風力発電 「文化的争い」や「軋轢」を乗り越えていくために  

 前代未聞の危機真っ只中、従来からあるとはいえ、再エネ転換を拒む動きを文化的争い(culture war)と呼ぶのが適当のかどうかはともかく、風力発電に反対する意見に対して地域や社会がどう対応すべきか、もう少し考えてみたい。経産省「風力部会」の「平木阿波ウィンドファーム事業及び (仮称)平木阿波第二ウィンドファーム事業に係る環境影響評価準備書についての意見の概要と事業者の見解」から、二つ取り上げる。

 まずは、30-31ページより抜粋:

----阿波地区は伊賀米の生産地です。ちょうどこの資料を作成している中、梅雨の合間の蒸し暑い中で父や近所のおじさんが畦の草刈りをしています。私も早くこの資料をまとめ終えて草刈りに行きたく思っております。みんなおいしい伊賀米を全国の皆さんに届けるべく本当の意味で汗水垂らしてります。JA いがふるさとの HP(http://www.jaiga.or.jp/?=467)では伊賀米を安全・安心な美味しいお米」と表現しております。しかし、風車の騒音や、振動で睡眠が妨げられれば、体力が落ちる、体調不良となります。真夏に草刈をすることも多いので、草刈をしていて熱中症で倒れ、発見が送れて死亡する場合も予想されます。農作業をしているときに、体調不良で作業を中止しなくてはならないことも考えられるし、死亡事故も増えることが予想されます。予想される中で建設する場合の責任は重大だと思います。
さらに、交通インフラが貧弱である阿波地区は少しの買い物程度の移動でも自動車を運転する必要があるが、寝不足による注意力不足や運転中の居眠りによる交通事故なども十分に考えられます。

<中略>

私自身、米作を続けるには他の地域から米作りに興味のある仲間を呼んでくる必要があると感じ、地域の空き家に住んでもらいたいと思い、声かけをしましたが、「米作ができるのは魅力的だが風車ができるような地域には住みたくない」と言われました(彼ら夫婦は同様の理由で淡路島への移住も止めています)。田舎暮らしをしようと思う若者のアンテナは非常に高いようで、風車がないことを条件にしているようです。彼らに我が地域に来てもらうためにも、改めて、健康被害が起きないことを理論・理屈・現場現物現実を以って説明してください。

 環境アセスで周辺への影響がほとんど無いことが分かっていても「 風車の騒音や、振動で睡眠が妨げられれば、体力が落ちる、体調不良となり」「真夏に草刈をすることも多いので、草刈をしていて熱中症で倒れ、発見が送れて死亡する場合も」「農作業をしているときに、体調不良で作業を中止しなくてはならないことも考えられるし、死亡事故も増える」という本人の強い思い込みが「ノセボ効果」として表れるのだろう。別の見方をすれば、過疎化の深刻さがよく表れている。でも、その苛立ちをぶつける相手を間違っている。

 農業との関連では、地域は異なるが2年前の農水省の資料「農林漁業の健全な発展と調和のとれた 再生可能エネルギー発電を行う事例」25ページ「風力2」「風力発電と田園風景との調和による農産物直売所の集客増加」には、山形の庄内町の事例が写真とともに紹介されている。「最上川に沿って吹き抜ける強風を逆に利用する発想から、風力発電事業を開始」「庄内米の穀倉地帯である最上川流域に広がる水田の間を縫って風車を設置」「景観的にも風車が田園風景に変化を与えるモニュメントとなったこと」で「風車市場」の名称で直売所を始め、新たに「道の駅しょうない風車市場」では展望スペースやレストランを展開していることなどが記されている。真似しない手はない。

 農業の新たな担い手となるであろう移住希望者の思い描く「田舎」の姿は様々だろうが、温室効果ガスの削減は農地でも必要不可欠なので、食料もエネルギーも分け隔てなく議論すればいい。気温上昇に伴う農作物への影響、適応や緩和も考えれば、どの地域でも風力など再エネを毛嫌う理由はなくなるはず。再エネ転換を拒んだり遅らせたりする程、持続可能な「スローライフ」の夢は遠のく。そういう悪循環に陥るのは、じつに皮肉な話。移住の前でも後でも、本人や地域が孤立しないための術は、正しい情報の取得を習慣づけること。陰謀論や偽情報はエンタメでもなければ、暇つぶしの材料でもないし、どの世代でもカッコつかない。そこから成長せずには。

 次に、79ページより抜粋:

(株)シーテック社のウィンドパーク笠取は平成 22年 2 月に 2,000kw/h、19 基が運転開始。同施設は平成 25 年 4 月 7 日ナセル落下事故が起きる(写真の通り)。最大定格回転数は19Rpm/min、それ以上廻ろうとすると、プロペラの稼働を止める「フェザリング」状態で風に対応するが、故障当日は規格回転の約 3 倍 59Rpm/分になりブレードと発電機150 トンが落下、事故発電機からの離隔は 2km の津市美里町平木地区では、住宅が今にも飛ばされる強風が吹きつけた。家の中で立っておられず四つん這いになった。私は事故に遭遇した一人です、今でも記億に新しいです、その不安や心配はとても払拭することができない。具体的には、・騒音、振動がとてつもなく大きく、家が崩壊するかと思ったこと・まさか羽根が崩落するとは思っておらず、今まさに家までとんできそうな風の勢いでした。など、かなり大きなトラウマになっています。近接地区離隔は 2km でそのような事故状況であった。今回の GPI 社の計画は集落との離隔 1.3km~1.5km という近接で、発電機単機出力は 4,200kw/hでこの地域では経験がない規模(皮算用と言われている)発電機が 9 基、その内 5 基が平木地区の集落を見下ろす位置に計画と説明。発電機の高さは最長 170m(GPI 社平木区での説明は 180m)でした。そこでお伺いしますが、風力発電機事故の予測は出来ません。落雷、乱流、設計製造不良、原因不明事故が全国で年間 150 件程起きています。事故は予測不能です、その対策は一体どの様になっているのか、しっかりと伺いたいと思います。GPI 社の見解、説明を求めます。

 10年前の落下事故は、経産省「第5回 産業構造審議会 保安分科会 電力安全小委員会 風力発電設備構造強度ワーキンググループ」で最終報告が出ている。簡単に説明すると、風車の落下は部品に不適切な素材が使われていたことに起因し、事故後の調査で判明して再発防止策が取られた。以降、この風力発電施設では同様の事故は起きていない。

 ただ、意見投稿者の「騒音、振動がとてつもなく大きく、家が崩壊するかと」「まさか羽根が崩落するとは」「今まさに家までとんできそうな風の勢い」「かなり大きなトラウマ」「近接地区離隔は 2km でそのような事故状況」は、当時の強風を経験した本人の回想録だとしても、風車と直接結び付く要素が見当たらない。風車が強風を引き起こしたとでも無理矢理考える以外は。仮に部品が細かく砕け飛び散っても2km先あるいは1km先でも及ぶとは考えにくいし、その前にあらゆるものがすでに飛散しているのだろうと想像する。同地域はもともと台風の通り道だが、今のまま温室効果ガス排出量が増え続けると、風車も飛ばされるような結末を頭の中で描くようになるのかも。


参考:

(仮称 ) 平木阿波ウィンドファーム事業及び (仮称)平木阿波第二ウィンドファーム事業に係る環境影響評価準備書についての意見の概要と事業者の見解
令和4年10月 株式会社グリーンパワーインベストメント
https://www.meti.go.jp/shingikai/safety_security/kankyo_shinsa/furyoku/pdf/2022_018_02_01_03.pdf

ウインドパーク笠取発電所CK-19号機風車ナセル脱落事故について(最終報告)(株式会社シーテック資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/furyoku_hatsuden/pdf/005_02_01.pdf

ウインドパーク笠取発電所CK-19号機風車ナセル脱落事故について(株式会社シーテック資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/furyoku_hatsuden/pdf/005_02_02.pdf

農林漁業の健全な発展と調和のとれた 再生可能エネルギー発電を行う事例
令和2年1月 農林水産省 食料産業局 バイオマス循環資源課 再生可能エネルギー室
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/zirei-41.pdf


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