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(48) 春の交差点

かずえさんは、横山町の瀬戸物店で働いています。月末の給料日に、菜の花の花束を買いました。すきやき肉も買っていこうかな。弟の喜ぶ顔が目に うかびます。

うきうきしながら、八日町のスクランブル交差点を渡りかけました。
すると、何かが肩にふれました。ふりむくと、釣りざおを手にしたおじいさんが、すぐうしろを歩いていました。

「や、これはどうも、失礼」

おじいさんはぺこりと頭をさげました。童顔の気のよさそうな人です。  かずえさんはえくぼを見せて、うなずきました。

交差点を渡りきった時、その人がにこにこしながら、声をかけてきました。

「おじょうさん、ほら」

おじいさんが釣りざおを軽くたたいてみせました。

「釣られて、お話しませんか。ぼく、コイが釣りたいんだけど・・」

その目がいたずらっ子のように、かがやいています。
かずえさんはどぎまぎして、やっとのことで答えました。
「わたし、あの、先約があるんです」
と、花束を見せました。

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おじいさんは頭をかいて、それから釣りざおをふりながら、調子を合わせて歌を歌って、見送ってくれました。

楽しい話がきけたのかも・・。せっかくの機会を取り逃がしたような・・。ちょっぴり心のこりな夕暮れでした。


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