風力発電 「乱開発」から陰謀論まで立ち向かう 続き

 先の記事の「山が乾燥する」にも繋がる話として、風力発電をめぐって各地の反対派は風車の建設によって「土砂崩れ」が起きるとか、事業者が施設周辺で発生した「土砂崩れ」を放置しているなどと言い広めている。しかし、これまで実際にはあったのは雨風などによる法面崩落程度で、それは事業者が対処して行政に報告もしていて、崩れた場所は復旧または経過観察の措置が取られている。

 風力発電が国内で普及して30年余り経ったが、風車が「土砂崩れ」を直接引き起こしたことも無ければ、「災害」に発展したことも無い。いくら探しても、該当するような事例は一つも見つからない。強いて言えば、土地改変による植生の問題は時々出てくるものの、気温や湿度、気象や季節が大きく関係する「乾燥」が出てくることは、まずありえない。

 具体的には、「(仮称)青山高原風力発電所リプレース事業に係る環境影響評価方法書 三重県環境影響評価委員会小委員会 質疑概要」に注目するといい。同資料6-7ページより抜粋:

委員:住民意見に対する事業者見解を拝見すると、土砂崩れに対する懸念が大きいように見受けられます。県の指導を得て適切に対処していると回答されていますが、文章だけでは住民の不安を払拭できていないと感じました。可能であれば、文字だけでなく、現地の復旧状況の写真も併せてお示しできないのかと思いました。また、土砂崩れの復旧現場や風車を撤去した跡地では在来の植生が回復できるよう努めていただきたいと思います。

事業者:住民の方から土砂崩れの場所が多いとご意見をいただいておりますが、青山高原ウインドファームが管理している場所については、しっかり復旧できていると考えております。これまでもご意見をいただいた方に復旧前、後の写真をお示しして、このように修復しておりますと説明しているのですが、配慮書段階でも方法書段階でも同様のご意見をいただいている状況です。他の事業者が管理している場所についても、同様に質問をいただいており、私どもの管理している場所ではないことを回答しているのですが、なかなかご理解いただけない状況です。青山高原風力発電所、新青山高原風力発電所それぞれ、日常の巡視点検の段階で崩れる状況に変化がないか、確認しておりまして、さらに新青山高原風力発電所においては、土木造成をした場所に特化した巡視を月に 1回行っています。こちらは、造成してからの年数が浅く、多少崩れることが、まだ起こっておりますので、早期に復旧しなければいけないもの、経過観察するものと、ランク付けをして、計画的に対応している状況です。そういった内容も、ご意見いただいた方には申し上げておりますが、なかなかご理解いただけない状況です。復旧した現場については、柵で覆う等、鹿の食害を防ぎながら元の植生に回復できるよう検討して、現場で実践してまいりたいと考えております。

委員:懸念されている地元の方に、真摯に対応されているということがわかりました。

 合わせて、「令和5年4月14日 風力部会資料 (仮称)青山高原風力発電所リプレース事業に係る環境影響評価準備書補足説明資料」にも同様の報告が記されている。同資料2ページより抜粋:

4.土砂崩壊について 【準備書P322、P331、P332】
既存施設設置後の,土砂崩壊に関して住民の懸念があるようです。
事業者側の見解にあるように,崩壊後の修復が適切に施されているのであれば,崩壊後および修復後の写真をそれぞれ示されることが,地域住民の信頼回復につながると思われます。

ご指摘の法面崩壊箇所については、「県の担当部局の指導・許可に基づき補修を実施し、その後は安定した状態を保っているとともに、日常の巡視・点検等において継続的に確認・管理している」ことについて、意見書の提出者に対し、方法書説明会の席上でも説明しておりますが、ご理解いただけませんでした。地域住民の皆さまからは、事業地全体に対して土砂崩壊等が発生しないようにしっかり管理して欲しい旨の話はありますが、当該箇所に対する特別なご意見はいただいておりません。
ただし、ご指摘のとおり、地域住民の皆さまはじめより多くの方から信頼をいただくため、評価書において、事業者の見解として、補修後(現況)写真を追加掲載するようにいたします。

 頑なに「土砂崩れ」を訴える側に事業者側が説明を繰り返しても「なかなかご理解いただけない状況」というのが、この問題の本質と言える。行政もその状況を把握しているが、反対派は総じて事実を認めようとはしない。認めない理由は単純で、認めてしまうと主張がすべて覆ってしまうから。とにかく「迷惑施設」「乱開発」扱いしなければ、活動は続かない。自称「専門家」の手を借り、勉強会や講演会の参加者や賛同者を増やせば、押し切れると思うようになるのかもしれない。

 この問題の根深さは、事業計画を白紙撤回に追い込む理由になりそうなものが主にネットやSNSで出回っている噂やデマ、作り話ばかりなので、そこから疑似科学や陰謀論にはまっていく図式があること。より注目されるために主張がどんどん派手になっても、自己目的化した活動に「検証」作業が備わることは無く、いつのまにか外との対話は閉じてしまい、本人たちの強い「思い込み」だけが現実に取って代わる。「エコーチャンバー」が出来上がってしまう。

 それは「現実と平行する別世界」であり、早い話が「現実逃避」でしかなく、思考の「行き止まり」なので、新たな答えは導き出せない。なので、堂々巡りが続くが、日本では依然としてメディアが掘り下げないので歯止めが効かない。そのあいだにも気候や生態系など前代未聞の危機は確実に進行しているが、それもまた反対に拍車をかけてしまうことになって、抜け出せない。

 昨今の再エネ嫌いの風潮には、以上のような背景や特徴がある。


参考:

2023/01/12 くまもりNews 
風車設置20年、三重県青山高原土砂崩れ止まらず 室谷会長ら現地視察
https://kumamori.org/topics/kumamori-news/20230112-1.html

(仮称)青山高原風力発電所リプレース事業に係る環境影響評価方法書
三重県環境影響評価委員会小委員会 質疑概要
日時:令和 3年 3月 1日
https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000941140.pdf

(仮称)青山高原風力発電所リプレース事業に係る環境影響評価準備書補足説明資料
令和5年4月
株式会社 青山高原ウインドファーム
https://www.meti.go.jp/shingikai/safety_security/kankyo_shinsa/furyoku/pdf/2023_001_02_02_02.pdf


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