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(47) お客迎え

晴れてよかった! 星さんは、ふっくりと盛り上がった客ぶとんと、温もりの残る座布団にカバーをかけながら、準備第一段階終了の安堵感を、味わっていました。

あさって郷里の富士宮から、泊まり客が上京します。亡き姑の、こういう時の手順をまねて、まず夜具を干しました。雨続きなら、座敷に広げて、せめて風を通すことも教わっています。

まくら、ねまき、半天、丹前、ひも、すべて姑お手製の品々も陽に当てて、たたみ直しました。

〈ねまき〉は、それを身につけた時の、郷里の人の歓声が聞こえるようです。20年ほど前の、浅間神社のお祭りに配られた、日本手ぬぐいを数枚、縫い合わせてあるのです。郷里の町の、小さな新聞屋、酒屋、銀行などの、広告の絵柄といっしょに、自慢の富士山の雄姿まで、背や袖にくっきりと見えます。

IMG_20210911_0006 お客迎え


念入りに掃除をすませ、庭先の小菊をたっぷり手折って、家中の花を替え、献立の材料を書き抜いて、町へ出かけます。ついでに、日持ちの良い、この町らしい土産物も用意しておかなくては・・。

ぬか床につけものを仕込んで、準備完了。ここまでは、客あしらいの見事だった姑の手順通りです。

星さんに残されている課題は、当日の料理のできばえと、楽しい話題の提供だけでした。


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