらいのものしか、
ないんじゃないかな。
「チヒロくんって、本当は電車で通学じゃなかった?」
確かに。
入学式の日の朝は駅に行った記憶がある。
それなのにいつも、
この桜の古木の横を通って歩いて帰ってた。
「まさか、無意識に病院に帰ってたってこと?」
僕が尋ねると、
サクヤは静かに頷いた。