自殺

死と出会い 1話 やりばのない気持ち

大切な幼馴染はいじめを苦に自殺した。悲しみは癒えない。やつらが憎い……。 
#死と出会い #自殺 #いじめ #憎しみ #人生の幕  

 彼は十五歳という僕と同じ年で人生の幕を自ら閉じた。あまりにも早すぎる。どれだけ心の中で悲鳴を上げただろう。僕のことも信じられなくなってしまったのか。打ち明けて欲しかった。これじゃ、まるで赤の他人のようだ。

 どうやら彼は陰湿ないじめにあっていたようだった。彼は僕の親友で幼馴染でもある。僕には、思わず後を追いかけようかと思ったくらいに衝撃的な出来事だった。一体、誰がこんなに彼を追い詰めたのか……。まるで、真綿でじわりじわりと首を絞めているかのように思えた。

 ニュース番組などを観ていると、いじめという深刻な問題は双方に原因があると報道されていた。いじめる側の心理といじめられる側の心理。僕にはいじめる側の気持ちなど、まるで想像ができない。
 いじめる方は、からかったり面白半分にしかも、教師にはわからないようにやるのが最近のいじめる側の現状のようだ。いわゆる、陰湿なもののようだ。

 一方、いじめられる側は気が弱く、自己主張にも乏しく、悩みや相談などを話せる友人が少ない傾向にあるらしい。両親や祖父母がいても、心配をかけたくない、という優しい心の持ち主であることも要因の一つみたいで、SOSを出すことも意識に上らないで自らの命を絶つケースもあるようだ。

 僕は、そのニュースを観て強く思っていることがある。それは、いじめたやつらは生きているけれど、いじめられた親友はもうこの世にはいない。そのことに納得がいかないのだ。現に親友はもう戻ってこないわけだし。親友は、死に損って思う。そう考えると、僕のことはまるであてにしていなかったように感じる。

 僕の心情としては、いじめたやつらが憎くてたまらない。できればこの手で八つ裂きにしてやりたい。そんな思いばかりが頭の中を巡る。想像の中では犯人は僕の手によって、何度殺されたたことか。僕は殺人鬼の気持ちがわかるような気がした。

 僕は彼の葬儀にも参列し、家族葬でしめやかに執り行われた。とても寂しい通夜だった。そこで僕は号泣した。僕の親や兄妹も心配するくらいに。親友の雄二とは僕の親や妹のことも知っているくらい仲が良かった。まるで、家族のようだった。

 そこの場には、担任教師や校長先生、教頭先生はいた。暗い面持ちで。僕は先生達の表情は本心でそうしているとは思えなかった。教師をある程度信じていた僕は、意外にもこういう場で信頼していない自分に気付いた。だか、いじめたやつらは来ていなかった。会いたくもないし、見たくもないが、せめて祭壇の前で謝りに来て欲しかった。その後、僕がそいつらを一発ずつ殴る、そんなことを企んでいた。計画的犯行だから、実行に移すと僕の処分は重いかもしれないけれど、そんなことはお構いなしだ。僕は、善人だけど狂人のようだ。

 女子の友人、愛理も参列していた。彼女も雄二とは仲が良く、たまに三人で遊ぶこともあった。仲良し三人組のようで嬉しかった。

 愛理は通夜の席では僕の隣に座り、彼のことを思い出している時だろう、嗚咽を堪えきれない様子で漏らし、泣いていた。
 

 それから、葬儀も終わり一段落した夏の日。ちょうど夏休みでお盆の際中、僕と愛理は親友の墓前にいた。不思議と悲しみはなかった。彼女はどうだろう。まるで、雄二が今だけ悲しみを払拭してくれているかのようだと思った。

「結局、あいつら雄二の墓参りすら来ないつもりじゃ……」
そう考えると無性に腹立たしくなってきた。雄二は僕に悲しみの代わりに、怒りを覚えさせているようだと感じた。
「どうなんだろうねえ……。少しでも反省してくれると雄二も報われるんだけど……」
 僕らはここに来る前に、コンビニで菊の花の束を買い、半分に分けて供えた。離れ離れにされた菊を見て僕は、雄二を追い詰めた奴らだったらいいのに、と思った。
そして、僕は一心不乱に様々な思いを込めて拝んだ。本当の意味で仏様に向けたように拝んだ。
気付いた時には愛理に声を掛けられた後だった。彼女は僕の気持ちを察しているように、
「秀一……。大丈夫……?」
彼女は僕の前にハンカチを出していた。
自覚していなかった。あまりの思いの強さのせいか自分が涙を流している
ことにすら気付かなかった。自分が自分じゃないような感覚だ。
「あ……。ありがとう」
言いながら僕はそのハンカチで顔を拭いた。愛理の気遣いや優しさに助けられた。まるで、僕の気持ちを見透かしているようだった。
「洗ってから返すよ」
「いや、いいよ、そのままで」
「いやいや、洗うよ」
「いや、いいってば!」
ハンカチをむしり取るように愛理は僕の手首を強く握った。
「痛っ! 愛理、意外と力あるなあ」
「あ、ごめん」
そう言いながら、彼女は力を緩めそっとハンカチを僕の手から取った。そこに再度、彼女の優しさのようなものを感じた。
「いや、大丈夫。お参りも終わったし帰るか」
「秀一、これから時間ある?」
愛理は目線をこちらに合わせながら言った。
「うん、あるよ。どうした?」
「もうすぐお昼だから、一緒にランチどう?」
「お! いいな、行くか。愛理の方から誘ってくれるの珍しいな」
「そうかな。いつも誘おうと思ってたけど、雄二がいつも誘ってくれてたからね。三人で食事することはあったけど、秀一と二人で食事するのは初めてだなあ、と思って」
「確かにそうだな。あいつはいつも僕らの前だと、先陣を切ってたもんな」
「そうねえ」
「今じゃ、あいつも空の上に行っちまった」
「……」
愛理は黙って俯いた。そして、彼女は顔をあげ、
「雄二のことは一生忘れない。でも私たちにも未来があるから彼の分まで一生懸命生き抜かなくちゃね!」
と、言って微笑を浮かべながら僕の方を見た。
「そうだな!」
僕はそう答えた。

 もちろん、彼女にもいじめたやつらのことが憎くてたまらない、というやりどころのない気持ちを僕が抱えているのは愛理もわかっていると思う。それに対し愛理は、
「あいつらの処分を待つしかないよ。私たちが下手に動くと逆に悪者になりかねないよ」
 愛理の意見は全うだ。でも、僕は、
「何であいつらは今でも生き続けて、雄二は死ななきゃならないんだ! おかしいと思わないか? こんなの不公平だ」
と、納得のいかない態度をとった。まるで、駄々をこねる子どものように。
「それは……それは確かにそうだけど……。でも、私たちに何ができるというの?」
「あいつらを雇って、雄二をいじめたやつらをやっつけてもらうんだ」
「あいつら?」
「そう。隣町の中学の悪ガキどもに金をチラつかせれば簡単だ」
僕はニヤリと笑った。
「やめなよー、秀一。そんなことしたって雄二は喜ばないよ……」
「じゃあ、この気持ちは誰にぶつければいいんだ!」
僕は思わず怒鳴ると、愛理はビクッと驚いた様子だ。
「秀一の気持ちはわかるけど、さっきも言ったじゃない。そういうことをすると逆に私たちが悪者になるって」
それを聞いて苛々がピークに達した僕は、
「畜生!」
と、天に向かい叫んだ。
 僕は堪えきれず再び涙し、愛理は何も言わず、悲痛な面持ちで僕をじっと見守っていた。その時の彼女は女神のように感じられた。


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