#58 アメリカ大統領選における敗北宣言 (Concession Speech) の位置づけ
大統領選に一区切りをつけるのが、負けた候補者による "敗北宣言 (Concession Speech)"です 。
アメリカ大統領選における”敗北宣言 (Concession Speech)"
その重要な"敗北宣言 (Concession Speech)" 。
実は憲法上では何ら規定されておらず、あくまでも敗者の善意と慣例によって行われてきた、極めて危うい位置づけのものなのだそうです!
CNNのコメンテーターで、元オバマ大統領の元補佐官のヴァン・ジョーンズ氏による解説です。49秒からです。
...did you know that under our Constitution, a presidential candidate could actually lose the popular vote, fail to get a majority in the electoral college, refuse to concede, manipulate hidden mechanisms in our government, and still get sworn in as the President of the United States of America?
(大統領候補者が、一般投票で負け、選挙人団制度でも過半数を取れなくても、敗けを認めず、政府の仕組みにおける裏の手を使えば、大統領になれる、ということが憲法上で認められていることを知っていましたか?」
こういった状況を、彼、そして主流メディアは”クーデター (a coup)”と呼んでいます(注:FOX News 以外、笑)。
大統領選終了後に暴動が起きないのは”敗北宣言"があるから
It turns out that one of the main safeguards of US democracy is not in the constitution at all. It's not in the law at all.
(アメリカ民主主義を守る、最も大切な手段であるこの行為は、憲法に記されていません。法律にはなっていないのです。)
It's actually just a little tradition. It's a little custom.
(実は、ただの伝統です。慣習なんです。)
And yet, this one voluntary gesture is one of the main reasons that you almost never have riots and bloodshed and strife after a US election.
(でも、このたった一つの自発的な行為があるからこそ、アメリカ大統領選の後に暴動や流血騒ぎや争いが起こることは、まずありえません。)
What I'm talking about is a concession speech.
(敗北宣言があるからです。)
開票後、負けたとされる大統領候補者の元には、顧問やメディアが「どうやっても、270以上の選挙人団の票は獲得できません」と言いにきます。
その瞬間・・・
...the fate of the entire republic is in the hands of a single politician
(一国の運命が、このたった一人の政治家の手中にあります。)
and their willingness to walk out there, and stand in front of their family and stand in front of the cameras and say,
(その人物が歩き出し、家族の前に立ち、カメラに向かって語り始めることに、全てがかかっています。)
"I am conceding the race, voluntarily. Thank you to my supporters, the other person has won now, congratulations to them, let's unite behind them, let's move on, let's be one country. God bless America.
(「私は自らの意志で、この大統領選から退きます。支持者のみなさん、ありがとう。相手方が勝ちました。おめでとうと言いましょう。この人のもとで団結しましょう。気持ちの区切りをつけ、ここからは一つの国として進んで行きましょう。アメリカに神のご加護あれ。」)
(こちらの画像は、2000年大統領選を戦った民主党ゴア候補。)
「この敗北宣言があるおかげで、敗れた候補者の何万人もの支持者は、武器を取り、抗議活動を行う、などという行動に出ることはありません。また、その候補者に投票した何千万人もの人々も、結果に納得できなかったとしても、敗北を認めます。」
And even more importantly, that concession speech has a technical function
(それ以上に重要なのが、敗北宣言に付与された専門的機能です。)
in that it kind of allows all the other stuff that our Constitution requires after the voting, and there are a bunch of steps like, you've got the electoral college that has got to meet, you've got Congress who's got to ratify this thing, you've got an inauguration to be had.
(憲法には、投票後に行うべき手続きが要件として規定されています。選挙人団を集め、議会が批准を行い、就任式を行う、などです。)
All that stuff can just move ahead on automatic pilot because after the concession speech, every subsequent step to either reinstate the President or elevate a new President just happens on a rubber-stamp basis.
(ひとたび敗北宣言がなされれば、これらは全て自動操縦状態で進行するようになっています。現職大統領が改めて大統領職に就く場合であろうと、新しい大統領が就任する場合であろうと、以降の段取りは全て決まっていて、ここから全て始まります。)
ですが、ここからが恐ろしい。。。
But we sometimes forget, candidates do not have to concede.
There's nothing that makes them concede.
つい忘れてしまいがちですが、候補者は敗北を認めなくてはいけない、とは決まっていないんです。撤退しなくてはいけない理由はないんです。
It's just a norm in a year in which nothing is normal.
敗北宣言はあくまでも、決まり事です。
ですが、今年は、当たり前のことは何もありません。
So what if a losing candidate simply refuses to concede?
What if there is no concession speech?
敗けている候補者が、負けを認めなかったら、どうなる?
敗北宣言をしなかったら?
僅差でどちらの候補者も負けを認めなければ、”エリート・セレクション・プロセス”に切り替わる
敗北宣言がなされなかったシナリオを説明するために、ヴァン・ジョーンズ氏は、大統領選を野球に例えます。5分3秒からです。
憲法上では、野球の試合は9イニングでなく、実は13や14イニングある、と想像してみてください。
もし9イニングの途中で「もう勝てない」と思えば、そこで負けているチームは敗北宣言をするでしょう。
9イニングで終了するのが、大統領選で誰もが注目する”一般投票”にあたります。ですが、開票結果が僅差で、両陣営が負けを認めない場合は・・・
The constitution requires this whole other set of innings. This "elite selection process" stuff, and this is all behind closed doors, it's among government officials,
(憲法には、14イニングまである”エリート・セレクション・プロセス”に切り替えるべき、と記されています。
”エリート・セレクション・プロセス”は密室で、政府関係者のみで行われます。)
And this process goes from the end of the vote counting in November, through December all the way and January.
(このプロセスは、11月の開票が終わった時点から1月まで続きます。)
就任式の直前まで、続く可能性がある、と。
エリート・セレクション・プロセスでも決着がつかなければ・・・臨時投票
その間、敗北宣言をしない劣勢の候補者は、どんな行動に出るでしょう?
なりふり構わずに議会、選挙人団、各州政府で、戦いに挑むでしょう。例えば、何百万もの郵便投票が開票されないよう、裁判を起こし、妨害するでしょう。
続いて、各州政府に対し”郵便投票に不正があった”あるいは”外国政府による選挙介入があった”と主張し、選挙が無効だったと言うでしょう。
また、現行の選挙人団とは違うメンバーを新たな選挙人団として送り込み、混乱状況を生み出すかもしれません。
超混乱状態になり決着がつかなければ・・・最終手段として下院での臨時投票 (contingency election) で大統領を決めることになります。
ちなみに、過去に臨時投票があったのは、1800年。
ミュージカル『ハミルトン』の時代ですね。
臨時投票に持ち込めば、共和党が優位
この臨時投票についても、ヴァン・ジョーンズ氏が警鐘を鳴らします。
なぜなら、投票は下院議員一人ひとりが票を投じるのではなく、議員が選出された州ごとに一つにまとめる、という投票活動となるからです。
これがどういう意味を持っているのか?
In 2020, the majority of Americans live in Blue states, but there are more Red states.
2020年において、大多数のアメリカ人は民主党系の州に住んでいますが、州の数としては共和党系の方が多いです。
So, there's a possibility that the Republicans in the House of Representatives could just anoint their candidate to be President, even without the popular vote, or a majority in the electoral college.
(つまり、共和党の下院議員は、一般投票結果も選挙人団の投票結果も関係なしに、自分たちの代表である候補者を大統領に任命できてしまう可能性があるのです。)
That could happen.
(現実に、起こりうる事です。)
バイデン候補が圧倒的な優位で選挙に勝てば、このような事態には陥りませんが、まだまだ何が起こるか、わかりません。
こんなときこそ、改めて。1時間バージョンのDavid S. Pumpkins で気分を軽くしたいものです。
いがらしじゅんこ:会議通訳者
#英語学習 #アメリカ大統領選 #臨時投票 #選挙人制度 #ヴァン・ジョーンズ #contingentelection #VanJones #TEDTalk #davidspumpkins
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?