「ワタシのミライ」を切り開く  足元の「システムチェンジ」

 パタゴニアは本社の創業者の「理念」のもとで、これまで世界の自然や環境の保護活動の分野で多大な支援を続けてきたことは、よく知られている。それは「質」「誠実さ」「環境正義」「公正さ」「従来のやり方にとらわれない」というもので、もちろん日本支社も共有し、国内各地の大小様々な団体に助成している。具体的な例だと、FoEや350など国際NGOの日本支部や「学校ストライキ」で有名なFFFの名の下で気候危機を訴えている日本の若者たちのプロジェクトも対象で、さらにそれらの団体や個人が中心となっている「ワタシのミライ」キャンペーン自体も含まれる。
 
 ただ、少し調べると、あからさまにありえないような矛盾が生じていることに気づく。日本支社の対応や認識は、とりわけ「誠実さ」「環境正義」「公正さ」を致命的に欠いていると言わざるを得ない。具体的には、3つ。それぞれの背景とともに記す。
 
 1つ目は、上記の「理念」に強く共感する国内店舗の非正規スタッフが、以前から社会問題化している「契約更新5年上限」と称する「無期限転換逃れ」によって昨年に雇い止めに遭い、自ら労働組合「パタゴニアユニオン」を結成して撤回を求めて署名活動を開始。日本支社に対して「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」「環境問題は人権問題」「人を大事にしない企業に未来はありません」など訴えて交渉も続ける中、雇用期限が切れる直前に勤務先の建物外でストライキを決行。訴訟も視野に入れているという。
 
 一連の活動の様子は新聞やTVでも報じられてきたが、日本支社は自らの過ちを認めようとはしない。同時に、「理念」を通じて仲間であるはずの「ワタシのミライ」キャンペーン関係者らから日本支社の旧態依然の姿勢に抗議の声など上がる兆しも見られない。パタゴニアが大事にしてきた「誠実さ」「環境正義」「公正さ」は、いったいどこに?キャンペーン関係者らは助成を受けている側だから声が上げにくいのだとしたら、年明けが期限の次回の申請は考え直すべきで、助成制度は資金を渡す側と受ける側の双方のニーズが合致しなければ、そもそも成り立たない。
 
 「雇止めについて」は、厚労省のサイト上に「無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではありません。また、有期契約の満了前に使用者が更新年限や更新回数の上限などを一方的に設けたとしても、雇止めをすることは許されない場合もありますので、慎重な対応が必要です。」とある。創業者のイメージも手伝ってか、ほぼ無条件に称賛されてはきたが、労使関係で訴訟になれば、日本支社から「ワタシのミライ」まで信頼が失われるであろうことは容易に想像出来る。そうなれば、運動は確実に後退する。
 
 思い返せば、同キャンペーンの前身の「あと4年、未来を守れるのは今」でも肝心の「気候正義」は常に後回しだったし、それぞれの団体が連携するにつれて、化石燃料業界の「見本市」とまで揶揄される近年のCOPの進捗状況とのすり合わせが目的化し、国内外のMAPAまたは「グローバルサウス」の声や立場は、いっそうおざなりに。しかも「あと4年」と終末論さながら「気候不安」を煽る一方で、政府の温室効果ガス排出削減目標の数値に固執しながらも、どういうわけか一貫して「脱石炭」「脱原発」しか呼びかけず、諸外国のような「つなぎの天然ガス」批判は皆無で、整合性を欠いたまま立ち消えとなった。なので、いくらキャンペーンを刷新しても、同じ面子で同じ戦術では前回の「焼き直し」にしかならない。ただ、それでも前に先に進まなければならない。
 
 パタゴニア日本支社の助成の方針は、こう書かれている:

私たちは以下のようなグループに助成します

多様性、公平性、かつ包括性のある環境ムーブメントを構築している
環境政策やアウトドアにおける体系的な偏見、差別、不公正に立ち向かうもの
行動志向であること
計測可能であること
市民を巻き込み、支持を得ている
ターゲットと目標において戦略的に活動している
問題の根本的原因に焦点を当てている
成功が効果的に測定できる特定のゴールと目標を達成している
パタゴニアがビジネスを展開している国のうち、以下の国内を拠点に活動しているグループ:アメリカ、カナダ、日本、韓国、オーストラリア、チリ、アルゼンチン、イギリス、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、ノルウェー、ルクセンブルク、イタリア、アイルランド、ドイツ、フランス、デンマーク、ベルギー、オーストリア、チェコ共和国

 「多様性、公平性、かつ包括性のある環境ムーブメントを構築」「環境政策やアウトドアにおける体系的な偏見、差別、不公正に立ち向かうもの」など、皮肉にも日本支社による雇い止め問題で体を張って闘っている非正規スタッフ本人のために始めから用意されていたのではないかと錯覚するくらい。そのような「人事評価」すら出来ない日本支社こそ、この機会に根本から変わる必要がある。明らかに「パタゴニアユニオン」の方が創業者の「理念」と整合し、合致する。雇い止めの撤回と同時に、新たな可能性を秘めた「パタゴニアユニオン」に日本支社が助成しない理由が見つからない。
 
 2つ目は、国連事務総長による「地球沸騰」スピーチがバズった矢先の今年9月に、「ワタシのミライ」の東京イベントでは3.11後の著名な「脱原発」団体から温暖化懐疑論者まで呼んで、気候危機を訴える若者たちとの「目玉企画」トークに登壇させたこと。その場では誰の口からも懐疑論自体は出なかったようで、集まった参加者の大半も気にかけなかったとしても、懐疑論者本人は最近も講演で人為的要因を否定する発言を繰り返している。「脱原発」界隈の温暖化懐疑論の問題は、ずいぶん前から言われてきたことなので主催者らが全く知らなかったとは思えないし、もっと言うなら、若者たちと温暖化懐疑論者との「接近」も初めてではない。繰り返しになるが、パタゴニアの「誠実さ」「環境正義」「公正さ」は?
 
 3つ目は、日本支社の助成先に風力発電など再エネの事業計画に反対してきた団体が複数あること。そのうち、「えひめ風車NET」は2010年代半ばに愛媛で地元の有志らが立ち上げた当初から、主に疑似科学の「風車病」を根拠に活動を展開。愛媛で事業者に対して風車建設の差し止め訴訟を起こしたり、四国内外で「勉強会」と称して偽情報や誤情報を今も公然と広めている。愛媛では敗訴したが、高知や徳島では協力した反対運動によって、事業計画が相次いで白紙撤回となった。日本支社との関係は同団体の代表も過去にSNSやブログで示していて、助成が継続的なのか、2022年度が最新。
 
 この団体の紹介は、以下のとおり:

えひめ風車NET
愛媛県

ミッション
全国の山間部において大規模風力発電による環境破壊が深刻化している。多くは利益至上で自然環境や住環境を軽視して問題を起こしている。地元が望まない風車の押し付けによる不適正な開発と環境破壊を阻止する。

助成プロジェクト
地域が望まない大規模風力開発から地域を守るPJ

 何も疑わずに読めば、あたかも風車が原因で大惨事が起こっているかの印象を受けるが、「ファクトチェック」を済ませて客観的に言えるのは、「 全国の山間部において大規模風力発電による環境破壊が深刻化している」という事実や実態は無いということ。各地で既存の施設や事業計画をめぐって苦情や紛争はあるけれども、「 多くは利益至上で自然環境や住環境を軽視して問題を起こしている」具体的な根拠など(捏造以外は)誰も見い出せない。それに「 地元が望まない風車の押し付けによる不適正な開発と環境破壊を阻止する」理屈も通らないのは、大抵どこでも賛成と反対どちらもいるし、「不適切」「環境破壊」防止に厳格化された現行の環境アセスが適用されるので、仕組みを理解すれば、そこまで心配する必要はなくなる。
 
 強いて言えば、デマや噂、つくり話による不安や恐怖の扇動や地域内外の反対派による住民説明会の乗っ取り行為が無ければ、事業者や行政と住民らとの話し合いの機会は保たれる。まずは議論のための健全な環境づくりを目指すべきで、関係者や参加者らの好き嫌いや思い込みは一旦、脇に置くといい。
 
 そのためにも、日本支社の助成の方針の続きを参照:

私たちは以下のようなグループには助成していません

民族、人種、宗教、肌の色、性的指向、性別、性同一性、年齢、出身国、家系、市民権、退役軍人や障害者の地位に基づく偏見や差別を助長している組織
トレイルの建設またはメンテナンス、修復
ダムの改変または人間の介入による魚道の整備、孵化場プログラム
土地の購入または土地トラスト
科学的な研究 (ただし、環境問題を解決しようとする特定の行動を直接支援する調査は除く)
環境教育のみを目的としたプロジェクト
環境に関する会議、イベントのスポンサー、映画祭
寄付基金
特定の候補者を支援する政治的キャンペーン
環境配慮型建築に関連する取り組み
自転車の啓発。プロジェクトが気候変動の解決策を直接サポートしていない限り。

 愛媛の団体は疑似科学を振りかざしている時点で「民族、人種、宗教、肌の色、性的指向、性別、性同一性、年齢、出身国、家系、市民権、退役軍人や障害者の地位に基づく偏見や差別を助長している組織」に該当する。なぜなら、再エネを叩いて気候危機の対策を遅らせたり否定する行為は、MAPAまたは「グローバルサウス」に対する攻撃と同義。代表本人が温暖化懐疑論者でもあることはSNSの投稿から読み取れるが、日本支社の担当者は、その程度の確認すらしていないのだろうか?助成を決定する本社に対し、これまでいったいどのような報告をしてきたのか?本来は対象外の団体まで日本支社自ら育ててきた事実は今となっては消せないし、同様の団体は先に書いたように他にもまだある。何度でも言うが、日本支社に「誠実さ」「環境正義」「公正さ」を大事にする気持ちや姿勢が少しでも残っているなら、精査し直すのは今からでも遅くはない。
 
 そのようにして、気候危機「主犯」の化石燃料業界並びに関連産業、政府や金融機関にたどり着く前の、問題の「構造」の根っこの部分が初めて露わになる。キャンペーンの「ワタシのミライ」を切り開くことで、足元の「システムチェンジ」実現に繋がる。運動が取り上げようが取り上げまいが、気候や生態系からウクライナやパレスチナまで、前代未聞のあらゆる危機と向き合って、互いを助け合いながら生きていくためには。

01/02/2024 加筆修正済

参考:

人材の入れ替え理由に「雇止め」撤回求めパタゴニア日本支社労組がストライキ 札幌 2023年12月23日
https://www.htb.co.jp/news/archives_24072.html

パタゴニア日本支社に、非正規スタッフの無期転換逃れ撤回を求めます。
https://www.change.org/p/%E3%83%91%E3%82%BF%E3%82%B4%E3%83%8B%E3%82%A2%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%94%AF%E7%A4%BE%E3%81%AB-%E9%9D%9E%E6%AD%A3%E8%A6%8F%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%95%E3%81%AE%E7%84%A1%E6%9C%9F%E8%BB%A2%E6%8F%9B%E9%80%83%E3%82%8C%E6%92%A4%E5%9B%9E%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%81%BE%E3%81%99

無期転換ルールについて 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21917.html

パタゴニア日本支社 パタゴニアのコアバリュー
https://www.patagonia.jp/core-values/

パタゴニア日本支社 環境助成金プログラム
https://www.patagonia.jp/how-we-fund/

パタゴニア日本支社 環境助成金プログラム 助成先一覧
https://www.patagonia.jp/jp-enviro-grants.html

ワタシのミライ
https://watashinomirai.org/

ワタシのミライ 賛同団体一覧
https://watashinomirai.org/support/

20230918 UPLAN【集会】「ワタシのミライ NO NUKES & NO FOSSIL~再エネ100%と公正な社会を目指して」
https://www.youtube.com/watch?v=xKEb7CeRIXI

未来を生きるあなたへ 2022.08.25
https://table-shizenha.jp/?p=6845

えひめ風車NET  風車の問題点
http://www.think-ew.net/problem.html

いま田舎民が知っておくべき『伝わる』情報の発し方 2016/12/22
https://inaka-pipe.net/20161222/


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