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(8) つくしの団地で

でも、キリンをかかえて、一郎をたよりにして 見上げているたっちゃんを見ると、もう強くは言えなくなっていました。

「もう、のれないよ。あるかなきゃだめだよ」

たっちゃんは、すなおにこくんとうなずきました。

キリンをしまおうと、リュックのふたをあけてみると、そのうらに、もじがありました。

つくしのだんち 2-1-10 いのうえ たつお

つくしの団地というのは、坂の下の、サンダースれんしゅう場の むこうにあります。どうあっても、この長い坂道をおりなくてはならないようです。それにしても、たっちゃんは、よくこんな遠くまで ひとりでのぼってきたものだ、と一郎はおどろいてもいました。

ボロ自転車のブレーキをにぎったまま、かた手でおしながら、もうかた手は、たっちゃんの肩に手をのせて、つくしの団地へむかいました。

サンダースれんしゅう場には だれもいなくて、道とのさかいめには、夏草がしげっていました。すぐそばの8かいだてのたてものに、⑤ のすうじが 見えています。このぶんだと、② はすぐに見つかるでしょう。たっちゃんは、今は、一郎のこしのバンドにつかまって、ちょこちょこついてきます。

④ と ③ の間に、ゆうえんちがありました。男の子がひとりで、ゆうえんちのへいを相手に、キャッチボールをしています、

「たっちゃん、また、まいごになったの?」

その子が、声をかけながら、近づいてきました。しましまTシャツのむねに、名札がついています。

3年2組 すずき あきら

「うん」
たっちゃんは へいきでうなずくと、一郎の自転車のうしろにまわって
「ボチの。ボチのじてんしゃ!」
と力んで、荷台をたたきました。

「へえ、自転車をもらうの。すごいね」
あきらが言いました。

一郎はびっくりして、思わず言いかえしました。
「ちがうよ、この子、のせてやっただけだよ」

あきらがにやにやしました。

「たっちゃんが、ボチの、っていったら、ボチのになっちゃうんだよ」

「そんなのないよ!」

一郎は自転車をぐっとひきよせました。それから、はっと気づきました。 そういえば、ポケットのソーセージは 半分こになったし、自転車にのせるはめになりました。でも、そうかんたんに、トオル兄ちゃんのかたみを、 ゆずるわけにはいきません。

「きみもやられたの」
いつのまにか、一郎はあきらにそう話しかけていました。

「もっちろんだよ。ボールだろ。ぼうしだろ。ぬいぐるみなんかいっぱい。それに3りん車もね」

「へえ、3りん車も」

「みんな、古くなってたからさ。かたづいて、ちょうどよかったんだ」

あきらは、兄きぶって、そう言いました。それから、一郎の自転車をじろ じろ見ました。こんなのやっちゃえば、と言いたそうです。

「この子のうち、どこだろ」と、一郎がきくと、           「すぐそこさ」

先に立って、あきらはかけて行きます。②のたてものの、1かいのはしのベランダに、おむつがいっぱい ほしてありました。

「おばさあん、たっちゃんが、またまいごになったって」

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