パラダイスティ7

私の名前を男性は発した。私はびっくりして持っていたお酒をこぼしそうになってしまった。

「えっと…どうして私の名前を…?」

「やっぱり立花だ。元気だったか?」

私はポカーンとしてしまった。

「あ、えっと…もしかして俺の事覚えてない…?」

私は男性の顔と声と話し方を必死に記憶から探し出した。そして答えが出た。

「長谷川君…。」

私の頭の中を中学生の時の記憶が一気に駆け巡った。体が少し震えるのが分かった。それと同時に涙が顔を流れてるのが分かった。

「すまん立花、何か変な事言っちゃったか?」

長谷川君の一言で少し落ち着きを取り戻した。バーテンダーもすっと水を差しだしてくれた。今この場に私を苦しめる人は誰もいないのだと気づいて涙を置いてあったおしぼりで拭いた。

「ごめんなさい、別に長谷川君が悪いわけじゃないから。」

「会うの何年振りかな?」

長谷川君の声が少し緊張しているのが分かった。最後に会ったのはいつかなんて覚えてないし、きっと中学の卒業式だと思う。7年の時間というのは早くとても遠くに感じた。

「多分中学の卒業以来だと思う。」

「立花の事一瞬気づかなかったよ。気づいた時びっくりした。」

「そっか。私、全然気づかなかった。すごい大人っぽくなったんだね。」

「そうかな?でもありがとう。」

それから私と長谷川君は長い沈黙に入った。何を話していいのか分からないし、どうしていいのか分からない。でもそれは彼も同じようだった。彼もずっとビールの入ったグラスをじっと見ていた。何分くらい誰も喋らない空間になっただろうか。もう5分くらいは誰も喋ってないと思う。そしていきなりガシャンと音が響いた。

「失礼いたしました。」

バーテンダーがどうやらグラスを割ったようだ。奥から別のバーテンダーが箒と塵取りを持ってきてササっと片づけた。

「あのさ。」

長谷川君が沈黙を破った。

「俺、中学卒業してから立花のことずっと気になってたんだよね。」

「え?気になってたって…?」

私は彼の方をとっさに見た。

「元気にしてるかなって。まさかここで会うとは思わなかったけどこうして元気な姿見れてよかったよ。」

長谷川君はそう言うと残ってたビールを全部飲み干した。バーテンダーにおかわりと言うとバーテンダーはビールを綺麗に注いで彼に渡した。

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