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ナチの悪について、3本の映画をきっかけに考えた/『関心領域』『サウルの息子』『ヒトラーのための虐殺会議』

映画『サウルの息子』を見た。

<簡単なあらすじ>

アウシュヴィッツ゠ビルケナウ収容所に収容されたユダヤ人・サウルは、ゾンダーコマンド(ユダヤ人の死体処理などを担う部隊)として働いている。ある時、ガス室で生き残った自分の息子と思われる少年を見つけた。その少年はすぐにナチにより殺されるが、サウルは彼を埋葬するために動き出す。

先日公開された、同じくホロコーストを主題とした映画『関心領域』の感想を読むなかで、この映画に言及している人が多かったのをきっかけに見てみたのだが、描き方は対極であるものの「見せない」という点では共通項があり、たしかに『関心領域』を語る上で言及されるのはわかるな、と感じる作り方の映画だった。

『関心領域』では、映し出される映像はほぼすべて、収容所の隣に住む収容所長家族の生活だ。収容所の外側で、ホロコーストを行う側がどのように暮らしていたのかの描写と内側から聞こえてくるおぞましい音を通じて、ホロコーストを描いている。映像も定点カメラで撮られており、客観的に、外から作られた映画だ。

一方の『サウルの息子』は、サウルに密着した、サウルの視点での、極めて主観的な撮り方が用いられている。冒頭、ピンボケした映像が流れて、なんだろうこれ?と思っていたらある男性(サウル)が現れて、そこからはずっとサウルのアップや、サウルの背中越しに見る世界などの映像だ。

しかし、ゾンダーコマンドとして働くサウルが目にしているであろうナチの蛮行や、死体などははっきりとは描かれない。映像の端の方や、後ろの方でぼかして表現されている。

これはおそらく、サウルの心が麻痺していることや、日々目の前のことに必死であることを表現しているのではないかと思う。目の前の死体に心が動かなくなること、目に入らないこと、それを通してもホロコーストの恐ろしさを描いている作品ではないかと考えた。

同じく描かないタイプのホロコーストに関する映画として、『ヒトラーのための虐殺会議』が挙げられる。

この映画には、アウシュヴィッツの中はもちろん、建物すら出てこない。「ユダヤ人問題の最終解決」を議題とする会議の様子のみで構成された映画だ。

こちらもAmazonプライムでの配信開始をきっかけに先日に見たのだが、ただの官僚会議のような顔をして、平然と人を殺していく計画を立てているところに言いようのない不気味さを感じた。

ホロコーストを内部から描いた『サウルの息子』、近い外部から描いた『関心領域』、この中の最も遠い場所からの『ヒトラーのための虐殺会議』、それぞれの作品にナチが登場するが、登場するナチは距離が近づくほどに暴力的になるのに、離れれば離れるほど気持ち悪く狂気じみて見えた。外の人間ほど、本質的にやばいことをしている。

そしてこれらの映画を見ていて、ホロコーストにおけるナチの悪を考える上で、外が重要な概念なのではと改めて感じた。死体処理はユダヤ人にさせてドイツ人は関わらない(ホロコーストをある意味外部化している)とかそういうこともあるが、そもそも、ユダヤ人をドイツ人の外部に置き、自分たちとは決定的に異なるものとすることでホロコーストは成立している。

偏った思想をもとにユダヤ人を外部に置き、最終解決のためのプロセスを合理化し、心理的に負担のあることはドイツ人以外にやらせる。こうして行われたのがあの巨悪だったのだと思う。

しかしこうして文章に書いてみても、やはり真の意味でわかることが全然できない、ずっとわからない。たしかに、そうすればできるのかもしれない。できそうな気はする。でも最後のところで、いや、それだけじゃできないだろと思ってしまう。思ってしまうほうがいいのだろうけど。

ナチズム研究者である田野先生は、下の記事の中で「想像を絶する悪を、自らの理解に収まる簡単な答えや単純な言葉だけで理解しようとするのは、事態の深刻さと見合っていないんです」とおっしゃられていた。

わたしはこれまでナチがどうしてああなったのか、ナチの悪とはどのようなものかを理解したいと思い、いろいろと文献を読んできたが、勉強すればするほどわからなくなる。先に書いたように、説明は読めるし、書いてあることもわかるのに、なぜか理解できないような感覚がある。

でも、この言葉を読んで、理解できなくて当たり前なのかもしれないと思った。とはいえ、理解できないからといって、知ろうとしなくていいわけではない。理解はできなくとも、知り、考えることを続けていきたい。


『関心領域』の感想もよければ。


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