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私の新刊:60年かけた宿題

この記事は、『こどもの本 2022 7月号』(日本児童図書出版協会 発行)の「新刊紹介」に載せて頂いたものです。

1945年に日本が敗戦した時、私の家族は日本が統治していた朝鮮北部の  港町、鎮南浦にいました。

それから引き揚げまでの、5,6歳時の私の体験が希有なものと気づいた  のは、20代半ばのことでした。書き残さねばと取り組んで、60年近くなり、一般向けに日本語版と英訳版は出しましたが、このたび中高生向けの出版となり、宿題を終えるようで感無量です。

私の特異な体験とは、1枚の障子をへだててソ連軍大佐と3ヶ月同居したり、その大佐に追い出された私達一家7人を、近所の朝鮮人のオモニ(母親)親子が住まわせてくれたこと。また応召中だった父の知人のキム氏が、(親日派)として迫害を受ける危険を冒して支援し続けてくれたことです。

当時、町中が日本の支配から解放された歓喜と、日本人への反感で騒然としていました。脱出する日本人も多く、母も誘われましたが資金はなく、6人の子を守り通すという父との約束を守るため町に残り、ソ連軍将校の家政婦として厳しい冬を越したのでした。

この混乱の時期に、キム氏は私たちを援助したため牢に入れられ、オモニは朝鮮保安隊員の巡回に怯えながら、それでも匿い続けてくれました。

そして気づいたのは、私たち日本人は〈加害者〉として外地にいた事実で した。キム氏もオモニも日本名と日本語を強制され、オモニの夫も隣家の 主人も、日本兵として戦死。憲兵に捕まって獄死した父を持つ娘も身近に 見ました。当時の幼い私の目に残ったのは、日々の情景だけですが、日本と朝鮮の歴史の一部を目撃していたのです。

鎮南浦日本人会の方々の献身的な尽力により、私たち家族を初め、1万6千人の住民が脱出に成功しました。母は6人の子を連れ、頑張り通して郷里の 倉敷に帰り着き、父と再会できたのでした。

どの時代にも苦難や悩みはあります。物事をよく考え、自分の信念をもって行動し、何より命を大切に、他者との関係を大事にして生きてほしいという願いをこの本に込めました。


佼成出版社刊 『風さわぐ北のまちから  少女と家族の引き揚げ回想記』
       遠藤みえ子・著  石井勉・絵
                     定価 1600+税=1760円




追記:これまでに、「引き揚げ回想記」という同じ主題で6回発表したことになります。

(1)バオバブ同人誌に『藍湖のほとり』と題して、5回連載。1971/9月~                    1973/4月

(2)『脱出まで』と題し自費出版。(編集者数人に回読され)2011年 1月

(3)『1945年 鎮南浦の冬を越えて』 長崎出版社、全国版として刊行              2012年 1月

・Berlie Doherty に英訳で読みたいと請われ、1章ずつメールで送り

(4)"1945 Surviving the Winter in Chinnampo" 弘報印刷刊 自費出版。            2019年 2月

(5)"1945 Surviving the Winter in Chinnampo" 全国版として、幻冬舎刊          2019年 9月

(6)『風さわぐ北のまちから』 佼成出版社 2022年 6月20日 刊行

書店や図書館、Webでお目に留まりますよう、そして目を通して頂けましたら、この上ない幸せです。近いうちに電子書籍版にもなるそうです。

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