風力発電 「乱開発」から陰謀論まで立ち向かう

 GPIが福井と滋賀にかけて計画している風力発電事業でも、山間部であるがゆえに土砂崩れを懸念する声が少なくない。実際、同地域では長年放置されたままのスキー場跡地が周辺に影響を及ぼしているため、開発に厳しい目が向けられている。
 
 とはいえ、聞こえてくるのは、そういった問題を挙げる地元の声ばかりではなく、全国で盛んな反対運動からのもある。中でも、関東の造園業者による「意見書」はまた目を引く疑似科学というか陰謀論で、風車を建てると地層や水脈まで損なわれて「山が乾燥する」らしい。そのコピペが、案の定、ここで投書に使われている。

 「(仮称)余呉南越前第一・第二ウィンドファーム発電事業 環境影響評価準備書についての意見の概要と当社の見解」32-33ページ、「意見の概要 No.70」一部抜粋:

山の乾燥は流域における水の涵養力を損ない、河川 水の恒常性を損ない、その影響は流域全体を不安定にし、森林の劣化、岩盤や斜面の崩壊、河川への泥の流入と堆積、そして土石流の危険をも増大させます。 これらのことは、貴社の「準備書」では説明されていませんでしたが、本発電計画における設備設置の中心地帯ともいえる「旧ベルクスキー場跡地」に見られる山斜面の崩壊、谷筋に放置されたリフト支柱を囲む 裸法面の現状とその谷筋下流における土砂堆積、高時川支流の音波川渓流における土砂堆積などで確認することができます。さらに、大量の雨が降った後の高時川の濁流、それによる高時川の川床への土砂堆積などは、地元民のみならず河川を愛する多くの皆さんが日常的に憂うところです。 風力発電設備で水脈環境が大きく変わる例は、青森県の津軽ウィンドファーム開発後、その周辺に広がるペンセ湿原の広大な泥炭層に影響し、世界的にも大変貴重な出来島最終氷期埋没林が腐敗、崩壊した事実が示していることは周知のことだと思います。数万年規模の大量の炭素を固定してきた泥炭層は今急速に失われ、現地では鉄分が溶脱して赤く油脂を含んだ水が海へと流れ続けています。時系列を追えば、風力発電開発の影響が泥炭の喪失を加速したことは明らかで、この現象は一般的に説明される温暖化原因説では、現代も変わらずに健全な状態で固定されている泥炭層との違いを説明できません。本発電計画においては、上記のような泥炭層の間題は発生しないとは思いますが、何百年以上もかかって育ってきたブナや、ナラなど尾根筋近くに生える多様な植生が一瞬で皆伐されてしまいます。原状回復には、数百年かかります。

 物理的に考えるまでもなく、自然要因を無視して何でも風車に結びつけること自体が全く理屈になっていないということを、まずは本人が気づくべきだろう。また、「津軽ウィンドファーム開発後、その周辺に広がるペンセ湿原の広大な泥炭層に影響し、世界的にも大変貴重な出来島最終氷期埋没林が腐敗、崩壊した事実が示していることは周知のこと」とは、初耳。なので、「津軽ウィンドファーム」ではなくて「ウィンドファームつがる」を指しているのだろうと察し、検索すると「出来島最終氷期埋没林」の解説や写真は見つかるものの、風車の稼働によって「腐敗、崩壊した事実が示している」というのは見当たらない。先の造園業者による、他の地域の事業計画に当てた「意見書」以外は。
 
 その意見に対する「事業者の見解」は、以下のとおり:

本事業は、ご指摘のスキー場開発とは異なり、山肌の斜面を山頂から谷底までを皆伐するような開発計画ではありません。尾根の比較的勾配の緩やかな地形において、林道規定に基づいた道路の建設や、風車ヤードの敷地造成を計画しております。また、道路の取付の際には、伐採量や改変面積を減らす工夫として、風車のブレードを運搬する際には、ブ レードを起立させて運ぶ特殊な車両を用いる こととしています。さらに、風車を組み立てる際には、通常は地上で3枚をまず組んで取り付けますが、今回は空中で1枚ずつ取り付けることで、風車ヤードに伴う伐採量や改変面積を必要最低限に留めるように計画しております。 また、風車の基礎の面積は一か所あたり約400m2ですが、対象地の山林の集水範囲から見ると、局所的であり、その周囲から雨水は山林に浸透していくため、山全体が乾燥するというようなことは考え難いです。青森県の風力発電においても同様であり、風車の基礎の周囲から雨水は土壌に浸透していくため、 実際に周囲では継続的に農地として利用されていることからも風車の基礎が水脈に悪影響を与えているとは考え難いです。 なお、本工事における河川への土砂流出の 対策については、沈砂池の設置、排水施設の 整備、法面緑化、土砂流出防止柵の設置等を計画しており、林地開発許可基準等に照らし合わせて、許認可事前協議を踏まえながら、さらに詳細検討を進めてまいります。

 「局所的であり、その周囲から雨水は 山林に浸透していくため、山全体が乾燥するというようなことは考え難い」というのは当然で、同事業者には各地で長年の運営実績があり、現場を知っている。山が乾燥するという発想は、風車を「巨大な扇風機」とでも捉えない限りは、なかなか出てこないはず。一つ言えるのは、ありきたりな妄想では風車は止められないということ。風車を動かすのは自然の風で、その仕組みは科学で、前代未聞の危機に立ち向かう最善の手段だから。


参考:

(仮称)余呉南越前第一・第二ウィンドファーム発電事業 環境影響評価準備書に係る公聴会 議事概要
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5373120.pdf

(仮称)余呉南越前第一・第二ウィンドファーム発電事業 環境影響評価準備書についての意見の概要と当社の見解 
令和4年11月 株式会社グリーンパワーインベストメント
https://www.meti.go.jp/shingikai/safety_security/kankyo_shinsa/furyoku/pdf/2023_002_02_01_03.pdf

宮城加美風力発電事業建設計画への意見書 特定非営利活動法人 地球守 代表理事 高田宏臣
https://jimdo-storage.global.ssl.fastly.net/file/cfaa3a10-c75c-4c95-afb1-5772e4fd75fe/%E5%AE%AE%E5%9F%8E%E7%9C%8C%E3%83%BB%E5%8A%A0%E7%BE%8E%E7%94%BA%E9%A2%A8%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%84%8F%E8%A6%8B%E6%9B%B8_%E7%92%B0%E5%A2%83%E5%9C%9F%E6%9C%A8%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80%E3%83%BBNPO%E6%B3%95%E4%BA%BA%E5%9C%B0%E7%90%83%E5%AE%88%E9%AB%98%E7%94%B0%E5%AE%8F%E8%87%A3.pdf

東北森林管理局 津軽森林管理署金木支署の見所 名称「出来島の最終氷期埋没林」
https://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/introduction/gaiyou_kyoku/annai/midokoro/midokoro_saishuuhyokimaiboturin.html

日本最大の風力発電所「ウィンドファームつがる」の完工・商業運転開始について 2020年4月1日
https://greenpower.co.jp/2020/04/01/tsugaru_syougyouunntenkaisi/


関連: