(66) 解禁日
「あれは、いったいなに者だ」
父さんは不機嫌な顔で、あごをしゃくりました。応接間の客が、敵でもあるかのようです。
「ボーイフレンドよ。恋人というべきかな」
雅子がさらりと答えると、父さんの顔色が変わりました。
「おとうさん、そう言ったじゃない。はたちになるまでは、ボーイフレンドも恋人もみとめないって。わたしは昨日が誕生日だもの。約束通り、今日は解禁日のはずでしょ」
父さんはしまった、という動揺の色を見せました。
「ご挨拶したいんですって、カレ。お願いします」
神妙に頭を下げた雅子に、父さんはぐっと口をむすんで、黙りこみました。
はらはらとようすを見ていた母さんが、台所から目くばせしました。ほらこれ・・。
一升瓶ととっくりとぐいのみを、父さんに渡すよう、合図しています。
了解、作戦一号、いよいよ実施ね!
「はいこれ、おとうさん。カレね、お酒の飲み方を教わらないと、就職先で困るんだって。カレのパパは、お酒は飲めないんだって」
「ほう、教えてほしいってか。それじゃ、ま」
父さんは、のっそりと立って行きました。
作戦2号は、母さんの得意の品で、作りたてのイカの塩辛です。父さんの大好物でした。
やがて、応接間からは、予想通り、野太い父さんの笑い声が、聞こえてきました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?