(71) スーパーにて
よっこらしょっと。お咲さんは、レジで勘定をすませた後、満杯の黄色い バスケットを、近くの台まで運びました。ついつい買いすぎちゃってねえ。後悔の吐息をつきながら、持参の買い物袋に詰めこんでいますと、ツツツと台の上を走りぬけたものがあります。
おや、なんだい? お咲さんは目をこらして、台のはしにあった布きれを、のぞいてみました。頭からつっこんで、もぞもぞと尻を動かしているのは、 大きらいなゴキブリです。
ひゃっ、と出かかった声を、ひっしで飲みこみました。冷房のせいばかりでなく、寒気が走ります。
でも、ここで声を上げれば、どうなるか、年の功で見えるのです。
店員が駆けつける、人が集まってくる。この店には、ゴキブリが出るの? 不潔よっ!
一匹いたってことは、陰になんびきもいるってことよ。
クレームを言い立てる客に、頭を下げっぱなしの店員さん。
お咲さんは、そんなさわぎはごめんでした。98円の砂糖の売り出し日 には、真っ先に駆けつける、ご近所さんですから・・。
そこで、若いレジ係に、こっそり耳打ちしてあげました。
ところが、そのとたんに、彼女がさけんだのです。
「きゃあっ、わたしゴキブリなんて捕れません。きらい、きらい、きらい、大っきらいっ!」
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