パラダイスティ8

私はぽかんとしていると彼のスマホが鳴った。

彼はポケットからスマホを取り出し、画面を確認すると少し困ったような顔をして再びポケットに戻した。

「出なくていいの?」

私は小声で聞いた。

「急ぎの用じゃないから。」

彼はビールを一気に喉に流し始めた。グラスが半分以上減ると彼は深くため息をついた。

「俺一度高校生の時に転校して遠くに引っ越したんだよね。今はまたここに戻ってくる事はできたんだけどもう二度と会えないかと思ってた。」

「そうだったんだ。」

全然知らなかった。私は中学を卒業してから全員と言っていい程縁を切った形になったからだ。勿論今私の目の前にいる長谷川君も含めて。

「でも元気そうで良かった。まさかここで会えるとは思わなかったけど、また会えて良かった…。」

長谷川君は少し笑顔で言った。私はありがとうと伝えた。それ以外に何を話していいか分からなかったからだ。残っていたビールを彼は全部飲み干した。そして帰る支度を始めた。

「もう帰るの?」

咄嗟に言葉が出た。

「うん、そろそろ帰らないとね。やらなきゃいけない事あるし。」

「そっか……。」

彼は財布を取り出してバーテンダーにお金を渡した。バーテンダーはいつもありがとうございますと言って領収書を渡した。

「なあ、またここに来たら会えるか?」

長谷川君が私に聞いてきた。正直なところ、ここは初めて来たしこれから頻繁に通えるかって言ったらお金の方が尽きてしまう。でも私も不思議とまた長谷川君に会いたいと思った。初めて中学生の時の同級生に再び会いたいと思えた。

「多分…?連絡先教えてよ。」

私がそう言うと彼はスマホを取り出して連絡先を教えてくれた。彼とのトーク画面によろしくねとスタンプを送った。そして彼も送ってくれた。そのスタンプはパンダをモチーフにした可愛いスタンプだった。

「長谷川君もこういう可愛いスタンプ使うんだね。」

私は素直に聞いてしまった。

「まぁね。」

彼はまた来ると言って荷物を持ってお店のドアを開けた。カウンターに置かれたお酒を見つめながら私の頭の中をあまり思い出したくない出来事がぐるぐるし始めた。

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