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3.歴史

定義の次はかんたんな額装の歴史について書いてみたいと思います。”定義”とか”歴史”とかいう言葉を聞くだけで耳に栓をしたくなるかもしれませんが、おおよそにでも成り立ちを知ることで、根底にある文化だったり、見方のヒントを与えてくれることもあると思うのでぼくの知るかぎりの範囲で説明してみます。大雑把にでも歴史を知ることは額装のひとつの側面を理解することにつながると信じて。

といってもぼく自身詳しく調べたわけでも丹念に文献を読みあさって得た知識というわけでもなく、ただ教えてもらった話を思い出しながら書くだけなので、ぼくはこんな感じで理解しているという程度の内容です。

ではまず額装はどこからやってきて、いま現在どのあたりにいるのか。そのあたりのことを考えてみたいと思います。最初は額装の名前から。額装はアンカードルモン(Encadrement)と呼ばれています。フランス語で額装を意味する言葉です。まずフランス語でCadreがフレーム(額縁)を意味していて、アンカードルモンで額装。ぼくが発行しているフリーペーパー(でありこのnoteのタイトルにもなっている)アンカードラー(Encadreur、フランス語で額装家、額装屋の意)もこの言葉に関係しています。言語からもわかるようにこのコラムで扱っている額装は主にフランスにおいて発達した文化です。フランスにおいては国家資格もあり、アート作品の保護から大切なものを額のなかにおさめることまで資格を持った額装家が店を開いています。まあこれはぼくの推論ですが”額装”という言葉を聞いてもあまり馴染みがないのは、おそらく世界でもフランス周辺でしか広がっていないからかもしれません。ただ額にマットをあてることは世界中で一般的なことなので、もっと広がっていてもいいのにと思うのですけどね。

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といっても、額装の技術がフランスだけで発達したわけではないようです。額装の基礎的なテクニックのひとつにビゾー・クラシックというものがあります。45°でマットをカットする額装のなかでも一二を争うくらいよく使われる技法なのですが、またの名前をビゾー・アングレと呼ぶそうです。アングレ(anglais)というのはフランス語で「イギリス人」や「イギリスの〜」を意味する言葉で、この45°にカットする技法がイギリスから伝わったとのことです(実際にはイギリスでは分厚い紙を45°でカットしていて、フランスでその方法が取り入れられカットした部分に色紙を貼って装飾を施したことに由来しているみたいです)。普通の額縁屋さんでもマットを45°でカットしてもらえますし、「2.額装とは」に少しだけ登場した市販の写真用のマットもこの45°のカットが施されています。これらはすべて元々古きイギリスで作られていたマットに由来しているのかもしれないと思うとなんだか不思議な気持ちになります。

余談ですがぼくが額装を学びはじめたころ、独学でも知識を深めようとネットでいろいろ検索をかけて調べてみたことがありました。フランスの文化であることは知っていたので、あえてそこは外してアメリカなど英語圏の国に絞って調べてみたのですが、額装する(framed)という言葉はありますがこうした保護を目的とした額装の方法は出てきませんでした。かわりにピクチャーフレーミング(picture framing)という言葉がよく出てきて、こちらはフレーム(額縁)を主に作ることを意味するようです。額縁を作る方法は本当に山のようにでてきて、あまりの額装の情報のなさに途中から額縁を作るのもいいなあと思ったりしたこともありました。

話を戻します。額装はやや乱暴な言い方をするとヨーロッパでアート作品を保護するためにできて、なかでもフランスで高度な技術や保存方法が確立されたといってよさそうです。これが基本となる額装の歴史。そしてその技術を守るために資格制度があるのでしょうね。フランスでは街中にそれこそ本屋や薬屋やパン屋と同じように額縁屋兼額装屋があって、作品に合わせて額と額装をオーダーするのが一般的でした。雑誌やInstagramなどで海外の部屋の写真を見たりすると、壁や棚に本当にたくさんの額が飾られています。映画でよく見かけるような大量の家族の写真だったり、自分の好きなアートの作品だったり。日常の生活のなかに額を飾るという文化が根付いています。

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そうした額装をする人たちのなかで保護を目的のアート作品とかではなく、好きなポストカードやグリーティングカード、バースデーカード、果てはお菓子のパッケージなんかを自由に趣味的に額装しようという動きが出てきたのだと思います。そもそも保護を目的としていないので、額装の技術は用いますがいろんな部分でカジュアルなあまり本式にこだわらない額装のスタイルが生まれました。本来ならば額装は縁の下の力持ちというか、職人だし、作品が主役なので自分のカラーみたいなものを主張しないものなのですが、自分の好きなものを入れるのだからもっと遊びを加えてもいいだろうということで、わりと自由な技法がいくつも考案されました。ぼくはこのどちらかというと本式ではない、趣味的な額装の世界をたのしんで探っています。

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これが大雑把な額装の歴史みたいなものです。保護を目的とする額装があり、そこから分派するかたちで趣味的な額装が生み出されました。そして、ぼくがこのコラムで書いていくのはそのどちらかというと堅苦しくないカジュアルな額装についてです。カジュアルな額装ではとくにルールや正解はないので、材料や技法などそれこそ自由に試すことができます。自分の好きなものを好きなように額におさめることができるってなかなかに素晴らしいことだと思いませんか。その自由な額装のたのしさについてさらに探ってみたいと思います。

*雑誌の写真は上がTodd Selby『The Selby is in your place』下が『Spaces volume.2』

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