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1.はじめに

“額装”という言葉なんとなく意味がわかりそうですが、具体的に何?と問われると答えるのがむつかしいこともあるので、この連載のようなものでとりあえず額装というものについて説明したいと思います。

フリーペーパーを作っている関係で、紹介のときに「額装をしています」と伝えることがあります。すると「額装?それはなにをしているのですか?」と訊かれます。当然の質問として。そんなとき一言で求められている回答を捻り出すことがとてもむつかしく、いつももどかしい気持ちになります。質問者もなんとなくはわかるのだけれど、具体的なこととなるとよくわからないから訊ねているわけです。訊かれたぼくもなんとか彼、彼女の疑問を払拭する答えを伝えようとして「額縁と中に入れる作品のあいだを装飾したり、中身を保護するために処置を施す仕事」とかなんとか言っている自分さえよくわからないピントのズレた説明を試みるのですが、やはりというか伝わらないことが多いです。それはそうですよね、自分でもよくわからない説明なのですから、伝わらなくて当然です。

そういう場合、実際に額装した作品を目にしてもらえるとわかってもらえることも多いです。百聞は一見にしかずというやつです。写真ではなく実物を見てもらうと構造やどうなっているのか、おおよそのところを察してもらえるからだと思います。それでも絵を描いたり書を書いたりしているわけではないため、何を作っているのかよくわからないと困惑されることもあります。時には「額縁(フレーム)を作る方ですか?」と訊かれることもあります。いや額縁を作っているわけではないです、と答えるわけですが、額装が文化として広まっていない部分もあるので、そういう勘違いが起きてしまうのは仕方のないことだと思います。ぼくだって始めたばかりの頃は額装がなんなのかさっぱり理解できなかったのですから。でも、額装にまつわる背景を深く知ることで見えてくるものもあるのですね。そしてそれはとても奥深くおもしろいものでもあります。それを少しでもお伝えできればと思います。

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ひとつ例をあげてみます。日本で額に入れるというと、このような留め具で裏板を固定したあと、額縁本体についている金具に紐をつけてぶら下げる方法が一般的だと思います。留め具を外すことで中身を何度でも取り替えることができる。これは日本だけでなく多くの外国でも同じかもしれません。でも、この方法でひとつの作品として完結しているのだろうか?と考えると中身を入れ替えられるのだからまだ完成していない仮の状態なんじゃないかということができる気もします。もし自分の作品を入れて渡したのに、いつのまにか中身を別のものに差し替えられて額縁だけ使われていたら少しショックですよね、まあ写真とか何度も入れ替えられて便利なのですけれど。

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ぼくのいう”額装”では裏板自体に金具を取り付け、パッケ(パッケージの意)という作業を行い、ホコリなどが入らないよう作品を額縁のなかに閉じ込めてしまう手法を用います。額の裏側がこのような感じになっているのを見たことがある人は少ないかもしれません。こうすることで中身を自由に取り替えることはできなくなりますが、中に入れた作品を保護し、作品を長期間に渡って守ることができます。なかなか額装された作品の裏側をじっくりと見る機会はないかもしれませんが、こちらの方がきれいに整っている風に見えませんか?

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また留め具で裏板を固定するわけではないので、額縁の深さに関係なく自由になかに入れるものの厚みを調整することもできます。定期的に中身を入れ替えたい要望がある場合には不便なわけですが、それゆえにひとつの作品のためだけに誂えられたうつくしさがあると思うのです。

もちろん、留め具には留め具の良さがあり(時折ぼくも利用します)、ケースバイケースということになりますが、一般的な留め具を使った留め方以外にも作品を閉じ込める方法があるのです。このような感じで額装の様々な技法を知り、その世界を少しだけ触れるだけでも、日々目にする日常の世界に対する視座のようなものが少し変わるのではないのかなと思ったりするのです。

これはひとつの例ですが、これから連載するこのコラムではそんな”額装”についてのこととその”額装”の世界を歩み始めたぼく自身のことについて可能なかぎり紹介してみたいと思います。額装の世界は深く、ぼく自身まだ入り口に立ったところという気がしているくらいなので、すべてをお伝えすることはむつかしいと思います。また文章といくつかの写真だけで説明するという表現方法にも限界があり、わかりにくいところがあるかもしれません。それでもこのコラムが終わる頃には少しでも額装についての理解が深まったり、どんなことでもよいので額装について興味を抱くきっかけになったらいいなと思います。

それでは額装の世界へようこそ。

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