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お前はどこまで行ける?:傑作韓国ドラマ『怪物(Beyond Evil)』ネタバレなし感想

2023年11月現在、NetflixとAmazonプライムビデオで見放題配信中の傑作韓国ドラマ『怪物』をみて気が狂ったので、気が狂ったとかいう言葉は使わないほうがよいですがどうしようもなくなってしまったため、とりあえず感想を残しておきます。サスペンス(ミステリ?)作品のため、ネタバレなしの感想になります。

あらすじ―この閉鎖的な場所にいる、「怪物」を追う者たち

ドラマ『怪物』は、2020年・韓国のムンジュ市にあるマニャンという町を舞台に、(連続)殺人鬼を警察官ふたりが追ってゆくサスペンスドラマです。
ほとんど正反対なふたりの主人公たちがビジネスパートナーとして、時に(というかほとんどいつも)ぶつかり合いながら、20年前から続く謎を明らかにしていきます。

主人公のひとりは、韓国の不完全な法律に皮肉な目を向けながら、ある面では反抗として法を遵守している節のあるマニャン派出所の巡査部長:イ・ドンシク。彼の双子の妹は20年前、「10本の指」だけを残し失踪。ドンシクはその事件の犯人として濡れ衣を着せられ、一度容疑者として逮捕された過去を持ちます。視聴者目線だとかなり怪しい素振りを見せることもありますが、親切な男として地元の人々からはとても愛されている人物です。

普段は飄々としているものの、20年前のトラウマを抱え続けている警察官:イ・ドンシク
©JTBC Studios Co., Ltd. all rights reserved.

もうひとりの主人公は、警察大学に首席で入学し首席で卒業した超秀才・根っからのエリートである警部補:ハン・ジュウォン。彼の父親は韓国警察組織のナンバー2として、次期長官をのぞまれる人物です。潔癖症でいけ好かないこの坊ちゃんは、とある事情でソウルからマニャン派出所へと異動してきます。

「爽やかな坊ちゃん」:ハン・ジュウォン
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ハン警部補はマニャン派出所へ異動してすぐに、ドンシクのパートナー(パトロールなど業務を共に行う2人組のこと。描写から察するに、師匠と弟子のような強い関係性でもあるようです)に任命されます。そんな折、第一関節から先の指を切り取られ、祈るような姿勢のまま白骨化している女性の遺体が発見されます。かつて自宅の庭先に並べられていた妹の指を思い出すドンシク。過去に容疑者だったことのあるドンシクに疑いの目を向けるハン警部補。このいびつな関係のふたりによって、20年にわたってマニャンを覆ってきた「怪物」の正体が徐々に明かされてゆくことになります。彼らがたどり着いた悪の彼岸には、一体何が待ち受けていたのでしょうか。

この作品の推しポイント―自分自身にすら知られていない秘密を抱えたままで

あらすじ以上のことを書くとネタバレになってしまうので、この作品のどんなところに惹かれたかを書き残しておきます。ぜひ第1話だけでも観てください(必死)。

①あまりにも演技派すぎる主演のシン・ハギュン

ソース不明ですが韓国では「演技の神様」とか呼ばれているらしいシン・ハギュンは、主人公イ・ドンシクを演じました。みている間ずっと「怪物、なんなら1話の最初から映ってるんだよな〜」と思わせるくらいバケモノ級の強度のお芝居をし続けており、第1話ですかさず彼のファンになりました。これからも一生ファンです。ありがとうございます。
毎話しんどい展開(要は山場)が訪れるのはドラマ作品なので仕方ないのですが、そのたびに違った「怒り」や「悲しみ」、「やるせなさ」を視覚的に示してくれるシン・ハギュン。トラウマを抱えるドンシクのあやうい心と、彼が20年かけて培ってきた「大人のガワ」という人格が不安定なバランスのまま成熟したさまをこれでもかと見せつけてくれました。20年前に強制的に止まってしまったあの頃の自我と、その後無理矢理に成熟させた40歳の自我の同居がそのたたずまいから見て取れる気さえしてきます。マジで最高だった。

追記:これを書いた当初はシン・ハギュンに心底狂っていたためハン・ジュウォン役で同じく主演をつとめたヨ・ジングについて触れないという暴挙に出ていますが、間違いなくこの怪物級の俳優ふたりの化学反応によって素晴らしい作品になっています。ありがとうヨ・ジング!

②覚悟「で」キマっている登場人物たち

この作品は、2000年と2020年(現在)のふたつの時点を往復するような形で進行していきます。その20年間になにが起こっていたのかは、一部の描写と登場人物たちの口から語られるいくつかのエピソードをのぞいて直接的には描かれていません。私たちは、20年という長い年月―登場人物の一部の人たちにとってはほぼ人生といえる時間ですが―を彼らがどんな気持ちで何をして過ごしてきたのか、ほとんど知る由がないわけです。
この物語は、殺人にまつわる罪を追い、しかるべき仕方で罰を与えんと奔走する人々を描いています。しかし、人を裁きにかけるにはもちろんそれ相応の覚悟が必要とされます。彼らは20年という年月の中で覚悟を醸成してきていますが、もはやそれはほとんど人格にもなっており、もっといえばほぼ彼らの人生ですらあります。「警察官としての覚悟が決まっている」というレベルを完全に超越した、自分の血肉を作り上げたその20年を背負って真実を追う様はあまりにも泥臭く、哀しく、神々しいとさえ言えます。

バディに銃向けるなんていうかなり最高な展開もあります。生きててよかった~~
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③素晴らしいサウンドトラック

これは説明するより聴いてもらったほうが早いと思うのですが、サントラもすごく素敵な作品でした。みている間は作品と一体化しているのでエンディングテーマ等々音楽がメインとして使われている曲以外には中々注目する機会もありませんでしたが、あらためて聴きなおすといろんな思い出がよみがえってしんどいです。
「10 Fingers Memory」とかいう「いいのそれ?」みたいなタイトルの曲がお気に入りです。

④他ジャンルの入り込む隙を見せないプロット

この作品、あらすじからお察しのとおりかなり辛いストーリーではあるのですが、たとえばそれを少しでも緩和しようとコメディパートが入ったりだとか、せっかくイケメン出てるし!みたいなノリで雑な恋愛パートが入るみたいな隙がぜんぜんありません。ずっとつらくて、重くて、悲しい。ただ自分たちの抗うべきものだけを見据え、そのために行動する登場人物たちの様子が真っ向から描かれています。

「怪物を捕まえようとするとき、追う方はどこまでやれるのか?」「怪物を捕まえるには、こちらも怪物になるしかないのだろうか?」「完全ではない法律を守りながら悪を探し出すことは可能なのか?」「不正を犯さなければ裁けない罪は、一体どうすれば正当に罰することができるのだろうか?」
こういうテーマをまっすぐぶつけてくるため、登場人物たちに降りかかる様々な非情な事実が、いち視聴者である我々にも重くのしかかってきます。結構な打撃を受けますが、それにより没入感が増すところが素晴らしいです。

おわりに

あまりの面白さにイッキ見をして、最終話を見終わったあとには放心し、その数時間後には登場人物たちの幸せを願うあまりはらはらと涙を流していました。今でも祈り続けています。慌ただしいですね。
傑作なのでぜひ、死ぬまでには、頼みます。

お気に入りのシーンのひとつ。物騒でだいすき…
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もしあなたの家族が家に帰って来ないことがあれば、お近くの派出所へ相談してくださいね。

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