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『つきのみと没カット集』は何故海外で大受けしたのか?

月ノ美兎氏(以降敬称略)は2020/4/20にある動画を投稿した。それがこの『つきのみと没カット集』だ。

本動画は2020/4/1に投稿されたエイプリルフール企画、『エイプリルフールだけど普通に運動するゲームしよう!【月ノ美兎/にじさんじ】』のために撮影したものの、本編中では使用されなかった映像をまとめて1つにした、およそ2分半の動画だ。

この『つきのみと没カット集』は投稿されてからわずか2日足らずで50万再生に迫る人気を見せており、なんと再生数だけで見ると、本編であるエイプリルフール企画配信を大きく上回っている。
そうなった理由は動画のコメント欄を見てもらえばおわかりだろう。英語のコメントが大量に投稿されているのだ。
本動画に寄せられたコメント数はなんと本記事投稿時点で4280件。本記事投稿時点で同程度の再生数である『よりぬき美兎ちゃん デトロイト編【10分ちょっと】』に対するコメントが534件であるのに比べるとその差は歴然だ。
そう、本動画は海外勢に大受けしたのである。コメント欄の英語コメントを見ると「cursed video」「deep web」などに混じって「This came up on my recommendation(おすすめ動画に出てきた)」というコメントがいくつか見受けられる。なるほど、きっかけはどうやら「たまたま海外勢のおすすめ動画に出てきたこと」のようだ。
しかしながらそれだけではこれほど再生数は伸びないだろうし、コメントを残そうとも思わないだろう。少なくともこの動画には海外勢におすすめ動画欄からわざわざクリックしたいと思わせ、およそ2分半の間ブラウザバックさせず、なおかつコメントを残したいと思わせるだけの『何か』があったのだ。

本記事では、その理由について(憶測ながら)迫って行きたい。

月ノ美兎の海外人気はそれほど高くない

まず前提として。月ノ美兎は国内において押しも押されもせぬ超人気バーチャルYouTuberだが、その海外人気は他のVTuberと比べると現状それほど高いとは言えない。これは本人もある程度わかっているようで、以前登録者数の話題が出た際には「わたくしも英語ペラペラになれればなー」と言っていた(『さよなら・・・【あつまれどうぶつの森/月ノ美兎/にじさんじ 】』より)。
国内での人気に比して海外人気がそれほど高くない理由としてはいくつか考えられるが、「月ノ美兎の大きな強みとして独特の語彙や古い日本のネット文化への造詣などがあり、それらは英訳しても理解するのが難しい」というのが大きい。月ノ美兎の一番の強みはその類まれなる感性や豊富な人生経験を基にした雑談である。海外人気の高いVTuberは海外でも人気の高いゲームや、言語に依存しないリアクションの面白さなどが強みであることが多く、その点では一歩譲らざるを得ない。

そんな月ノ美兎が投稿したこの動画がなぜ海外で大受けしたのか。その理由として以下の3つが挙げられると考えている。

①衝撃的な、それでいて海外勢が敬遠しないサムネイル
②日本人でも理解できない内容
③動画の短さ

①衝撃的な、それでいて海外勢が敬遠しないサムネイル

突然だが、皆さんにはある画像を見てもらいたい。
(引用元:https://hiyoko.sonoj.net/video-info/o6-na8AVSqI

画像1

これはVTuber分析サイト:VNUMAにある機能のひとつで、投稿された配信のチャット欄に頻出する単語を分析し、頻度別に画像として出力する、というものだ(本動画はYouTubeの「プレミアム動画」という機能を使用して投稿されたため、動画でありながら配信と同じようにリアルタイムチャット欄が存在した)。
とてもバーチャルYouTuberであるとは思えない用語ばかりが並んでいるのはひとまず置いておき、「scared」「deep」「what」などの単語に注目してもらいたい。
VNUMAで月ノ美兎のページを漁ると他の配信についても同様のチャット欄解析画像を見ることができるが、日本語以外の単語が混じっていることは基本的にまずない。「さっき言ったように偶然おすすめ動画欄に載ったからでしょ」と思うかもしれないが、プレミアム動画のチャット欄は動画公開前~動画公開直後(本動画では2分半)までしか投稿できない。YouTubeの仕様に明るいわけではないので断言することはできないが、公開前、あるいは公開直後の動画が、チャンネル登録しているわけでもない海外勢のおすすめ欄に載るとは考えにくい。しかしチャット欄には紛れもなく英語チャットが普段よりも多く投稿されている。
ぼくの仮説はこうだ。「たまたまプレミアム動画の待機画面を公開前に見つけた海外勢が、あまりにも衝撃的なサムネイルに驚き、チャット欄にコメントを残さずにはいられなかった」
月ノ美兎が作る動画のサムネイルは、基本的に月ノ美兎のアバターといかにもYouTubeチックな題字の入ったオーソドックスなスタイルになっている。一応例として動画を埋め込んでおこう。

それに対して今回の動画のサムネイルはこれだ。

圧倒的にシンプルで、それでいて凄まじい狂気性を感じさせるサムネだ。加えて題字が入っていないため、海外勢でも敬遠しない作りになっている。もちろん基本的には普段のオーソドックスなサムネイルのほうがいいと思うが、この一見とんでもないサムネイルが海外勢の呼び込みに一役買ったのはまず間違いないと見ていいだろう。
ぼくは動画公開前の待機画面も見ていたのだが、その時点ですでにいつもよりもはるかに多くの英語チャット、英語コメントが残されていたのをよく覚えている。

②日本人でも理解できない内容

観てもらえばわかると思うが、本動画では冒頭の「未来の子供たちへ向けて」という字幕、そして最後の「チャンネル登録よろしくね!」以外におよそ言語と呼べる代物は全く出てこない。それ以外の内容といえば「謎の仮面をかぶり月ノ美兎の制服を着た小柄な人間が、突然こちらに銃口を突きつけたかと思えば、すぐに自らの頭に向かって引き金を引き続ける」など、全編に渡って根源的な恐怖を感じさせる、月ノ美兎の孕んだ狂気性が遺憾なく発揮された、全くわけのわからない内容となっている。
本動画については、この「わけのわからなさ」が逆に海外ウケする要因となったように思われる。この動画の内容への疑問、あるいは恐怖は明らかに万国共通であるからだ。
また、本動画を見てエイプリルフール企画動画の本編を観に行った海外勢が、「あの動画のリンクをクリックして来てみたけど、答えではなく疑問ばかりが増えることになったよ」(意訳)という旨のコメントを残したことを記しておこう。

③動画の短さ

3つ目の理由について語る上で、あるVTuberについて触れておきたい。白上フブキ氏(以降敬称略)である。
白上フブキは海外での人気が非常に高いことで有名であるが、彼女の投稿した動画で特に海外人気の高いものがある。『Im. Scatman』だ。

この動画はわずか1分足らずでありながら、記事投稿時点で140万回近く再生されており、動画のコメント欄には英語コメントばかりが並ぶ。
海外のドラマー配信者の配信でこの動画の演奏がリクエストされ、笑って配信どころではなくなってしまったのは有名な話であり、いかにこの動画が海外ウケするかが伺える。このように、海外では短くてわかりやすい動画、いわゆる『meme』のようなものがより好まれる傾向にあることがわかる。
もうおわかりだろう。本動画『つきのみと没カット集』において、動画時間の短さが海外ウケする要因のひとつになったのは最早疑いない。
それだけではない。題字の無いシンプルなサムネイル、言語に依存しない動画内容…明らかに『Im. Scatman』と『つきのみと没カット集』に共通する特徴だ。これらの要素が合わさったことにより、海外勢を取り込むことに成功したと考えられる。

まとめ

『つきのみと没カット集』が海外で大きく支持を集めたのは、以下の3つの理由からだ。

①衝撃的な、それでいて海外勢が敬遠しないサムネイル
②日本人でも理解できない内容
③動画の短さ

月ノ美兎は「VTuberの海外進出」という課題について、新しい地平を開拓した。彼女が国内で根強い人気を獲得したのには、サブカル知識への深い造詣、独特な語彙、演出や構成の技術、配信への真摯な姿勢…様々な要因がある。
しかし海外でも通用する彼女の最も大きな強み、それは彼女の孕んだ大いなる『狂気』であった。これからも月ノ美兎からは目が離せない。

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