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ミュージカル・チェアーズ

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むかし友達だった女と女の話です。
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記事一覧

ミュージカル・チェアーズ 1

 ハイウェイを飛ばすスポーツカー。なんて、いつの時代の話だろう。バブルの象徴としての遺物。でも私はハイウェイを飛ばすスポーツカーを知らない。当時スポーツカーを持っていた彼氏はいたけれど、運転しているところなんて見たことなかった。バブル時代の男たちは変に見栄っ張りで、それでいて度胸がなかったように思う。

 でも今、私を乗せて走っているのは真っ赤なスポーツカーで、高速道路を120キロで飛ばしている。

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ミュージカル・チェアーズ 2

 美智子は数年に一度私に電話をかけてくる。

 久しぶりね、から始まる電話はいつも二時間以上続いて、終始彼女の近況報告を聞かされる。今誰それと付き合ってるんだけど、彼、私よりナヨナヨしてて嫌んなっちゃう。食事は必ず折半だし、メニュー一つ決めるのにすごく時間かかるし、予定をキャンセルするとぶすくれるし、お酒も滅法弱いの。それでいて私を守りたい、なんて言うのよ? バカみたい。セックスも全然面白くなくて

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ミュージカル・チェアーズ 3

 美智子の家族のことはあまり知らない。美智子が話したがらないってのもあるけれど、私自身興味がなかった。私立の高校を出てから定職にも就かずぶらぶら男と遊んでいられるのも、全部親のお陰なのだ。昔、一度だけ家族に対する不満を聞いたことがある。親に子供生むなって言われてるんだけど、酷いと思わない? 海辺を歩いている時、私に向かって叫んだ言葉。本気で怒っているようには見えなかった。

 だからといって家族同

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ミュージカル・チェアーズ 4

 卒業式の日、私は美智子からキスを受けた。

 式が終わって、みんなめいめいに別れの挨拶をしている時だった。私は美智子に卒業してからも友達だからね、と言った。その瞬間、彼女が私の背中に腕を回してきた。酷い泣き顔だった。別れるなんてヤだよお、そんなことを言っていたと思う。大袈裟だよ、そう言いながら笑いかけようとした時、美智子が私の唇に素早くキスをした。

 周りのクラスメイトは気づいていなかった。ま

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