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2.額装とは

まず”額装”の定義について可能なかぎり考察してみたいと思います。”額装”という言葉を辞典を紐解いて調べてみると「絵画・写真などを額に仕上げること(大辞林)」と出てきます。額に仕上げる。なんとなく思い浮かべることができるけど、具体的に何をするのかよくわからない感じの表現です。仕上げるということは手を加えることでより完成度の高いものへと変えることを意味するのだとすると、額に入れることで絵や写真がより完全なものになるということになります。うーん、わかったようなわからないような変な気分になります。そこでまずこの辺のことを少しずつ解きほぐしていきたいと思います。”額装”とはいったいなんなのか。

額装という言葉の”装”という文字から、額装とは額縁に装丁することとぼくは考えています。装丁するという言葉からほかに思いつくのは本の装丁でしょうか。実際のところ、額装は本の装丁と似ているところもあります。本の装丁では作品(文章やタイトル)に対して紙や表紙、フォントや余白などのデザインを整えながら一冊の本を作り上げていくのだと思います。やったことがないのであくまで想像ですけれど。対して、額装は作品(カードなど)にさまざまな紙で装飾を施したり裏板を作ったりして、ときには全体のバランスを取るデザインを施してひとつの作品として完成させていきます。(同じような言葉に掛け軸などの表装というものがあります。額装とは額に表装することという説明も見たことがあります)

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話を進めます。まず普通に額縁屋さんで額装してもらうと、このようなマットを入れてくれるサービスがあると思います。油絵なんかだとぴったりとした額縁に入れることもありますが、そうでない場合ひとまわり大きなサイズのフレームを用意し、マットをいれてあいだに余白を作ることで、中に入れる作品を印象的にしたりより大きな作品に見せる効果を出すのですね。こうしたマットはオーダーした額縁のサイズと中身のサイズに合わせて額縁屋さんでカットしてもらうもので、紙の種類や色合いをいくつかある見本のなかから選んでいくことになります。(最近ではコンピュータと連動したマット・カッターなどで、複雑な装飾を施したり自在にカットできたりもすると聞きます)

これが一般的な額装だと思います。ただこの方法だと先ほど少し例に出した本の装丁のように作品に合わせて、紙の種類やフォントの種類や大きさを細かく選んでいくような自由度の幅がない気がしてしまいます。マットのボードの種類は既成のものでかぎられていますし、あくまで余白の部分を作るだけになってしまうから。ただ額装にはほかにもいろいろと方法があり、このマットと呼ばれている部分を手作業で工芸品のように作ることで自分の好きなように仕立て上げることもできます。このコラムで扱うのはこちらの手仕事としての"額装"です。もちろん、手仕事と言ってもある程度の機械化された道具も用いたりしますが、基本は昔ながらの手作業の延長線上にある技術でひとつの作品として仕上げていきます。

余談ですが、むかしはこうしたマットのボードに窓を開ける作業もすべて手作業で行われていました。サイズを合わせたり、斜めに切り込みを入れるのもすべて職人の手が生み出す技術で行われていたのです。なので美術館などで古い作品を見る機会があったら、中身の作品だけでなく周辺のマットの部分も注意深く見てみるといろいろ発見があっておもしろいです。あきらかに人の手でカットされたとわかるものがあり、切り込みが深かったり、はみ出していたり、不格好かもしれませんがああ昔の人たちはこうして手で時間をかけてカットしていったんだなと感慨深い気持ちになります。

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言葉だけで説明してもわかりにくいと思うので例を上げてみます。たとえばこれはぼくが以前に古いメルセデスのポストカードを額装した作品です。ぱっと見て、カードのまわりにあるビゾー(斜断面の意味)と呼ばれている部分の幅が広く、特殊なかたちになっていることに気づくと思います(カードのイラストの疾走感みたいなものを表現するために斜めのかたちにしています)。そしてカードの絵柄に合わせて、チェッカーフラッグ柄の紙とコースのブルーの色の紙が使われていて、カードの世界観を引き立たせるアクセントになっています。このような感じでなかに入れるものに合わせて自分だけのデザインを作ることは機械やマット・カッターだけではなかなかむつかしく、まだまだ手仕事の方に軍配が上がると思うのです。

こんな風にカードに合わせたマットを作ること、そしてはじめにでも少し触れた裏板をつけて閉じ込める作業をすることで、作品を飾りたてつつ、保護し、ひとつの完成品としてパッケージングする。ぼくはこの一連の作業をまとめて額装だと思っています。もちろん額装にはこれと決まったルールがあるわけではないので、こうしなくてはならないという決まりはないと思いますが、自分の好みのかたちに仕立てることができる額装というものがこの世界にあることを知ってもらえるとうれしいです。手仕事とか職人の技とか言われると、大変そうとか堅苦しそうとかそんなのたのしいの?と思われる部分もあると思いますが、自分の好むかたちにデザインしたものが世界にひとつだけの美しい作品になるのはなんとも言えない気分になります。次からそのたのしさについて少しずつお話してみたいと思います。

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