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ロシア

夏休みに入り、アルバイト三昧で荒稼ぎしていた頃。

俺の事を気にかけてくれる祖母が「帰ってこい」とあまりにしつこいので、仕方なく2泊3日ほど帰省することになった。

これは東京から東北行きの新幹線に乗っていた時の出来事である。


幸い平日で空いていた新幹線の自由席。
右側の窓際の席に座ることにした。

しばらくして窓の外を眺めていると、いくつかの駅でロシア人家族が俺の隣の席に座る。

けっこうな大荷物だったので、恐らく旅行だと思う。


左側にパパさんと3歳ほどの娘さん、俺の隣の席にはママさんとママさんが抱えた赤ん坊がいる。

残念ながらロシア語は少ししか分からないので何を言っているのかは理解できないが、楽しそうに会話している家族の会話をただ微笑ましく思いながら再び窓の外へと視界を移した。



一駅過ぎた頃だろうか。

突然赤ちゃんがグズり初めた為パパさんがスーツケースから何かを取り出そうとして、ママさんは体を揺らして赤ちゃんをあやす。

思わず気になって様子を横目に見ていると、ママさんが体を揺らしてこちらに背を向ける度に赤ちゃんの顔が覗いては不思議と目が合った。


その綺麗に透き通った水色の目を見た瞬間、何故だか溺愛する弟の事を思い出してある物を取り出す。

それは大きめの本と、俺が唯一持っているぬいぐるみのフクロウである。

このぬいぐるみは少女のように遊んだり可愛がるわけでもなくずっと傍に置いているもので、帰省する事が決まった日も鞄の中にそれとなく入れておいたモノだ。



大きめの本と一緒にフクロウのぬいぐるみをこっそり取り出した俺は、本を壁代わりにしてチラチラとフクロウ見え隠れさせる。

所謂いないいないばぁ的なアレ。

すると赤ちゃんはグズるのをやめて、興味津々でフクロウを目で追いかけ始めた。

よし、食いついた。と目で遊ばせてると、速攻でママさんにバレて「Thank you」と頭を下げられる。

少しだけ恥ずかしい気持ちになったが、「Don’t worry about it.」と返して赤ちゃんも泣き止んだのでそっとしまった。


さらにしばらくして駅弁も食べ終わり、3歳の女の子がママさんの元へやって来た。

するとたまたま買っていた駅弁が新幹線の容器だった為か、女の子が興味津々で触ろうと手を伸ばしてくるのをママさんに止められる。


その様子を見てゴミを素早く片付けておしぼりで容器の頭の部分を全部拭い、一番カッコイイ頭の部分だけ「降りるまでいいですよ」と貸してあげる。

女の子が嬉しそうに遊んでるのを見て、微笑ましい気持ちになりながらお礼を言うママさんに「良いんですよ。旅行ですか?楽しんで」と伝えた。

ロシアかぁ。
師匠は元気にしてるだろうか。

そう思いながら、窓の外に広がる懐かしい田畑を目に映す夏の午後だった。

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