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そこで「はい」と言ったら大切な何かを失うと思った


どうも山ぱんだくんです。昨日の夕飯で「実は…今まで黙っててんけど…酢豚めっちゃ好き…」と言いながら酢豚食べてたら「知ってる」と即答されました。母つよしつよし。

さてさて、山ぱんだくんと月曜の理屈
第五十三回は「そこで『はい』と言ったら大切な何かを失うと思った」
いえす、ろすとまーん!

第五十三回 そこで「はい」と言ったら大切な何かを失うと思った


父は食事のマナーやら整理整頓やら日常の些細なことに厳しい。幼いころから褒められた記憶はなく、叱られた記憶しかない。そんな父がとりわけ僕たち兄弟をめちゃくちゃ厳しく叱るのは、僕たちが嘘をついた時だった。父は他のどんなことよりも嘘だけが一番許せないらしい(じゃあ他のことはもう少し許してくれよと思わんでもない)。そんな環境で育ったせいか、兄は今も嘘をつくことができないし僕はどうでもいい嘘を息をするようにつくようになった。

先日、とある会社から内定をいただいた。小さな会社だが志望する職種、第一志望ではないが他がだめだったらここで働こうと思っていた。しかしその可能性も消えてしまった。早々に内定を蹴ってしまったのだ。内定確定から三日後、短い命だった。

入社誓約書が書けなかったからだ。

入社誓約書、「特別な事情がない限り御社に入社しますよ」という約束の契約書には法的効力がないことは就活生の間では有名な話で。たとえ志望順位の高い他の会社の結果がまだでもとりあえず出しとけというのが定石であることはさすがに、知っている。それでも、出来なかった。
そうすることが何故だかたまらなく、嫌だったのだ。

厳しい父に育てられて、兄は嘘がつけなくなった。僕はどうでもいい嘘をほいほいつくようになった。誕生日を聞かれれば今日と答えるし、帰国子女?と聞かれればそうだよと答えるし通りすがりの人を「今の、妹」と言ってみたりもする。そんなどうでもいい嘘はいっぱいついてきたのに、肝心なところでは結局僕も嘘をつけないままだ。書類を書いて郵送するだけのことが、出来なかった。

そこで入社誓約書を出す人を貶めているのではない。絶対的にそっちが正しい。これで結局僕は内定ゼロだし、安全ルートはない。お先真っ暗だ。もっと上手に世を渡ってくれよと自分で自分に思うけど、仕方ない。僕の心が嫌だと叫んでいることは、僕が聞いてあげなければいけない。

変なところでつまずいて傷つく自分は厄介だが、傷つかない人間じゃなくって良かったとも思う。こんな自分の感性を、僕は結構信じているのだ。

そんな感じで内定ゼロに戻ったけど、まあ、そんなもんだ。後悔はしていないし悲観もしていない。父の教育は多分そんなに悪くなかったし今の自分の人格に嫌悪感もない。「しょうがないやつだな」とは思うけど。

#エッセイ #コラム #就活