Canonと温暖化懐疑論 科学に背を向ける企業活動に抗議する 続き 

 先の記事では、温暖化懐疑論を広めているCanonシンクタンクの問題を取り上げたが、今日の標的となった再エネやEVの他、同様の文化的争い(culture war)には、例えば、日本ではごく最近のコオロギ食、米国では調理用ガスストーブなどもある。また、同国の東海岸で本格的に始まった洋上風力発電をめぐっては、ソナーを用いた海中調査や風車稼働時の騒音をクジラの死因と結びつける科学的根拠の無い主張が化石燃料業界から資金を受けている反対派から出てきているが、驚きに値しない。

 SDGsで有無を言わせずコオロギ食が導入されるとか、屋内換気が前提でもガスの吸引による健康被害が明るみになるにつれ、政府が家庭のガスストーブを奪いに来るといった噂やデマが急激に広まって「炎上」する。すでに禁止している地域の理由はもっともで、喘息など健康被害以外に、CO2の数十倍の温室効果を持つメタンが「地球加熱」の原因であるため。様々な騒動の背景には、導入や規制する側の特定の人物や組織に向けられた嫌悪も共通している。日本のコオロギ食ではワクチン接種に見立てた陰謀論まであり、出処や流通先など基本的には同じなのだろう。

 思い出すのは、2000年代後半に地球温暖化のメカニズムを克明に描いたアル・ゴアの映画「不都合な真実」が世界中で話題になると、凄まじい反発が起きたこと。日本でも当時から英語圏の偽情報の温暖化懐疑論が出回り、本や雑誌、TV番組など、科学の信頼を失墜させる化石燃料業界の思惑を反映するものが圧倒的だった。2010年の「クライメートゲート」事件では気候学者側の潔白は早期に証明されたものの、世間一般、同分野にそこまで関心が無かったり、幸か不幸か、一連の騒動は次第に消えていったように見えた。

 しかし、翌年に福島第一原発事故があり、国内で「脱原発」運動が盛んになるにつれて、事故以前から運動内に存在していた温暖化懐疑論者らが勢いを増し、原発問題を口実に化石燃料推進の言論が幅を利かせるようになった。一時期は「国民運動」と呼ばれたが、消費やファッションを全面に打ち出し、草の根の基本である非暴力不服従の教育は二の次、三の次。運動のタガが外れ、シングルイシューで頭打ちし、視野や裾野を広げて世界の気候運動との連帯を模索しないまま、時間だけが過ぎていった。

 以上、文化的争いそれぞれに理由はあって、それらすべてが問題ではないが、問題の根本に目を向ければ、情報の撹乱によるエネルギーの浪費を避けることくらいは出来る。中長期的視点で、気候、環境、社会の公正の実現を阻むものには、とくに注意すべき。俯瞰して気づくことがあるはず。


参考:

コオロギが食用って…なぜ? 2023年3月7日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230307/k10013997061000.htm

Gas Stove Culture War Boils Over: What Did The Industry Know, & When Did They Know It?
By Steve Hanley
https://cleantechnica.com/2023/03/05/gas-stove-culture-war-boils-over-what-did-the-industry-know-when-did-they-know-it/

US: Anti-renewable groups target whale deaths
Alistair Walsh 03/06/2023
https://www.dw.com/en/us-anti-renewable-groups-use-whale-deaths-to-block-offshore-wind/a-64870256

関連:


この記事が参加している募集

カメラのたのしみ方