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ツナギ9章(3)雪囲い

子トンたちの鳴き声で、じっちゃが穏やかな笑顔を上げて言った。

「ソルとジンが、小屋に入っておるな」

「ちょっと見てくるね」

ツナギは、思い切ったように、立ち上がった。

洞の外は、一面の雪が波のようにうねって、ふもとまで広がっている。その上を、久しぶりに陽射しがそそいで、きらめいている。まぶしいほどだ。

ツナギの道へ下ると、左手の子トンたちの小屋は、外からは小屋の中が見えないほど、雪に埋もれて見えた。

ソルがそんな風に、わざと雪でまわり全体を囲ったのだった。11月末に、大雪になってしばらく経った頃、すっかり元気を取り戻したソルが、雪を クワで集めては、せっせと小屋の外壁に沿って、押しつけ始めた。

ジンもすぐにいっしょになって、雪を集め、ソルが積んだ雪の上に重ねたり、並べたりした。2人はそれを、雪の合間をみては、やり続けたのだ。 それで、今は小屋のぐるりとひとまわり、ジンの背の高さくらいまでが、雪でおおわれている。屋根とのすきまは開いているが・・。

ツナギも時々は手伝った。ふたりは実に楽しそうに、雪のたまり場から、 運んでは囲っていた。ソルはツナギを見ると、嬉しそうに笑顔をみせた。 毒で苦しかった間、ツナギが声をかけたり、クスリを飲ませたりしたのを、覚えているのだ。前よりもずっと近づけたようで、ツナギも嬉しくなった。

ソルはほんとに賢いんだ、とツナギは心からそう思った。

干し草を小屋の中に積んでいたのは、風よけにできるし、雨や雪でえさに 困った時のえさにもできる。でも、干し草はえさとして、減ってきていた ので、今度は雪で、風が入らないように、雪が吹き込んだりしないように、壁を作るみたいに、囲いをしたのだ。

ソルはだれに教わったのだろう。雪のほらあなを作って入ると、風をさえ ぎるだけ、寒さをいくらか感じないですむ。もしかして、ソルは去年の冬、そんな風にして過した日もあったのかもしれない、とツナギは思った。

小屋の中に入ると、ふたりのまわりを、子トンとイノシシが追かけっこを していた。陽射しが屋根と雪囲いのすきまからさしこんで、うす明るい。

ツナギに気づいて、ソルが片手を上げ、ジンも同じくツナギを見て、にこっとした。そのふたりの足元を、子トンとイノシシが駆け回っている。もう 子トンとは言えないほど、ずいぶん重みをまして、大人に近づきつつある ように見える。手入れがいいせいか、肌もいい色をしている。

「えさはどうしてる?」

と、ツナギはまわりの干し草を見回してきいた。残っているのは、もう  わずかだった。返事はいつもジンだ。

「今日は晴れてるから、森へ行って、木の葉っぱを取ってくるよ。ツゲや シイの木なら、いっぱいあるし、マツの葉っぱを食べてくれるか、ためしてみる」

「ためしてみるのいいね」

「ソルが、シイの葉っぱを取ってきて、食べさせたことがあるんだ。喜んで食べてたよ。でも、雪が続いて、採りに行けなかったんだ」

かたわらで、ソルが2度3度うなずくと、両手を大きく広げて、外の遠くを指さして、にっこりしてみせた。

葉っぱなら森にたくさんあるよ、と言いたいんだ、とツナギはひらめいて、うなずき返した。

「オレも手伝おうかな」とツナギ。

「いいよ、おれたち、今は水くみと餌やりしかできないよ。じっちゃの世話をしてあげて。じっちゃに長生きしてもらわないと、みんな困るもの」

へえ、ジンが言ってくれるよ。ソルの気持ちを言葉にして、確かめている うちに、ジンは前よりずっとよくしゃべるようになり、ソルの代弁者になっていた。

「いい住み心地だよね、子トンたちに」

と、ツナギが雪囲いを見やりながら言うと、ソルが何度もうなずいた。 (そうだろ、そのつもりだもん)

ちゃんと通じているのが、なんとも嬉しい。

「葉っぱを入れるカゴが2ついるね。大きいのを洞から持ってくといいよ」

ツナギが先に立つと、2人は子トンとイノシシを、なでてやってから、ついてきた。

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