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【Endeavor Insight】スペイン🇪🇸のスタートアップエコシステムは次のステージへ

※本記事は2023年10月に発表したEndeavor Insightによる記事です。

スペインは今、スタートアップ・エコシステムの成長において重要な時期を迎えています。2008 年の金融危機以降、スペインは大きな進歩を遂げ、いくつかの大規模な起業家の成功を経験してきました。しかし、スペインにはスケールアップ企業にとっての現地の投資家がまだまだ不足しており、現地でのイグジットの価値の多くは国外で蓄積されています。この状況が変わらなければ、スペインのエコシステムは、現地の成功事例からの資本と人材の再投資から生まれる好循環を経験できないでしょう。現地の創業者、投資家、政策立案者はそれぞれ、現地のエコシステムの発展を可能にする役割を果たす必要があります。
 
エンデバー・インサイトでは投資データを分析し、40 人以上の創業者、投資家、専門家にインタビューして短期および長期戦略を策定しました。スペインのスタートアップ・エコシステムが次のレベルに到達するには何が必要でしょうか?


2022年の世界的なVC不況のスペインへの影響

近年、スペインはスタートアップ・エコシステムにおいて力強い成長を遂げています。下のグラフが示すように、スペインでの取引件数と投資資本は2010年から2021年にかけて大幅に増加しました。しかし、同国はVC市場の世界的な減速の影響を免れることができませんでした。世界金融危機、そしてパンデミックへの対応として10年以上続いた低資金の時代は、2022年初頭に終わりを迎えました。パンデミック後の金融不況は、大幅な評価額の引き下げ、不確実性、資金調達の凍結を伴っています。

※エンデバー・インサイト分析|PitchBook データ(2023年7月)

スペインは、主にアーリーステージの企業の割合が多いため、他の先進的なスタートアップ・エコシステムよりもこれらのトレンドの影響を受けにくい傾向があります。アーリーステージの企業価値評価は、上場企業やグロースステージ以降の未上場企業よりもプレッシャーが少ない結果となりました。

同時にスペインにはスケールアップ企業の数が少ないため、下のグラフに示すように、2021年から2022年にかけてのイグジット数の減少は他の大規模な欧州市場よりも深刻ではありませんでした。ドイツと英国では、エグジット数がそれぞれ32%と18%減少。スペインとフランスでもイグジット数は減少しましたが、減少率は7%未満となりました。

※エンデバー・インサイト分析|PitchBook データ(2023年7月)

スケールアップを目指すスペインのアーリーステージ企業は、回復力を備える準備をする必要があります。スペインの多くのスケールアップ企業は、2020年と2021年の評価額に達する見込みはありません。スケールアップ企業の創業者は、今後18か月以内に追加の資金調達を回避するため、または資金調達が必要になる前に時間を稼ぐために、バーンレートを下げてバランスシートを強化する必要があることにすでに気づいています。高い評価額で資金調達できなかった企業も、市場の状況を考えると、同様の再調整に直面することになります。

外国投資家への依存

ローカルの VC はエコシステムの成長に貢献してきましたが、成長資金には依然として海外投資家が必要です。以下のタイムラインは、2000 年代にスペインの VC 企業が急成長し始め、その後、いくつかの大規模なイグジットとユニコーンの達成が続いたことを示しています。ローカルの VC 企業のリーダーの何名かは、自身の会社をイグジットに導いた創業者から資金提供者に転身した人々です。創業者が率いるスペインの VC の数は多く、海外のプレーヤーから高い評価を得ています。これらの投資家はローカルの市場、優れた起業家とは何かを理解しており、会社を設立する際に強力な仲間のネットワークを構築してきました。

スペインVCのマイルストーン

  • 2001-2008

スペインでは、Adara VenturesAxon Partners GroupBullnet CapitalCaixa Capital RiscInvereadyNauta Capitalなど、ローカルのVC企業が次々と設立されました。そして2008 年に、スペインの金融危機いわゆる「スペイン大不況」が始まりました。

※青緑色のリングは起業経験者主導の VC 企業を示しています
  • 2009-2013

Big Sur VenturesFaraday Venture PartnersJME VenturesKibo VenturesSabadell Venture CapitalSeaya Venturesなど、さらにいくつかのローカルの VC 企業とサポート・イニシアチブが設立されました。2011 年、Telefónica はスペインとラテンアメリカ向けのテクノロジー・イノベーションハブである Wayra を立ち上げました。2013 年、Fundación Innovación Bankinter は独自の VC プログラムを立ち上げ、スペインの国営銀行 Institute de Crédito Oficial(ICO)は、あらゆる開発段階にあるスペイン企業に投資する民間 VC ファンドの設立を促進するために、ファンド・オブ・ファンズである Fond-ICO Global を立ち上げました。

※青緑色のリングは起業経験者主導の VC 企業を示しています
  • 2014-2019

2014年、オンライン旅行プラットフォームeDreamsがスペイン初のユニコーン企業となったタイミングで、エンデバーは影響力の大きい起業家精神を支援するためにスペインにオフィスを開設しました。さらに4Founders CapitalAll Iron VenturesBonsai PartnersEncomendaGaldana VenturesKFundMundi VenturesSamaipata VenturesSwanlaab Venture FactoryTheVentureCityなど、いくつかのローカルVC企業が設立されました。2018年には配車サービスCabifyとフリマアプリLetgoがユニコーンとなり、2019年にはオンライン・デリバリーアプリGlovoがそれに続く形となりました。

※青緑色のリングは起業経験者主導の VC 企業を示しています
  • 2020-2023

COVID-19危機は2020年に始まりました。それでも、DX支援サービスCopado、SaaSプラットフォームDevo、HRソフトウェアプラットフォームFactorial、イベントキュレーションプラットフォームFever、オンライン決済サービスFlywire、不動産プラットフォームIdealista、就職マッチングサイトJobandtalent、旅行管理サービスTravelperk、EV自動車チャージャーWallboxなど、2020年から2022年にかけてさらに多くのスペイン企業がユニコーンの地位を獲得しました。スペインの大手銀行BBVAは、イノベーティブな企業に金融サービスを提供するために2022年にBBVA Sparkを立ち上げました。COVID後の市場の低迷は2022年に始まり、2023年まで続きます。

ローカルのVCファンドは成長しているものの、国内の新進世代の創業者を支える国内資本はまだ十分ではなく国際資本は依然として不可欠です。ローカルのVCには、より大規模なラウンドに対する、既存の需要を満たすための資金がまったくありません。成長資金として外国人投資家は依然として重要であり、彼らは資金以外にもリソースと知識を十分に提供してくれるため、スペインの関係者は彼らと良好な関係を築き、エコシステムにとって最良の取り決めを確保する必要があります。
 
創業者にとって最良の投資チームとは、多くの場合、ローカルの投資家と国際的な投資家が協力し、互いに補完し合うチームです。両者のパートナーシップが機能するためには、信頼関係を築き、投資先企業の将来について共通のビジョンを共有する必要があります。スペインの VC は、アーリーステージの企業を育成しサポートするためのローカルのネットワーク、知識、能力を備えています。
 
特に欧州および米国の大規模なグロース・ファンドからの外国人投資家は、スペインに将来性があり、成長の可能性を秘めた有望な起業家を一貫して輩出していることから、スペインに魅力を感じています。グロースステージの創業者にとって、国際的な拡大、資本管理、企業構造、リーダーの選出に関する外国人投資家の専門知識は非常に有益です。国際的な VC が、共同投資から取引フローの共有まで、ローカルの投資家とのつながりの価値を認識すると、その相乗効果はローカルのエコシステムに利益をもたらすのです。

スペインが直面する課題

ローカルのエコシステムにおける障害がグロースステージの資本を妨げていますが、それらは特定可能で、克服可能です。現地の VC コミュニティには楽観的な見方がありますが、グロースステージの資本の必要性に対する切迫感は十分ではありません。
 
2023 年に 20 社を超えるスペインの VC を対象に実施した調査では、ほぼ 90% が”スペインのVCの状況について前向きに感じている”と回答しました。しかし、”グロースステージやレイターステージ”の企業に重点を移している"と回答したのは 5% 未満でした。これは、ローカルの投資家がより大きなラウンドを引き受けることができないということを示唆しています。
 
スペインのベンチャー・エコシステムは、他のヨーロッパの主要国よりも成熟段階が早い段階に位置しています。フランス、ドイツ、イギリスはそれぞれ、過去 10 年間のさまざまな時点でこのフェーズを超えました。以下のグラフは、取引件数と投資資本総額の両方の観点からベンチャー・エコシステムの成長推移を示しています。既存の VC 取引数のうち、スペインではグロースステージまたはレイターステージの企業向けはごくわずかであり、これは特にヨーロッパの主要市場と比較すると顕著です。

スペインの現地の政策と規範がこの状況の一因となっています。より多くの資金にアクセスするには、現地のファンドが年金基金や保険会社などの機関投資家を含む大企業にアプローチする必要があります。これらの機関は資本を持っているものの、現地のVCにはまだ十分に関与していません。多くの国では、VCファンドは公的ファンド、富裕層個人/ファミリービジネス、機関/企業にそれぞれ3分の1ずつに分かれています。スペインでは、最後の3分の1はあまり活発ではありません。

インタビュー対象者によると、年金基金の資本要件は制限されているため、VCへの投資は他のオプションよりも魅力が低く、年金基金や保険基金がVCに投資しやすくするための改革が必要であることが明白です。
 
機関投資家の関心を引くためには、長期間にわたって高いリターンを出し続ける必要があります。金利が上昇し、2つのアセットクラスのリターンの差が縮まると、社債などの「リスクの低い」アセットクラスがVCよりも魅力的になり始めます。また、規制障壁が緩和されたとしても、年金基金や保険基金がVCに資金を投入する気になるまでには、しばらく時間がかかるかもしれません。
 
多くの野心的なスペインのVCは、投資先として国外に目を向けています。Nauta Capital は資本の 3 分の 1 をスペインに投資し、英国とアイルランド、北欧にほぼ同額を配分しています。Seaya Ventures や KFund などのスペイン企業は、スペインとラテンアメリカ全域に資本を配分しています。Samaipata や All Iron Ventures などの他の企業は、ヨーロッパ全土に投資しています。
 
投資の優先順位の変更を促す規制改革を実施するには、ある程度の時間がかかりますが、達成可能な目標です。これらの障壁が取り除かれると、ローカルのエコシステムはグロースステージの資金調達能力を高めることができるでしょう。

スペインの市場制約の課題

短期的な視点では、スペインはスケールアップの可能性を秘めた影響力の大きい起業家を数多く輩出しているものの、市場の制約により、成長が困難になっている状況です。特に、大規模な現地ファンドの不足とコロナ後の金融不況が相まって、成長資金を調達する選択肢が限られています。エコシステムの既存の制約を克服するには、創業者は弱気な相場を乗り切る方法と投資家に何を期待するかを知っておく必要があります。
 
エンデバー・インサイトは、20 人以上のスペインの投資家にインタビューを行いましたが、その多くはアーリーステージの企業に焦点を当てています。インタビューの結果から、スケールアップ段階では、投資家は主にビジネスの財務効率と実行可能性を実証できる創業者に関心があることがわかりました。言い換えれば、彼らは基礎を正しく理解している創業者を優先するということです。

エコシステムの成長を加速させるために必要なこと

長期的には、スペインのベンチャー・エコシステムの将来は、成功の価値を保持し、再投資できるスケールアップ企業やローカルの成長ファンドをさらにサポートできるかどうかにかかっています。
 
好循環を実現するために、スペインにはアーリーステージを終えて、大規模な投資ラウンドを主導し、大きなイグジットに導くローカルの投資家が必要です。外国投資に頼ることは、地元の富の創出と経済成長の機会を失うことを意味します。スペインのエコシステムは、次の大規模な起業家のイグジットの前に、自国で生まれた成功から、より多くの価値を保持できるように今から準備する必要があります。
 
下のインフォグラフィックが示すように、スペインの企業はその成功から驚くべき価値を生み出してきましたが、生み出された富は主に外国人投資家の利益になっています。2018年以降、スペインで起きた10件のイグジットは、総額80億ドルを超えています。しかし、これらの企業の投資家の5人に4人近くはスペインに拠点を置いていませんでした。(スペインの投資家は少額で早い段階で参加する傾向があることを考えると、イグジットで得た富のうち外国人投資家に渡る実際の割合はさらに高い可能性があります。)
 
参加投資家の数が最も多い海外の国は、米国、英国、フランスでした。スペインのローカルの投資家がスケールアップへの資金提供を主導すれば、国内市場でより多くの価値が維持され、エコシステムが変革されるでしょう。

注: 2018 年以降にスペインで完了した最大のエグジットに関する情報は、2023 年 10 月に Fundación Innovación Bankinter の Startup Observatory から取得。エグジットの価値は、PitchBook、Reuters、El Referente、Xataka から、投資家に関するデータは、PitchBook から取得。

スペインには、複数の資金調達ラウンドを経た高成長企業がもっと必要です。高成長企業は、イグジットを提供し、リミテッド・パートナー(LP)に利益をもたらし、将来のファンドを可能にし、創業者を資金提供者に変えるのです。
 
新世代の VC は 2010 年代半ばに最初の資金を調達しました。つまり、最初の大規模なイグジットとファンドのクロージングは、今後数年間で実現し始めるはずです。過去 10 年間に行った投資で LP に大きな利益をもたらすことができれば、エコシステムにさらに多くの資金が流入するでしょう。
 
スペインのVCも考え方を変える必要があります。より大きな資金を管理することに価値があることを認識する必要があるからです。創業者主導のVC企業は、資金調達の経験があり、現地の創業者と投資家の両方にとっての現地取引のメリットを理解しているため、大きな資金の価値を示すのに有利な立場にあります。
 
スペインがより多くのスケールアップ企業と独自の成長資金を生み出せば、国内経済はより大きな富と価値を維持することになります。国内に資金を多く留めるということは、将来のスペインのスケールアップ企業により多くの資金が利用可能となり、エコシステム開発の自己推進サイクルが継続されることを意味します。

世界中の経験豊富な創業者から学ぶ教訓

スペインで次世代のスケールアップ企業を築くために新進気鋭の創業者は、より困難な市場で企業を成長させ、経験を積んだ成功した起業家から学ぶ必要があります。
 
エンデバーの起業家エコシステム開発における世界的な専門知識を活用し、国家危機、マクロ経済の不安定性、不利な市場状況を切り抜けてきた世界中の経験豊富な起業家から逸話やアドバイスを集めました。彼らは難しい決断を下し、予測不可能な時代をうまく切り抜けて会社を率いてきました。彼らの物語は、アルゼンチン、ギリシャ、インドネシア、メキシコの創業者よりも有利な状況で事業を運営しているスペインの創業者に、希望とインスピレーションを与えるでしょう。
 
ここで、何名かの起業家のストーリーを紹介します。資金調達から製品開発まで、起業の様々な側面に関する彼らのストーリーや戦略を自身の状況に照らし合わせ適用することは、スペインの起業家にとって、市況に左右されることなくサバイブしていくためのティップスとなるでしょう。

起業家ストーリー① Kevin Aluwi氏|Gojek🇮🇩

起業家:Kevin Aluwi
企業名:Gojek
エリア:インドネシア🇮🇩

Gojek は、東南アジアで食品配達、配車サービス、エンターテイメント、決済サービスなどを提供するスーパーアプリです。創業者の Nadiem Makarim、Michaelangelo Moran、Kevin Aluwi が率いる同社は、2010 年の設立以来急速に成長し、評価額は 100 億ドルに達しています。
 
新しい市場に参入して成功するには、十分な資金、時間、労力を投入する必要があります。Gojek はインドネシアだけでなくシンガポールやベトナムにも進出しており、以前はタイでも事業を展開していました。Aluwi 氏は次のように説明しています。「グローバル展開は間違いなく刺激的な成長機会の 1 つです。やると決めたら、正しく実行してください。私たちは、新しい市場の初期段階で十分な時間、労力、チームの能力、資金を投入しなかったという間違いを犯しました。チームの構築、顧客の獲得、マーケティング、ブランディングに投資する必要があります。これらの側面には多額の投資が必要です。多額の投資がなければ、既存の競合他社がいる新しい市場に参入して成功することは非常に困難です。」
 
同社はパンデミックの初期段階で困難に直面し、2020年に400人以上の従業員を解雇することになりました。共同CEOのAndre Soelistyo氏とKevin Aluwi氏は、正直さと思いやりを持って状況に対処し、Gojekの前進に力を入れました。スタッフに宛てた手紙の中で、彼らは次のように書いています。
 
「私たちは外部環境に対応し、より強力で効率的なビジネスの構築にさらに注力する必要があります…コアサービスに注力し、この期間中に存続不可能になった垂直分野を閉鎖し、変化する顧客ニーズに大胆に賭けることで、将来の成長を確保しながら、何百万人もの人々の生活に引き続きプラスの影響を与え続けることができると信じています。」
 
Aluwi氏によると、Gojekは最低限必要な退職金以上の金額を支給し、影響を受けた従業員が新しい仕事を見つけられるようにデータベースを作成。彼の次の仕事は、解雇後の数週間で士気を高めることでした。Aluwi氏は次のように語っています。
 
「6~8週間後には、会社の将来のビジョンと人々が期待できることについて、人々を団結させる方法を考え出さなければなりません。誠実に、厳しい決断から生まれたプラス面を見つけてください。人々が団結できるような、力強く刺激的なメッセージを伝えることが重要です。」

起業家ストーリー② Loreanne García Ottati氏|Kavak🇲🇽

起業家:Loreanne García Ottati
企業名:Kavak
エリア:メキシコ🇲🇽

Carlos García Ottati、Loreanne García Ottati、Roger Laughlinによって2016年にメキシコで設立されたKavakは、中古車のオンラインマーケットプレイスです。同社は2020年にメキシコ初のユニコーンとなり、評価額は87億ドルです。

  • 早い段階から投資家との関係を築く

共同創業者のLoreanne García Ottati氏は、「初日から投資家と関係を築くために時間を投資する必要があります。最初から、Carlosは何年も先のことを考えていました。彼は、私たちがまだ1台も車を売っていないときでさえ、投資家とつながり、私たちが誰で、何をしているのかの最新情報を共有していました。私たちがある程度の規模に成長したとき、彼らはすでに私たちのことをよく知っていたので、資金調達のために彼らのもとに戻りました。こうした関係のおかげで、必要なときに資本にアクセスすることができました。」と話しています。早い段階でネットワークを構築することで、Kavak の創業者達は投資家の心に常に残り、その過程で彼らから有益なフィードバックも受けました。

  • いくつものシナリオを準備しておく

パンデミックの間、Kavak の創設者達は、リスクマネジメントとプランニングのためにリーダーシップチームを 2 つのグループに分けました。Loreanne 氏によると、「私たちは終末に備える必要がありましたが、状況が異なるシナリオがあるかもしれないと考えました。これは私たちがこれまで経験したことのない状況でした。そこで、リーダーシップチームを分割しました。人事部門と財務部門はニュースをフォローし、最新情報を把握し、ラインごとのコスト削減に注力しました。リーダーシップの残りの半分、つまり製品、技術、営業部門には、ニュースを追わず、顧客のニーズと私たちにできることに集中するよう依頼しました。」現在、Kavak のリーダーシップチームはそれほど明確な分岐を維持していませんが、成長と最適化の両方を計画しています。

  • 企業文化の醸成は重要な資産

Kavak の創設者達は、強力なチーム文化の構築に細心の注意を払ってきました。Loreanne 氏は次のように話しています。「初日から、最初の 30 人が文化に完全に合致していることを確認するために多くの時間を費やしました。なぜなら、初期の従業員は、会社が成長するにつれてその文化になるからです。私たちは、投資家との関係を築くのと同じ方法で採用に取り組みました。人を雇う前に、強い適合性があることを確認しながらチームを構築しました。長期的な関係を築き、私たちの仕事について学ぶよう人々に勧め、連絡を取り合い、彼らをチームに迎え入れる適切な時期を探しました。」

起業家ストーリー③ Marcos Galperin氏|Mercado Libre🇦🇷

起業家:Marcos Galperin
企業名:Mercado Libre
エリア:アルゼンチン🇦🇷

NASDAQ に上場した最初のラテンアメリカのテクノロジー企業である Mercado Libreは、時価総額が 600 億ドルを超える e コマースの大手企業です。1999 年にアルゼンチンで Marcos Galperin氏、Hernán Kazah氏、Stelleo Tolda氏によって設立されました。

  • 最高の製品を作ることに集中する

ドットコム・バブル後、Mercado Libreの競合他社はマーケティングやできるだけ早く上場することに重点を置くという間違いを犯しましたが、Mercado Libreは魅力的な製品を作り、有機的に成長することを優先しました。製品が弱かったため、競合他社は顧客を引き付け、維持することができませんでした。彼らの多くは閉鎖されるか、Mercado Libreに買収されました。一方、Mercado Libreの創設者は自社の製品と成長の可能性に自信を持っていたため、2002年にeBayによる買収を拒否しました。彼らが受け入れる意思のある最低額はeBayの提示額の2倍以上だったからです。2023年現在、Mercado Libreの時価総額はeBayの2倍以上です。

  • 危機に直面した際には、迅速に行動し、新たな機会に適応する

パンデミック発生当初、Mercado Libreは不確実な状況に備えており、最終的に売上高を2倍に増やすことができました。Galperin氏は「私たちは非常に機敏に行動し、迅速に行動しました」と語っています。同社はすでにラテンアメリカ全土に保管センターを建設しており、流通システムに空き容量がありました。Mercado Libreは、ビジネスにアクセスできなくなった販売者から在庫を受け入れることで、この余剰容量を活用しました。同時に、同社はパンデミック中に成長するために必要な予防措置とシステムを確立。Galperin氏は、「保管センターと流通で働く人々のために、私たちは追加のリスクを負い、社会にとって基本的な仕事をしている人々の安全と補償に多額の投資をしました。」と当時を振り返っています。

  • 他の市場に参入することで、収益源を多様化し、製品ラインナップを絞り込む

Mercado Libre は成長の初期にアルゼンチンから他のラテンアメリカ諸国に事業を拡大しました。これにより、同社はアルゼンチンを超えて収益源を多様化できただけでなく、規模とパフォーマンスのレベルを向上することにも成功しました。Galperin 氏は次のように振り返ります。「メキシコでは、Amazon との競争を始めました。今日、Mercado Libre がこのような会社であるのは、Amazon との競争があったからです。世界最高の企業と競争しなければならない場合、パフォーマンスのレベルを大幅に向上させるか、負けるかのどちらかです。その後、Amazon がまだ存在していなかったラテンアメリカの他の地域にも、そこで学んだことをすべて適用しました。」

起業家ストーリー④ Dimitris Vassos氏|Omilia🇬🇷

起業家:Dimitris Vassos
企業名:Omilia
エリア:ギリシャ🇬🇷

2002 年に Dimitris Vassos 氏と Pelias Ioannidis 氏によって設立された Omilia は、企業に顧客サービス用の会話型 AI ソリューションを提供する革新的なギリシャのテクノロジー企業です。同社は 17 カ国の顧客にサービスを提供しており、300 人以上の従業員を抱えています。

  • サプライヤー依存から脱却することで製品をコントロールする

成長の初期段階、Omilia は、競合相手にもなりつつあるサプライヤーへの依存という課題に直面していました。Vassos 氏は、より多くの技術スペシャリストを雇用することで、Omilia の音声認識技術の開発を社内に移行しました。彼は次のように振り返ります。「当社の製品に対する商業的および技術的なコントロールを完全に持つことは、当社の成功にとって最も重要でした。その代償として、市場投入までの時間が遅くなり、研究開発費が増加しましたが、現在では競合他社よりもはるかに強力になりました。」この動きは功を奏し、社内の技術能力が高まったため、Omilia は潜在的顧客に対してよりカスタマイズされた柔軟な条件を提供できるようになり、顧客獲得を加速させることに成功しました。

  • 会社のビジョンを貫く

Omilia は、ドライブスルー注文の自動化に関して大手レストランチェーンと魅力的な契約を結びました。Vassos 氏は、「この課題を解決するために必要な基礎技術はすべてすでに持っていました。また、顧客は研究開発費として多額の金額を支払う用意がありました。莫大な市場機会のある新製品を開発して高額の報酬を得て、最初の顧客が保証されるなら、考えるまでもないことだと思いました」と述べています。しかし、この契約は結局、Omilia の時間とリソースをかなり消費することになりました。Vassos 氏は、「その後、私は会社をコアビジネスから遠ざけ、その結果、コアビジネスの研究開発とパイプラインにギャップが生じていることに気付きました。教訓は、行うすべてのことは意図的で、コアビジョンに沿ったものでなければならないということです。」と話しています。

スペインが学ぶべき勝つための戦略

スペインのスタートアップエコシステムは現在有望な状況にあり、高成長企業を生み出す可能性を十分に秘めています。現時点ではイグジットへの道は魅力的ではありませんが、現在の不況は過ぎ去ります。その間、意思決定者は政策改革とプログラムを遂行し、将来のイグジットとスペインのVCへの機関投資家や企業投資家からの大規模な投資の基盤を築く必要があります。

フランスから学ぶ、スタートアップエコシステム

フランスのスタートアップコミュニティと政府は、起業家に利益をもたらす支援機関と法的枠組みを構築し、過去 10 年間で驚異的な成長を遂げた活気あるエコシステムを生み出しました。2012 年、フランスの起業家と投資家が結集して、政策立案者に彼らの声を届ける擁護団体 France Digitale を結成しています。現在、この団体は数千人の会員を擁し、政府と緊密に連携しており、フランス財務省内にも専用の連絡窓口を設けています。
 
2013 年に設立された公的イニシアチブ La French Tech は、大きな転換点となりました。フランスの起業家のための全国的なコミュニティとして、資金とサポートを提供し、創業者と投資家や他のエコシステム関係者を結び付け、彼らがベストプラクティスを共有するためのプラットフォームとして機能しています。
 
また、2013 年には、数十億ユーロの資金を管理する公的投資銀行 Bpifranceも設立され、起業家に直接資金を提供するとともに、ファンド・オブ・ファンズを通じて VC にも投資しています。その結果、ローカルの VC 企業の能力が強化され、時間の経過とともにより大きなラウンドを遂行できるようになりました。
 
フランスの法改正は、同国の投資家と起業家の両方に利益をもたらしました。2015年、政府はより柔軟な投資構造を作るための改革を実施し、有限責任事業組合(「SLP」として知られています)を認めました。以前は、このタイプの投資手段は国内では利用できず、投資家はイギリスまたはルクセンブルクを経由する必要がありました。2019年に可決されたPACTE法は、企業の法的手続きを簡素化し、企業の税負担を軽減し、従業員の利益分配コストを削減しました。フランスのその他の政策には、イノベーションに対する税額控除の付与、従業員持株制度の制限の撤廃、外国人創業者、投資家、専門家を誘致するためのフランスの技術ビザの創設などがあります。
 
La French Techは、フランスの公共部門が起業家精神に関する統一された課題を追求するための中心的な調整機関として機能しています。同組織は、フランスを世界的に起業家国家として位置付ける強力なブランドとメッセージング・プラットフォームを構築しました。La French Tech を通じて、政府は地元のユニコーン企業を生み出す積極的な政策を展開しており、これを成功の指標として追跡しています。2019 年、政府は 2025 年までに 25 社のユニコーンを達成するという目標を設定しました。実際は3 年早い 2022 年にその目標を達成したため、2030 年までに 100 社のユニコーンを達成するというポジティブな目標修正が行われました。同国は2022 年にスタートアップエコシステムが調達した資金が多い唯一のヨーロッパの主要国となっています。
 
スペイン政府は、政府機関、資金、政策改革を活用して急成長する起業家を支援するという点で、フランスから多くのインスピレーションを得ることができます。スペイン初のスタートアップ専門法は2022年に制定され、正しい方向への一歩を踏み出しました。
 
French Tech Madridの共同創設者であり、OVHcloud Startup ProgramのリーダーであるJonathan Clarke氏は、「スペインには多くの強力なローカル・テクノロジーハブが存在しています。問題は、それらを結び付け、French Techのように中央集権的なものを推進することです。French Techは中央集権的で政府主導ですが、それを民主化し、地方支部を通じて結束を築くことに成功しています。」と述べています。より統一された起業家のアジェンダと地元のコンセンサスがあれば、スペインはヨーロッパの次のユニコーンの育成地になることができるでしょう。

ラテンアメリカから学ぶエコシステムの醸成

ラテンアメリカにおける初期段階の起業家の成功は、ラテンアメリカのエコシステムの成長と成熟の基盤を築きました。この地域のスケールアップの第一波のリーダーシップと地元投資家の長期ビジョンは、スペインにも応用できる教訓を持っています。価格比較サイトのBuscapé や自動車のオンラインマーケットプレイス Movileなど、初期段階で成功した企業の多くは、アーリーステージの企業との取引に積極的で、彼らに正当性と成長の機会を与えました。
 
ラテンアメリカのスケールアップの第一波は、起業家精神をより受け入れ、称賛する文化の大きな変化にも貢献しました。優秀な学生はかつて金融や投資銀行でのキャリアを求めていましたが、過去 10 ~ 20 年間で、最も優秀な学生がテクノロジー系スタートアップに参画したり、独自のスタートアップを立ち上げたいと志す傾向が高まっています。
 
成功した創業者や経営幹部の中には、地元の投資家になった人もいます。Mercado Libreの成功は、元共同創業者のHernán Kazah氏と元 CFO のNicolás Szekasy氏による Kaszek Ventures の設立につながりました。彼らは、非常に成功した起業家としての評判のおかげで、ブラジルやその他のラテンアメリカの企業に投資するための最初のファンドを調達することができました。最初の LP には、Mercado Libreの同僚や投資家、そしてMercado Libreの大成功を追ってきた海外の LP が含まれていました。
 
Kaszek Venturesはアーリーステージに特化したファンドとしてスタートしましたが、取引の流れにより、より大きなラウンドへとステップアップすることができました。投資した企業、特にブラジルのフィンテック企業 Nubank は、非常に好調だったため、アーリーステージ・ファンドの資金が尽き、最初のレイターステージに向けたopportunity fundも立ち上げました。最初のファンド設立後、彼らは大学や慈善団体からの資金調達に注力してきました。これらの団体とは、Kaszek Venturesの立ち上げ以来、長期にわたる信頼に基づく関係を築いてきました。2011 年から 2021 年にかけて、Kaszek Venturesのファンドの規模は 1 億ドルから 10 億ドル近くにまで増加しました。
 
創業者から資金提供者になった人々を含むスペインの投資家の戦略的思考は、長期的にエコシステムの繁栄を可能にするでしょう。Kaszek Venturesのようなラテンアメリカの投資家が成功したのは、起業家精神のリーダーとしての評判と、焦点を絞った投資戦略によるものです。彼らは、他の投資家が投資しなかったブラジルやアルゼンチンのような不確実な市場に投資する意欲があり、それでもなお、ユニット・エコノミクスがしっかりした信頼できるビジネスにのみ投資しています。

インドのエコシステムを押し上げた積極的な政策とVC

インド国内のVCの成長と先進的な政策は、海外投資家が残したギャップを埋めることに成功しています。大陸規模の経済を擁するインドは、スタートアップエコシステムにおける成長資金の供給体制の構築において大きな進歩を遂げてきました。2000年代前半から中頃にかけて、国内のVCはインドから帰国した投資家によって運営され、アーリーステージの企業に重点が置かれていました。レイターステージのラウンドは、特に2010年以降、Tiger Globalのような大手海外投資家が中心となっていました。しかし、2015年にインド経済が後退すると、多くの海外投資家が市場から撤退していきました。
 
しかしその時点で、ローカルのファンドマネージャーの初期プールは、ギャップを埋めるために独自の成長段階のファンドを設立できるほど十分に大きくなっていました。彼らには、FlipkartredBusCitrusなどイグジットを経験した企業へ以前から投資しており、より多くの経験と資本があったため、十分なキャパシティを持ち合わせていました。これらのイグジットにより、エコシステムへの信頼感も構築され、投資家は有望な企業にさらに多くの資本を提供できるようになりました。
 
インドのエコシステムの初期段階では、いくつかのスケールアップ企業がダウンラウンドで資金調達を行い、最終的にはより持続可能なビジネスモデルで立ち上がるなど、回復力を発揮していました。電子商取引大手のFlipkartは2012年に最初のダウンラウンドを調達。同社の共同創業者Sachin Bansal氏は後に、「より高い評価額を確保するためにラウンドを遅らせるのではなく、もっと早くに資金調達を行うべきだった」と振り返っています。同氏とCEOのKalyan Krishnamurthy氏はともに、Flipkartのダウンラウンドは企業のキャップテーブルを再構築し、長期的な持続可能性を確保する機会として機能したと考えています。
 
起業のしやすさを改善し、テクノロジー企業に公的資金を提供する政策改革、および企業提携やインキュベーターの増加により、インド市場における企業数と資金額は大幅に増加しました。これらの初期段階のサポートシステムが追加されたことで、VC投資家がレイターステージに進出する余地も生まれました。Kae Capitalの創設者である Sasha Mirchandani 氏は、「政府の役割は全体としてプラスに働きました。政府は、ファンド・オブ・ファンズの設立、税制優遇措置の提供、規制改革やその他の問題について、私たちのような利害関係者と話し合うなど、さまざまな方法でベンチャー・エコシステムを支援する努力をしてきました。」と述べています。
 
ローカルのVC企業が管理する資本の増加に関して、Mirchandani氏は、「LP投資の大部分は基金、ファンド・オブ・ファンズ、大規模なファミリーオフィスから来ており、そこに本当のお金がある」と指摘しています。「インドのVC市場は飛躍的に成長したが、国内市場の規模を考えると、さらなる成長資本の必要性がまだある」。Sachin Bansal氏やFlipkartのBinny Bansal氏など、著名なイグジットした創業者による富の再投資を含む、こうした多様な資金源の組み合わせにより、インドのVC業界は時間とともに成熟してきています。
 
スペインのベンチャー・エコシステムは、インドほどではないものの、ローカルの投資家がより大きなラウンドに参加できるよう準備を整える時期にきています。スペイン政府がローカルのVCに投資する40億ユーロのNext-Tech Fundを設立する動きは、その方向への前向きな一歩となり、スペインの投資家は、これまでよりも大きなラウンドに参加できるようになるでしょう。

※「1,000万ドル以上を調達した企業数」とは、少なくとも1,000万ドルを調達したVC支援企業を指しています。「1億ドル以上のVC投資家数」は、VCを展開し、少なくとも1億ドルの資産を管理している機関投資家を指しています。これらの指標のデータは、2023年10月時点のPitchBookから、「これまでに生み出されたユニコーン数」のデータは、Dealroom、Brazilian Report、Inc42から取得しています。

正しい行動をとればスペインは繁栄する

他国のベンチャー・エコシステムの経験から、スペインにはグロースステージのファンドとスタートアップ企業が増え、成熟する可能性が秘められていることがわかります。ローカルの創業者、投資家、政策立案者がそれぞれ役割を果たせば、この国のエコシステムは繁栄し、さらに拡大するでしょう。スペインの起業家は、より困難な市場で大規模で持続可能なビジネスを構築している創業者の経験からインスピレーションを得るべきなのです。
 
ローカルのVCは、よりレイターステージでの取引に参画することで、より多くのスケールアップ企業の台頭を支援するよう努めるべきであり、政策立案者は、起業を促進する環境を作るために、改革と起業に関する統一された国家計画の実施を検討すべきです。これらの要素が最終的に収束すると、スペインは起業の世界的な拠点として台頭し始めるでしょう。

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