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イベントレポート:資金調達の背景と狙い、その先に描く未来とは。投資家の評価は?!

2024年4月26日のプレスリリースの通り、シリーズBラウンドで60億円の資金調達を行いました。これに関連し、5月13日 (月) にオンラインイベント第1弾として、リードインベスターである DCM Ventures よりパートナーの原 健一郎さんをお迎えして対談を行いました。

本記事では、その対談の内容を編集してお届けします。

【登壇者】
ゲストスピーカー:DCM Ventures パートナー 原 健一郎 さん
スピーカー:株式会社enechain 代表取締役 野澤 遼
ファシリテーター:株式会社enechain VP of HR 松生 美紀

資金調達の背景と狙い

松生:今回のシリーズBでの資金調達の背景と狙いを教えていただけますか。

野澤:とにかく「攻めたい」という想いが強かったですね。
1兆円のGMVを達成でき、事業は割とうまくいっているとは思いますが、ここで守りに入らずにさらにアクセルを踏むために今回の資金調達に至りました。
今までマーケットプレイスをつくってきて、これを百倍に成長させていこうとすると非線形な変革が必要です。それを実現するために我々はテクノロジーにベットしようと考えています。例えば、ユーザーがもっと取引しやすい環境をつくるために、例えば市況の情報を高速でリアルタイムに発信したり、eScanというリスク管理アプリケーションのアルゴリズムを強化したり、テクノロジーの力でよりよいプラットフォームをつくっていけたらと思います。

一方で、守りもしっかりやっていきます。
我々のエネルギートレーディングマーケットには大手電力会社にも入って頂き規制対応などもやっています。取引のサポートをする際にトレーディングのログをミリセカンド単位で収集して、それを監視等委員会に提出したりしています。それが万一、ログが取れていませんでしたとなると一発アウトの世界なので、堅牢性やセキュリティといった守りにも投資していきます。

投資家目線でみた、シリーズA以降のenechainの歩み

松生:投資家である原さんからの目線で、enechainがシリーズA以降どんな歩みをしてきたかを教えていただけますか。

DCM原:僕らが以前シリーズAで投資したのがちょうど2年前くらいで、当時と大きく変わっている点が3つあると思っています。
1つ目は、以前よりテクノロジー企業になり急速に成長した点です。前回投資したときの 1年のGMVが900億円くらいで、今が1兆円なので、10倍以上違うんですね。普通のビジネスは、こんなにいきなり伸びることはできないんです。僕も野澤さんもコンサルティングビジネス出身ですが、たとえばコンサルティングだと、売上は簡単にいうとコンサルタントの数とプロジェクトの数で決まるので、売上を10倍にするにはコンサルタントの人数を10倍にしなければならない。
一方で、僕ら DCM Ventures が投資している会社は世にいうテクノロジー企業なので、ソフトウェアやテクノロジーを活用して急速に成長することができる。シリーズAのときとの違いはそこだと思っていて、エンジニアの数が増えているし、自動化のレベルが変わっているし、1兆円の取引を仲介するのはほぼほぼ難しいので、それに対応できるテクノロジー企業になりつつあるところがまず大きな違いですね。

2つ目は、ビジネスが成立しているだけでなく、業界にとってなくてはならない存在になってきている点です。
シリーズAの際に議論になっていたのは本当にこれがビジネスとして成立するのか、新電力や大手電力会社が使うようなニーズがあるのかがポイントでした。シリーズAからBに向けて変わったこととしては、ビジネスが成立していることに加えて、業界にとって一番大事なプラットフォームになりうる存在になっている。皆が将来このプラットフォームをつかって取引をしてくれるだけの守りだとか、業界・政府から一定の信頼を得られているのは結構大きいと思います。

最後は、コンパウンドスタートアップとなる第一歩を踏み出している点です。
先ほどeScanの話をされていましたが、シリーズAの際の資料を見返すと、シリーズAの時にはeSquareというコアになっているマーケットプレイスのみで、モバイルアプリも出します、くらいの段階でした。今はそれに加えてeScanやeCompass、JCEX、今はまだ言えない展開も今後やっていく方向性があったりする。巷ではそういったスタートアップを「コンパウンドスタートアップ」と呼ぶのですが、複数のプロダクトを持つことで既存のプロダクトの利便性も増し、お客様にとってのベネフィットも増す。そういった事業展開に近づいてきている状況ですね。

この三点が結構大きく変わっていて、本当の意味でテクノロジー企業になってきているなという印象を持っています。

DCMはenechainのどこを評価したのか?

松生:今回の投資にあたり、どういった議論になったのか可能な範囲で教えていただけますか。

DCM原:日米中に投資しているVCファームですが、1兆円取引しているビジネスは海外にもほとんどないんですね。これだけの規模になっているので、数字に関しては特に論点はなく純粋にすごいねとなった。
また、面白い特徴があって、enechainは日本の投資先の中で一番海外の投資家にうけるんですよ。「日本にそれがまだないなら、それ絶対いいね」と言う傾向が強い。アメリカのニューヨーク証券取引所の超巨大な親会社ICEもこのビジネスからスタートしているし、ヨーロッパにはEEXがあるし、皆このビジネスを知っているので、ポテンシャルに共感してくれるんですよね。
一方で、日本の投資家のほうがビジネスが新しいと感じるので理解の難易度は高いように感じます。

野澤:原さんがおっしゃった通り、日本の電力自由化は2016年4月なんですが、アメリカは1990年代後半に電力の自由化をしているので、20年先をいっているんですね。彼らはタイムマシンで未来をすでにみてきたところがあるので、歴史が証明している部分が大きいのかなと思いますね。

DCM原:アメリカやヨーロッパの投資家からすると絶対必要なピースだと思っているんでしょうね。たとえばもし家庭にAmazonがなかったら、誰かeコマースやるだろうと思いますよね。それくらいわかりやすい。これがもし日本にないんだったら誰かやるだろうと想像できるんだと思います。
ただ、僕も野澤さんに聞くまではこのビジネスの将来性や、ユーザーペイン、電力価格のボラティリティについてなどは全く知らなかった。
基本的には知らないと始められないし、知っていてもeSquareの細かい作り方は素人にはできず、なかなか立ち上げはできないだろうけど。世の中に絶対必要なんだろうという観点から、DCMグローバルチームの理解はとても早かったです。

多様な株主を迎えている背景

松生:今回のシリーズBではプロの投資家や金融機関以外にも多様な株主をお迎えしていますが、その背景は何でしょうか。

野澤:まず大前提として、市場を運営する立場なので、株主に対しても、市場運営という観点での情報隔離というのは行っています。この点については、経産省など規制機関とも調整しながら、今回の資金調達を進めてきました。

そういった前提で、今回、電力会社、新電力やガス会社、商社などのマーケットの参加者である事業会社からも出資いただいた訳ですが、一つの目的としてはフィードバックを高速で採り入れることが可能になります。マーケットプレイスを進化させていく上では、業界構造が複雑な分、プレーヤーによってニーズが多岐にわたっています。電力会社はエリアによって異なるし、電源構成の思惑も違ったりする。プラットフォームを良くするために解くべき方程式がとても難解で、高速で最大公約数をとっていかないといけない。株主となって頂くことで、フィードバックの本気度も変わってくるので、「多様な立場」の方に入って頂き、多岐にわたるフィードバックをいただくことで、プラットフォームをよりよいものに改善していけると思います。

また、今回、金融機関の方にも沢山入っていただきました。業界が大きく、1回の取引が10億円とかになるので、裏にある決済の機能が重要となってくるんですね。新しくつくっていこうとなると金融機関にサポートしていただく必要がでてきます。
実際今まで損保ジャパンさんとみずほ信託銀行さんにeClearという決済機能をサポートいただいてきました。ただeClearを導入した当時からすると今は規模感が10倍になってきているので、ここを強化していく必要も感じています。

今後のチャレンジ

松生:今後のenechainが一段とスケールしていく上でどのようなチャレンジがありそうでしょうか?

DCM原:enechainが他のスタートアップと違って珍しいのは、典型的なスタートアップではない人がめちゃくちゃいるんですよ。一般的にスタートアップに行く人は他のスタートアップと迷って行くことが多いんですが、enechainにいる人って元商社や元ガス会社といった、「スタートアップって何ですか?」みたいな人たちがいて結構面白いなと思います。なぜそうなるかというと、職種がいろいろあるからです。マーケットを利用するお客様向けにビジネスする方、政府対応する方など普通のスタートアップには珍しい職種があります。職種が多岐に渡るから採用すること自体がチャレンジ。スタートアップ人材向けの採用媒体に出してもenechainが採用したい層は見ていないし、Xもやっていない。
ただ、多様な採用は絶対必要でもある。守りも必要だし、お客様のレベルも高い、ミスしてはいけない。多くの人を沢山の職種で採用していかないとならないっていうのはチャレンジかなと思います。

松生:ありがとうございます。人事としてがんばります。

野澤:組織の話をすると、テックカンパニーになるというのは会社の中の視点でいうと最大のチャレンジだと思っています。今年の冬にK1さんという元GAFAM 2社と、シンガポールのGrabというテックカンパニーでずっと働いてきた方が加わりました。今、その方とテックカンパニーの定義についてよく議論しています。
その定義としては、我々はいわゆるよくあるテックカンパニーではなく、複雑かつレガシーな領域をテクノロジーでブレークスルーするところに、enechainならではの意義があるのではないかと話しています。
複雑かつレガシーなので普通なら考える必要のない部分をテクノロジーで変えていく必要が出てくる。逆にそこが面白いと思ってくれるメンバーが集まってきてくれています。テックカンパニーになっていく過程で、社内全員がenechain流のやり方でテクノロジーに投資していけるかが組織のチャレンジですね。

松生:原さんはnoteでテック主導型とテック強化型について書かれていましたよね。

DCM原:野澤さんと話していたシリーズA前の初期にはテクノロジーとは関係ないリアルのスモールビジネスに近い形態でした。野澤さんが一生懸命テクノロジーカンパニーになるためのステップをずっととってきて徐々に近づいてきている状態かと思います。今年間取引高1兆円のところを、これから10倍、100倍にしていくためには当然自動化は必要になってくる。ICEも結局最後はテクノロジーカンパニーになった。しかもそのテックの部分がコアになっていくと思うんですよね。

野澤:我々はリアルビジネスから入って、それをテック主導型に徐々に移行してきていて、真のテックカンパニーを目指していくというラダーを上っています。なので、ユーザーもテックカンパニーのプロダクトに寄って行動変容していただく必要があり、そこも大きなチャレンジですね。

僕は不勉強で笑、コンパウンドスタートアップという言葉を知らなかったのですが、プロダクトとプロダクトをつないでいくことは初期から構想にありました。ただ、まだプロダクト同士がつながっていない部分もある。これからテックカンパニーになるプロセスにおいてそこにもチャレンジがありますね。

松生:原さんにもう1つ質問です。DCMで数多くのスタートアップを見てきていると思うのですが、enechainならではなところがあれば教えてください。

DCM原:先ほどの話と重複しますが、色々なバックグラウンドの方がいますよね。特にビジネス職種の方のバックグラウンドは多岐にわたっているので「自分はスタートアップに向いていないかも」という人でも大丈夫というのが特徴の1つだと思います。
「スタートアップって若者がお揃いのTシャツ着ているような感じ??私は向いていないかも」と思う方もいると思う。でもenechainの雰囲気って、そういう人もいるし、ビジネスサイドで経験豊富な人もいるし、本当にいろいろなバックグラウンドの方が在籍している。先ほど、野澤さんが「コンパウンドスタートアップの言葉を知らなかった」というように、スタートアップで働いている意識がない人もいるんじゃないかなと思いますね。面白いミックスの会社である点が組織的な特徴だと思います。

ビジネスの特徴としては、本当に成長するビジネスをやっている点だと思います。僕らの投資している先でもバーティカルSaaSや業界特化型ソフトウェアのビジネスは多いです。ただ、そういう企業は一般的にDXだけやるんですね。一方で、アメリカで大きくなっていったビジネスというのは業界で起きているトランザクションに関わっているんです。ここに入っていくのは難しい。それをenechainは電力であれば「eScanもeSquareも提供している」といったように複合的にやっているので、本当に大きくなるビジネスの特徴がある点も一つ面白い部分ですね。

野澤:私たちは、電力取引に必要な機能を複合的に提供してユーザーの皆様により使って頂きやすくする垂直統合型プラットフォームになる、という戦略を掲げています。
DNAはマーケットプレイスなので、トランザクションがどれだけたくさん立つかが全てなのですが、例えばそこをサポートする決済機能としてeClearがあります。また、その上に取引支援するアプリとしてeScanという健康診断の仕組みと、eCompassという電力に特化したデータプラットフォームも提供しています。eCompassは業界の50社以上に有償で契約頂いていてデファクトスタンダードと呼べるほどになってきています。

今後の事業展望と期待

松生:参加者から「今後の事業展望と期待を教えてください」というご質問をいただいています。いかがでしょうか?

野澤:今後の展望として、テクノロジーの力で、大手事業会社に大量の取引をして頂ける深い流動性を備えたマーケットをつくっていきたいです。今回そこを期待してご出資いただいているところもあると思うので、身が引き締まる思いですし、やらないという選択肢はないと思っています。

DCM原:これだけ大きいビジネスをやっているスタートアップはなかなかないと思っています。たとえば大きくなって皆が使っていて結構前に上場したメルカリだって1兆円超えているのは最近の出来事なので、それをたったここ数年で成し遂げている会社はそうそうないですよね。また、電気って僕みたいな電力業界じゃない人でも当然毎日使っていて、無かったら困るもの。ビジネスが大きくて社会のためになることができて、かつ業界からのサポートを得られている。先日日経の一面に載っていましたが、これは本当にすごいことで、皆「日経に記事を書いてもらえたら嬉しい」というのがある中で、紙の一面に載せてもらえるということはそれだけ世の中の注目が熱いし必要とされているひとつの証拠だと思います。
電力・エネルギー業界の中でなくてはならないプラットフォームになってくれたら嬉しいなと思います。また、そういう仲間を今後も集めていただけたらいいなと思っています。

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対談イベントのまとめは以上です。いかがでしたでしょうか?

enechainは「Building Energy Markets, Coloring Our Society」というミッションを掲げ、電力から燃料、環境価値まで、あらゆるエネルギーの価値を交換できる、誰にも開かれたフェアなマーケットを通じて、日本の豊かな経済とサステナブルな社会を目指しています。

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