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退職日記5 よなす惑わず

昨日、大学の先輩に仕事を辞めると言ったら彼は「えーー!!」と驚いた後、「もう、いいやってなっちゃった?」と言った。
もう、いいやってなっちゃった。その深刻すぎない感じがなんだかしっくり来て、「そうですねえ」と答えながら、少し嬉しかった。

しばらくあいてしまったが、前回の続きの日記を書く。

2月17日

再び人事と面談。

「続けてもらえるなら、四月から希望部署に異動できます。もう話も通してあります。だから考え直しませんか。」
そんなことを開口一番に言われ僕は「はぁ…」と曖昧な返事をした。

数奇なことに、時を同じくして希望部署の編集長から直接「うちにこないか」という話があった。なるほど、裏で人事から話が回っていたから、そんな風に言われたのか、と思った。

納得しながらも不思議なくらい心は凪いでいて、僕はなんで辞めるのだろうと思いながら「でもやっぱり辞めます」と言っていた。

その部署に行きたくて入社試験を受けて、なんとか入ったはずで、とりあえずちょっとでもやってみて、嫌だったらやめる。それが最善手だと分かっているのに、何故だか選べなかった。一度「辞める」と決めて、辞めた後のことを少しずつ考え始めていた心は、もうそちらを見ることも出来ないらしかった。
本当なら今辞めるべきではない、続けるべきだと頭では分かっているのにそれを選べない自分が嫌で、なんで僕は頑張れないんだろう、と思ったら泣けてきた。もう誰かに「お前には、無理だよ」と言って欲しかった。

何が無理なのか分からない。何が嫌なのかもよく分からない。ただ、誰かと話す度、会議の度、なんだか自分だけが違うルールでゲームに放り込まれてしまったような感覚だけがずっとあった。厄介なことにそれらのゲームはアメフトとラグビーぐらいに見た目がよく似ていて、僕はアメフトとラグビーの違いがよく分かっていなかった。
結局、次の日には「いろいろしていただいたのに、すみません」と謝りながら退職願を出した。「あいつよく分かんないやつだったけど、字だけは綺麗だったよな」と思ってもらえたらいいなと思いながら退職願は六枚書いて一番きれいなものを持って行った。


後日、希望部署の編集長が再び訪ねてきた。
「春から異動してもらえそうだよ!」と何も知らない顔で嬉しそうに言うので「あの…辞めることにしましたので…」とボソボソと言うと、「えぇ?!」と驚かれた。人事から話がいっていたわけではないらしかった。話は通してある、と言っていたのは一体なんだったのか。分からないままだった。